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2023.05.19

FC町田ゼルビア躍進の立役者・黒田剛監督、プロでも高校でも貫くリーダー論

高校サッカーの強豪・青森山田からJリーグFC町田ゼルビアの監督に就任してたった半年、J2で首位を走る黒田剛監督。開幕前、あるサッカー専門誌の予想で「最初に解任される監督候補」にあがっていたが、それは180度覆った。昨シーズン15位(全22チーム)に終わったチームを蘇生させた黒田監督の手腕はどのようなものなのだろうか。今回は監督論、リーダー論、そして人生論にも迫る。2回目。連載記事はコチラ→【#1

監督という職業。孤独、重圧、不安との戦い

——高校とプロチームの「監督」の違いはどう感じていますか?

黒田 30年前と、20年前と、10年前と、5年前と、今とではそれぞれ違います。選手が違うし、自分の存在意義も違いますし、また注目度も違うし、期待度も違う。プレッシャーや孤独感は今がピークです。当事者でないとわからない重圧や不安に常に追われている感覚が生活として続いていくわけで、どこの監督も同じだと思いますが、目に見えない恐怖と日々戦っている状況だと思います。

ひとつ間違えれば誹謗中傷されることもあり、特にプロチームの監督になってからは多いですね。メディアがたくさんいる世界に飛び込んだことで、試合の勝ち負けだけでなく、ファン・サポーターや相手チームのファン・サポーターとの関係性も考えると、改めてこの仕事の難しさを感じます。

——監督という職業の面白さは?

黒田 監督であること自体には意味はありません。ただチームというひとつの組織の中でリーダーとしてチームの一体感を高め、ひとつの作品を作っていく面白さや魅力、やり甲斐は大いにあると感じています。

チームメンバーとのコミュニケーションを大切にし、相手チームとの関係性も含めて、共に仕事をするための信頼関係を築くこと。また、自分自身を成長させ、信頼されるリーダーになることが、監督としての存在意義だと感じています。選手と心を通わせ、共に戦い、勝利のために良い時間を共有し、人の心に寄り添えるリーダーであることを常に目指しています。

スタッフワークを何より重視、スタッフは「チームの中のチーム」

——高校サッカーとプロチームの監督を経験された指導者は、布啓一郎氏(元・市立船橋高校監督、現・VONDS市原監督)と黒田監督だけです。そこでお聞きしたいのですが、指導者として自分に課しているルールなどはありますか。

黒田 スタッフを含めひとつのチームであるという考えを一貫して大切にしていて、スタッフやコーチ陣は「チームの中のチーム」と捉えています。監督以外のスタッフがアシスタントのような役割を担っているチームも多いですが、組織作りのうえで良い方法とは言えないのではないでしょうか。

ヘッドコーチやアシスタントコーチ、分析スタッフなどそれぞれが専門性を持って役割を果たし、全員が達成感を持てるような仕事をしてほしい。だからこそ、監督が「強いエゴ」など持つ必要はなく、自分が全ての主導権を握っているという感じも必要ありません。みんなが気持ちよく責任を持って、全力で仕事に取り組み、みんなで勝利に向かって進んでいく。これこそが重要で、青森山田時代からプロ監督になった今も貫いていることです。

——選手の自発性などはいかがでしょうか。

黒田 とても重要です。練習なども監督が主導権を握る必要はないと考えていて、選手たちが自発的に取り組み、共有することで成果を出していくことをずっと重視してきました。そうでないと、試合中に自分たちで考える選手は育ちません。

また、スタッフの中で誰が選手にアプローチするかも、監督が決める必要はありません。その場にいる人が、またはそのセッションを担当しているコーチが必要に応じて声をかけることで、より自然なチーム作りができます。

もちろん総括する場面では監督が話すこともありますが、監督がすべてを背負い込んでしまうのではなく、必要な場面でスタッフが集まり話し合う。そんなチーム作りをすることで、余裕を持ってアプローチする時間を作ることができ、チームをより良い方向に導くことができます。

——スタッフワークに通じますが、勝つために相手のウィークポイント探しはどのようにされていますか?

黒田 もちろん分析コーチがいるので基本的には任せていますが、逆に自分が相手チームの監督だったら何をやられたら嫌かを考察し、それをベースに発想していきますね。サッカーは相手がいる競技です。相手チームがどんなサッカーを試行してくるかを分析し、様々な策を練っていくことはどこのチームも同じです。相手チームのやりたいサッカーをさせない攻撃や守備を繰り返し、相手の自由を奪いペースを握らせないことも大切な戦術になるでしょう。

サッカーでもビジネスでも重要なのは「習慣」の積み重ね

——前回、プロ選手と高校のマネジメントにおいて基本的には同じとおっしゃってました。どういったことを注意してマネジメントをされていますか。

黒田 ひとつは伝え方です。基本的にきちんと説明すれば選手たちは同じ方向へ向かってくれます。これはZ世代だけではなく、ベテランも同じです。監督やコーチ陣のマネジメントによって選手たちに対してわかりやすく伝えたり、心に響く言葉を投げかけたりすることで確実に理解が深まり、しっかりとチームの進むべき方向性が定められていきます。現在の私たちのチームに限っていえば、全員が前向きで同じレールの上を歩んでいます。

