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仕事が楽しければ
人生も愉しい

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2021.05.15

プロサッカー選手・冨安健洋「堅実に、着実に。一段飛ばしは性に合わない」

日本代表の守備を支える22歳、冨安健洋の評価が急上昇中だ。2年目を迎えたイタリアではビッグクラブが獲得を狙う逸材として注目され、試合を重ねるごとに、その評価は高まり続けている。急激なスピードで成長を続ける若武者に、その秘訣を聞いた。

冨安健洋氏

高校生の頃からサッカーは「仕事」

ある日の午後5時半。イタリアは午前9時半。画面越しに「朝からすみません」と頭を下げると、冨安健洋は「いえいえ」と首を振った。

サッカー日本代表においては未来を左右するタレントのひとりであり、2019年夏に渡ったイタリアではリーグ屈指の若手注目株だ。オンライン取材で向き合う“首から上のルックス”は絵に描いたような好青年だが、ピッチに立てばまるで別人。世界のトッププレイヤーと互角以上に渡り合う彼の市場価値は、最大50億円にまで跳ね上がると報じられることさえある。

「順調すぎます。逆に、これから先どうなっちゃうんだろうと怖くなるくらい」

本人の言葉のとおり、そのキャリアはものすごいスピードで前進している。

高校3年でアビスパ福岡のトップチームに昇格し、17歳でJリーグデビュー。プロチームのレギュラーに定着した「高校生Jリーガー」は一躍脚光を浴び、’18年1月にはベルギー1部リーグに所属するシント=トロイデンへの移籍が実現した。さらに、その1年半後にはイタリア1部「セリエA」にステップアップ。かつて中田英寿氏もプレイした7度のリーグ優勝を誇る古豪、ボローニャFCに加入した。

JリーグデビューからセリエAデビューまで、わずか3年。幼い頃には「飲食店をやってみたい」という密(ひそ)かな思いを抱いたこともあったが、誰かに打ち明ける暇もないほどサッカーの才能に恵まれた。

「サッカーを純粋に楽しめたのは中学生くらいまでで、高校生になった頃にはプロの練習に参加していたので『楽しい』という感覚はなくなっていた気がします。特別なプレッシャーもあるので、自分にとってサッカーは“仕事”。でも、あまりにも順調に来たからこそ不安のほうが大きいですね。ここから先の世界は、勢いだけでは前に進めないと思っているので」

初めての海外移籍先となったベルギーでは、選手たちがサッカーのために使う時間、つまり“仕事”に費やす時間が日本と比較して多いことに気づかされたという。福岡では少し足を伸ばせばいくらでも娯楽に触れることができたが、人口4万人の小都市であるシント=トロイデンではそうもいかない。サッカーと向き合う時間は必然的に長くなり、「そこが大きく変わった」と海外生活を始めたばかりの頃を振り返る。

もっとも、大きな変化はそれくらいで、それ以外に何かを変えたという感覚はなかった。

サッカー選手として何よりも大事なのは、ピッチの上で自分の価値を示し続けること。監督が求めていることを理解し、自分に与えられた仕事、自分がやるべきことを表現し続けなければならない。では、そのために必要なことは何か。

冨安が導きだした答えは、直接的なコミュニケーションを通じて「監督が何を期待しているのか」を探ることだった。そうしてベルギー2年目の’18-’19シーズンは不動のレギュラーに定着し、目に見える結果を残してイタリアへの移籍の道を切り開いた。

組織のなかで個性を発揮するそのためのバランス感覚

もちろん、イタリアに来てからもそのスタイルは変わらない。

チーム戦術の“縛り”はベルギー時代よりもはるかに厳しいが、冨安はここでも「組織のなかで個性を発揮する方法」を見つけつつある。

「どんなに細かいチーム戦術があったとしても、結局のところは『守れればいい』『勝てばいい』ということなんだと思うんです。でも、監督の指示と自分の特長がうまく噛み合っていなければ、ナチュラルに身体が動かなくなってしまうことがありますよね。どうしても頭で考えてしまうから、判断が0.1秒遅れてしまう。その部分で、少し悩んだ時期はありました」

コーチに相談を持ちかけると、「お前が『やりやすい』と感じる方法があって、それを信じられるならその方法でやってみろ」とアドバイスを受け、そこからチーム戦術と個人戦術のバランスをうまく取れるようになった。それが、冨安がプロサッカーという競争社会を「結局のところ『勝てばいい』」と解釈する理由だ。

チームとしての戦術をしっかり頭に入れつつ、そのなかで自分の活かし方を考えてバランスを取る。それが勝利という“結果”につながれば、関わるすべての人の目標が達成される。もちろん、誰も文句は言わない。

そうした経験を踏まえて、アスリートとして海外で仕事に向き合うために必要なメンタリティーは「常に一定であること」と説明する。

「簡単じゃないけれど、それが理想だと思います。うまくいかない時は自信を失って気持ちが落ちるし、逆に調子がいい時は自然と高ぶってしまうこともある。それを理解したうえで、メンタリティーを自分でコントロールできるようになれることが大事なんじゃないかと」

