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2023.01.04

【宮市亮】「もっと速く走れる」度重なる悲運の大ケガを乗り越えて目指す“過去最高の自分”とは

18歳にして名門アーセナルの一員となった宮市亮は、度重なる大ケガを乗り越えて前を向き続けた。不断の努力の先にたどり着いた10年ぶりの日本代表。しかしその舞台で、宮市はまたしても大ケガを追った。「引退」の二文字が脳裏をよぎる中、彼は再び立ち上り“過去最高の自分”を実現する決意を固めた。その胸中に迫る4部作の最終回。【#1】【#2】【#3

再び立ち上り“過去最高の自分”を実現する決意を固めた宮市亮。

10年ぶりの日本代表、よぎった「引退」の二文字

横浜F・マリノス加入2年目の2022シーズン、宮市の出場時間は次第に増えていった。

第22節サガン鳥栖戦までの記録はスタメン出場が「7」、途中出場が「8」で3得点を記録。サイドを主戦場とするウインガーのレギュラー争いで存在感を強め、“らしいプレー”が随所に見られるようになった。

手応えを感じつつあった中で、思いがけないサプライズにも遭遇した。森保一監督が発表したE-1サッカー選手権(旧・東アジア選手権)を戦う日本代表メンバーリストに、宮市の名前があったのである。

「呼ばれるなんてまったく思っていませんでした。完全にサポーターと同じ目線で日本代表のことを見ていたので、だからこそ嬉しかったし、興奮もしました」

香港との初戦で約10年ぶりに日本代表のピッチに立つと、続く中国戦と韓国戦では試合途中から送り出された。しかし、待ち構えていたのはまたしても悲劇だった。

「前十字靭帯をやってしまったことは、受傷した瞬間にわかりました」

しばらく意識の奥底に隠していた思いが、ふっと浮かんで脳裏をよぎった。

「次に大ケガをしたら引退しようという思いが心のどこかにあって、だからこそ、そうならないためにいろいろな取り組みをしてきました。やっぱり、一人のプロ選手としては、ケガが多すぎることに対する後ろめたさみたいなものがあったんです。ピッチに立てないプロなんて意味がないし、そうなってしまう自分にはプロであり続ける資格がないんじゃないかって」

今、目の前にいる宮市は、話しながら泣いている。

「だから、やめる時が来たんだと思いました。ずっと張り詰めていた糸が、完全に切れかかっていることがわかりました」

試合終了後、すぐに検査を受けて前十字靭帯の断裂を確認した。覚悟していたから平然を装うことはできた。それくらいの気遣いを見せる余裕はあった。しかしホテルに戻って部屋のドアを閉めると、途端に涙が溢れ出した。

「やめるんだ」

もう一度、自分の気持ちを確認した。その気持ちを落ち着かせて、それからゆっくりとスマートフォンの画面をタップした。LINEにもInstagramにも、とんでもない数のメッセージが届いていた。

そのすべてに目を通した。涙が止まらなかった。切れかかっていた糸、折れかかっていた心が、完全に切れることなく、完全に折れることなく“残った”ことがわかった。

「SNSに救われたんです。あの時、僕のInstagramにはものすごい数のコメントが書かれていたけど、ネガティブなコメントは1つもなかった。本当に1つもなかった。それを見て、気持ちがすっと楽になりました。本当に助けられました。本当に、本当に、感謝しかありません」

宮市亮。

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絶対に戻らなきゃいけない。あの光景を見て思った

3日後、宮市は横浜F・マリノスの本拠地である日産スタジアムにいた。

J1リーグ第23節の鹿島アントラーズ戦。当初はケガの状況からスタジアム入りするつもりはなかったが、優勝争いのまっただ中にあるチームに対して「少しでも力になりたい」と現場で帯同することを決めた。

試合開始前、チームのウォームアップ時に挨拶のつもりでピッチ脇に出ると、そこには目を疑う光景が広がっていた。

「心の底から驚きました。たくさんの人が背番号17の僕のユニフォームを着ていて、メッセージが書かれた横断幕がたくさんあって……」

心のエネルギーが一気に満たされる感覚が、自分で分かった。

「絶対に戻らなきゃいけない。そう思いました。一度、本気でサッカーをやめようとしたその気持ちを、SNSでみんなに食い止めてもらって、スタジアムで戻してもらったんです」

