2022年11月21日、いよいよ開幕を迎えるFIFAワールドカップ カタール 2022。ゲーテウェブでは前回のワールドカップでコーチを務め、今回のワールドカップで指揮官としてチームを率いる森保一監督に話を聞いた。インタビュアーはGOETHEの前編集長で、長谷部誠選手の『心を整える。(156万部発行)』や中村俊輔氏、内田篤人氏などの書籍でベストセラーを送りだしてきた二本柳陵介が務める。世界中から注目を集めるワールドカップ開幕を前に、指揮官の胸中は如何に?
海外組へのリスペクトはすごくあります
二本柳 FIFAワールドカップ カタール 2022に臨むメンバーの発表も終わり、いよいよ本番が迫ってきました。今はどんな心境ですか?
森保 すごく楽しみな気持ちと、普段とは変わらない気持ちが同居していますね。ワクワクしている反面、本番に向けて淡々と準備している自分もいるので。
二本柳 アジア最終予選を見ていても、落ち着いていらっしゃる印象がありました。特に序盤は1勝2敗と黒星が先行して追い詰められたにもかかわらず、普段と変わらないように見えました。
森保 サウジアラビアに敗れて2敗目を喫し、次のオーストラリア戦まで中4日でした。あのときも試合からマイナス1日、マイナス2日、マイナス3日、マイナス4日と、逆算して何をやらなければならないかを整理し、最善の準備をすることに集中していました。
二本柳 ジタバタしてもしょうがないと?
森保 ジタバタする余裕もなかったです(笑)。そこで自分の進退などを考えてしまうと、余計に難しくなってくる。仕事をさせてもらっている以上は、次の試合での勝利に向けてやれることを全力でやっていく、というスタンスは変わらないですね。だから、いつも全力疾走しているような感覚です(笑)。
二本柳 もともとメンタルが安定されているんですか? それとも、ザワザワしないように気をつけていらっしゃるのでしょうか。
森保 どうなんですかね。もちろん喜怒哀楽はありますが、おっしゃるとおり、波はあまりないほうかもしれませんね、特にサッカーに関しては。1点リードされても焦ることはないですし、逆に1点をもぎ取っても浮かれることはない。このままどうやって勝ち切ろうかと、冷静に考える自分がいます。最初の頃は意識してそうしていたかもしれませんが、今はそれが普通という感じです。
二本柳 指揮官が落ち着いているから、選手たちは落ち着いているんでしょうね。選手たちもバタバタすることなく、その後6連勝を飾ってワールドカップ出場権を獲得しました。2022年6月のブラジル戦でも、9月のアメリカ戦やエクアドル戦でも対等にやり合っていました。そのメンタリティが頼もしいなと。
森保 それは監督の影響ではないと思いますよ(笑)。ヨーロッパでプレイしている選手たちは、外国人のようなメンタリティを持っていると感じます。サッカーの中心であるヨーロッパのクラブで、助っ人という立場で戦っているのは本当にすごいこと。異国で孤独な戦いを続けながら、上を目指したいという野心を持ち、厳しい生存競争を生き抜いているわけです。彼らへのリスペクトの気持ちは常にありますね。今、代表チームの大半が海外組の選手で構成されていますが、私自身は海外でのプレイ経験がありません。選手たちが今、ヨーロッパで経験していることに対して、知ったかぶりをしてはいけないと思っています。
二本柳 だから、森保監督は選手たちとコミュニケーションをたくさん取られているんですね。彼らの意見やアイデア、ヨーロッパでの取り組みを少しでも代表チームに生かそうと?