チームには外国人選手もいますが、これも同様です。例えば、FC町田ゼルビアには攻撃陣にブラジル人やオーストラリア人の選手がいますが、他の選手たちとは別の時間に映像を見せて指導する時があります。プレスの原則や牽制の仕方、追い込みの仕方など日本人とは異なる考え方があって方向性がブレることがあるので、選手に合わせて丁寧に説明しています。結果的に、本人たちからも「こういうふうに見せてくれたら分かりやすい」という反応があって、実際の試合にも反映できています。

——プロと高校のマネジメントの違いは?

黒田 プロの選手たちは大半が大人で自分たちの生活や家族を支えるためにサッカーをしています。彼らが自分たちの家族や将来への不安を抱えていたり、悩みもひとつのパワーに変えられるようにアプローチしてあげることが、プロ選手に対するマネジメントにおいて重要だと思っています。

高校生などの育成期にはある程度ストレートに厳しく指摘することができますが、プロ選手にはもっと丁寧に、もっと寄り添って接する必要があります。高校生と違って、厳しさに対する反発心を、表情や行動に出しやすいのもプロの特徴です。

ただ、最近はゼルビアも勝利を重ね、チーム全体の雰囲気が盛り上がっています。チームで目標を共有し、達成するために求め合いながら努力している状況が、良い意味でですが、強い高校サッカーの雰囲気に近づいてきています。

——チームマネジメントで監督が変えたところは?

黒田 変えた部分の主なこととしては「良い習慣」の継続と「悪い習慣」の撤廃です。意識や考え方についてはどちらも厳しく指摘し変えてきました。特に重視したのは、守備における「悪い習慣」や「癖」です。

まず、オンザピッチの習慣では攻守の切り替えやハードワークの切り替えなどです。ゴール前での攻め方やタイミング、ボールと反対側にいる場合のサイドバックの距離や体の向きなど、多くの定義付けをしました。

成長途中の選手にはちょっと難しいかもしれませんが、選手全員が実践すれば相手チームにひずみが生じ、最終的にはゴールにつながります。また、自陣のゴール前で守備の選手がフリーになれることで相手のミスを誘ったり失点を防いだりすることもできます。

——意識の部分はどうでしょうか。

黒田 選手たちには「勝利に結びつくメンタリティと思考を持たなければならない」と開幕前にはっきりと伝えました。勝ち続けるチームのこだわりと勝てないチームの違いを明確にして、彼らの意識の中を整理させました。

失点は「やらなかったこと」から生まれるんです。それを避けるために、まず習慣を変えることが必要不可欠なんです。これまでの町田は「やらなかったこと」による失点を許していたことが多かった面があります。選手たちに向き合ってしっかりと説明することで、彼らも理解、納得してくれています。

——オフザピッチの習慣についても教えて下さい。

黒田 プロ選手には家庭があるため、家族と過ごす時間も必要。オフシーズンや練習以外の時間はリフレッシュすることを大切にしてほしい。

1日24時間・1年間のサイクルは誰にも平等に与えられています。時間は有限でありながら、使い方は無限。

自分の身体のメンテナンスは重要で、次のパフォーマンスに影響がないようにしっかり休養をとることはプロ選手としての責任です。

練習後には自分自身のコンディションやパフォーマンスを評価し、必要なだけの休息を取ることで次なる準備をする。また、体調を崩すことは許されないので1日90分の練習以外の時間を上手く活用し、メンタル面も含め自分自身が納得できるパフォーマンスを引き出すために必要な準備をしっかりと行ってほしいと考えていますね。

黒田剛/Go Kuroda
1970年生まれ。大阪体育大学体育学部卒業後、一般企業等を経て、1994年に青森山田高校サッカー部コーチ、翌年、監督に就任。以後、全国高校サッカー選手権26回連続出場、3度優勝。2023年よりFC町田ゼルビアの監督に就任。「2023明治安田生命Jリーグ 月間優秀監督賞」2・3月度(J2)受賞。

人から期待される人生を目指す

——周りからのプレッシャーをどう感じていますか。

黒田 人から期待されない人生は嫌ですね。過去に見知らぬメディアから根拠のない批判をされたこともありますが、その際には私からメッセージや反論も発信したことがあります。それは向こうにも届いているかと思いますが、よく考えると、人から注目をされたり、何も期待されていなければ批判なども起きません。期待やプレッシャーがなければ正直やり甲斐も感じないですよね。人から期待される人生、人から応援される人生がいいですね。

※第3回、は数々の日本代表選手を育てあげた、黒田監督のZ世代とのコミュニケーション術を紐解く。

TEXT=上野直彦

PHOTOGRAPH=杉田裕一

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