あの日のことを冷静に振り返ると、自分自身の変化にも気づける。

「初めて大ケガをしたウィガン時代のことを話したじゃないですか。あの時の僕は、チームメイトが喜んでいるロッカールームで一人だけ泣いていた。でも、今回は泣かなかったんですよ」

宮市が負傷した韓国戦、この試合に勝った日本代表はE-1選手権のタイトルを獲った。喜びに沸くチームを盛り下げる態度は見せたくなかった。

「F・マリノスに加入してから“チームのために戦うこと”の意味や本質が少しずつわかるようになってきていて、自分自身ではなく、チームのために力を尽くすことが何より大事と思うようになりました。自分よりチーム。で、それが必ず、最終的には自分自身に返ってくる。その感覚もわかってきた。ケガをした瞬間は『引退』の二文字が頭をよぎったけど、少なくともその場では自分のことなんてどうでもよくて、チームのために行動したかった。だから泣いている場合じゃなかった」

宮市亮。

もしかしたら、まだ、もっと速く走れるかもしれない

自分よりチーム。その意識は“ゴール”に対する考え方を変えた。

「F・マリノスの選手たちは、チームメイトのゴールを心の底から喜ぶんですよ。3人しかいない僕より年上の選手たち、水沼宏太選手、實藤友紀選手、中林洋次選手は、たとえメンバー外でも絶対に手を抜かない。そういう姿がみんなの手本となって、チームが1つにまとまるんだと思います。だから、チームメイトのゴールを全員で、本気で喜び合えるチームになる」

世界トップレベルの選手が集うヨーロッパでは、誰もが果てしなく続く“上”を目指して個人戦を戦っている。本当の意味で“チーム”になる瞬間は、実はごくわずかしかなかったのかもしれないと両者を比較して気づいた。

「ヨーロッパでは、ゴールは自分自身がのし上がるためのもの。でも、日本ではチームを勝たせるためのものですよね。たぶん、後者のほうが自分のキャラクターに合っているんだと思います。ゴールに対する考え方が変わって、自分のパフォーマンスが良くなりました。そこに気づけたことは大きかった」

自分ではなく、他の誰かのために。

その思いは、自身の引退を崖っぷちで食い止め、もう一度カムバックしようとする強いモチベーションにもなった。

「自分以外のすべての人がいて、チームがある。チームがあって、自分がある。これまでのケガは、自分自身に対して『このままじゃ終われない』という気持ちが強かった。でも、今回はそうじゃない。折れかかっていた僕の心をもう一度戻してくれた人たちへの感謝を示すため、その人たちに最高の自分を見せるために、もう一度ピッチに戻る。それしかありません」

キャリア4度目の手術から約5カ月が経過し、リハビリは順調に進んでいる。むしろ「順調」どころか、高度な医療技術によって「今まで見つけられなかった問題」まで解決することができた。このペースで回復するなら“過去最高の宮市亮”を見せられるかもしれない。そんな期待で胸が膨らんでいる。

「もしかしたら、まだ速く走れるかもしれませんよ」

何度大ケガをしても、30歳という節目の年齢を迎えても、宮市にとって「スピード」は今も昔も変わらない特別な武器だ。

「それしかないですから。やっと心技体が揃ってきたんです。だから、もっと、速く走れる自分をピッチで見せたい。僕のキャリアは苦しいこと、悔しいことが95%。でも、残りの5%が最高だったから、それをまた味わいたくてサッカーを続けている。これから先、その割合をほんの少しでも増やしたいですよね」

インタビューの途中で思わず言葉に詰まって涙をこぼしたが、最後の最後は、18歳当時から変わらないキラキラとした眼差しで満面の笑みを浮かべた。

「もう、最後は意地ですよ。意地しかない。やっぱり、このままじゃ終われませんから」

宮市亮。

宮市亮/Ryo Miyaichi
1992年生まれ。中京大学中京高3年時にイングランドの名門アーセナルと契約。爆発的なスピードを駆使したドリブル突破を武器とするタレントとして大きな期待を集めた。度重なるケガと向き合いながら欧州の舞台で約10年プレーし、2021年7月に横浜F・マリノスに加入。2022年7月に日本代表復帰を果たした。
©1992 Y.MARINOS

TEXT=細江克弥

PHOTOGRAPH=彦坂栄治

STYLING=久保コウヘイ

HAIR&MAKE-UP=鈴木雄大

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