森保 もちろん、自分が志向するスタイルや自分がこれまでに学んできたことをチーム作りに反映させていきたいと考えています。ただ、自分にないものは、それを持っている人から学ばないといけない。相手が選手であっても、です。そうして学んだことを、チームや選手自身のためにどうやってチーム作りに落としこんでいこうかと考えながら、選手とコミュニケーションを取っているつもりです。これまでに彼らの経験やアイデア、感覚を受け取りながら、チーム作りに生かしてきました。
選手自身に先発組、控え組の感覚がない
二本柳 海外組がこれだけ増えたのは心強いですが、一方で、「俺はヨーロッパでプレイしているんだ」という自信に満ちた選手が多いわけですから、チーム作りも難しいのではないですか? どうしても試合で起用できない選手も出てきますよね。そうした選手へのケアはどうされているのでしょうか。
森保 難しいということはないですね。こんなに素晴らしい選手たちと一緒に活動できるのはありがたいなと、いつも思っています。確かに試合では、出る選手もいれば、出られない選手もいますが、全員がチームにとって大切な戦力であることに変わりはありません。だから、合宿中もニュートラルに、全体をフラットに見ながらコミュニケーションを取っているつもりです。
もちろん、試合に向けて何かを伝えなければならない時は、先発組とのコミュニケーションが多くなりますが、その場合は、コーチングスタッフ全員でベンチスタートの選手もしっかりケアしていくようにしています。せっかく来てもらっているので、全員にとって充実した合宿になってほしいですから。それに、どうしても先発組とベンチスタート組に分かれますが、選手たち自身はレギュラー組と控え組とは捉えていないと思います。先に出るのか、後から出るのかの違いだと。
二本柳 それは面白いですね!
森保 ベンチスタートに回ったからといって、対戦相手との兼ね合いや戦略的な理由でそうなっただけで、先発した選手より劣っているわけではないと。みんながそうした自信を持っていると感じますね。
二本柳 その意味では、今大会は5人交代制となりますから、交代選手がカギを握りそうですね。
森保 おっしゃるとおりですね。交代枠が5人になるので、攻撃陣は途中で総入れ替えをして90分を通してインテンシティを保ち、相手に圧力をかけ続けるというのが今のサッカーの流れだと思います。もちろん、相手も同じように考えるでしょうから、守備でも交代枠を使わないといけなくなるかもしれません。前線をマックスで替えたケースの一例としては、2021年6月に札幌でやったオリンピック代表とA代表のトレーニングマッチがあります。あの試合ではハーフタイムで(原口)元気、(南野)拓実、(鎌田)大地に代えて(古橋)亨梧、(浅野)拓磨、(伊東)純也を送り出し、その後も大迫勇也も代えて前線4人をすべて入れ替えました。相手に疲労が出始めた時にどう勝負に出るかを考えると、前線の交代を活発にする戦い方はあると思います。
2022年6月のブラジル戦でもハーフタイムに元気を、後半途中に拓実、純也、亨梧を交代しました。試合後、選手たちには「先発と途中出場の選手が分担してクオリティとインテンシティを維持していかなければ、ワールドカップでは勝てないと思うから、あえてやった」と伝えました。
二本柳 なるほど。すでにワールドカップの対戦相手であるドイツ、コスタリカ、スペインの分析は進んでいると思いますが、ベスト8入りの勝算はどれくらいありますか?
森保 行けると思っています。今の選手たちの力であれば、大げさな目標ではないかなと。日本サッカーの歴史の積み上げがあり、今の選手層と選手のレベルであれば、自然とその壁は乗り越えていけるんじゃないかと。ただ、ベスト8って、実は優勝するのと同じくらいのレベルだと思っていて。過去のワールドカップの優勝国を見ても、ベスト8には必ず入るレベルなんですよね。そこからは運や巡り合わせ、勢いなどによってベスト4、決勝へと進んでいく。
8強の一員になるのはすごく難しいことだと理解しています。それでも今の選手たちと一緒に活動させてもらって、「行ける」という思いが自然と出てきます。彼らは世界のスター選手たちと日常的に、同じ目線で戦っていますから。あの選手の長所はどこで、短所はどこだと、当然のように伝え合っているんですね。だから力を発揮できれば、到達できるなと。さらに言えば、チャンピオンズリーグで優勝を争うようなチームに日本人選手がたくさん所属できるようになった時、より高い目標を描くことができると思いますし、日本国内のレベルがもっと上がれば、2050年までのワールドカップ優勝という目標に近づくと思います。
二本柳 ヨーロッパのメガクラブに日本人選手がもっと所属できるようになることと、Jリーグのレベルがさらにヨーロッパに近づいていくこと、その両輪というわけですね。
森保 これだけ日本が急成長しているのに、世界はさらに成長しているから、なかなか追い越せない。でも、いつか追い越せるように。カタールワールドカップではそんな未来につながる戦いをして、次の方にバトンタッチしたいと思っています。
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