メンタリティーをコントロールする。それを体得するためのヒントは、日本代表でプレイする先輩の言葉にあった。

「昨年の秋。日本代表で一緒になった時に、酒井宏樹くん(フランス/マルセイユ所属)が面白いことを言っていて。『日本人は減点方式。でも、海外の選手たちは加点方式で評価する』と。なるほどと思いました。あの言葉を聞いて気持ちが楽になったというか、ミスをしても『まだ取り返せる』とポジティブに考えられるようになった気がします」

まじめで勤勉で規律に従順という“世界から見た日本人”のキャラクターは、特にこの10年、サッカー界でも高く評価されてきた。冨安自身は「最近になってメリハリをつけられるようになった」と話すが、近くで見守る関係者に言わせれば「ど」がつくほどのまじめな性格で、いかにも日本人らしいパーソナリティーの持ち主であるという。できるだけ多くの時間をサッカーに使いたいから、SNSにもあまり手を出さない。

「器用にいろいろなことをできるタイプじゃないので、サッカーに集中して全力でやるのが向いているんだと思います。昨年の3月以降、新型コロナウィルスの感染拡大でリーグが中断していた時期も、ずっとひとりで、自宅でトレーニングしていました。個人としてのレベルアップにフォーカスすることができたので、僕にとってはポジティブな時間でもあったなと。たぶん、そうやってコツコツと継続できることが僕の強みですよね。自分の仕事はピッチで結果を出すことで、そのためにやるべきことを淡々とやり続けるというか。そういう意味でも、自分に対して『めっちゃ日本人』という気はします」

もちろんそれは海外で仕事をするうえで大きな強みになり得るが、厳しい競争社会を勝ち抜くための特効薬にはなり得ない。それを活かしながら、自分らしさをしっかりと表現し、その姿勢を貫いて淡々と積み重ねる。冨安には、その強さがある。

着実なステップアップが自分の成長につながる

「怖いくらいに順調すぎる」という本人の不安とは裏腹に、イタリア2年目の’20-’21シーズンも極めて順調に事が進んでいる。

第23節終了時点での「全試合フル出場」という記録は、リーグ全体でもフィールドプレイヤーとして唯一のものだ。世界トップレベルのストライカーと渡り合う出色のパフォーマンスは高く評価され、ACミランやユヴェントス、ローマなどビッグクラブへの移籍も噂されるようになった。

もっとも、本人は冷静だ。選手である以上、高いレベルでのプレイを望むのは当然のこと。トップ・オブ・トップの舞台でプレイすることへの「興味」ももちろんあるが、だからこそ「一歩一歩ステップを踏むことが大事」と考えているという。

では、なぜ、「一段飛ばし」で駆け上がることに対して警戒心を強めるのか。そう問いかけると、いかにも彼らしい答えが返ってきた。

「やっぱり、サッカー選手は試合に出てなんぼだと思うんです。試合に出ないとわからないことがあるし、試合に出ることで成長できる部分がある。自分の力が追いついていないのに、一段飛ばしをしたことで出場機会を失ってしまったら、それこそ成長を止めてしまいますよね。だから、一歩一歩。ちゃんと自分のレベルを確かめながら前に進みたいと思っています。性格? それもあるけれど、イタリアに来てからの1年半で考え方が変わりました。より現実的になったというか」

22歳にしてサッカーを「仕事」と表現したり、努力をコツコツと継続できたり、「一歩一歩のステップアップ」を強調したり。ますます“古きよき日本の企業戦士”を想起させる堅実ぶりだが、その原動力がネガティブな我慢ではなくポジティブな継続にあるところに22歳らしい世代感覚が垣間見える。

「『仕事が楽しければ人生も愉しい』というのは間違いないと思います。そういう意味での“楽しさ”は、僕にもあります。『仕事』という言葉はひと昔前ならネガティブなイメージを持たれたかもしれないけれど、今はちょっと変わってきていると感じていて。好きなことを仕事にしている人がどんどん増えているし、仕事をどうやって楽しいものにするかという工夫をしている人も多いですよね。それができればポジティブに向き合えると僕は考えています」

仕事を楽しんでいる人は輝いて見える。仕事との向き合い方は、自分の意識次第、努力次第で変えられると冨安は言う。

「もちろん、自分に向いてるものと向いていないものがある。でも、向いていないと思うのなら、向いているものを探して新しいことを始めればいい。僕はそう思います」

まさにその言葉どおりのチャレンジを続けた結果、冨安は組織のなかでの自分の活かし方を見つけ、それを勝利という結果に結びつける方法を見つけつつある。

その歩みは堅実で着実だ。でも、実は最短距離を突き進んでいるのかもしれない。

 

Takehiro Tomiyasu

イタリア・セリエAではACミランのズラタン・イブラヒモビッチやインテルのロメウ・ルカクなど世界トップクラスのストライカーと対戦。その安定した守備に加え、抜群の攻撃センスを兼備するサイドバックとしても高評価を得ている。

Takehiro Tomiyasu
1998年福岡県生まれ。高校3年時にアビスパ福岡でトップチームデビュー。2018年1月にベルギーのシント=トロイデン、’19年7月にイタリアのボローニャへ移籍し、世代屈指のDFとして世界から注目される。’18年から名を連ねる日本代表ではすでに不動のレギュラーに定着。

TEXT=細江克弥

PHOTOGRAPH=Getty Images(トップ画像、プロフィール画像)

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