常勝軍団、青森山田高校からFC町田ゼルビアの監督に転じ、わずか1年でJ2からJ1に昇格、そして2024年J1での大躍進させた名将、黒田剛監督。著書『勝つ、ではなく、負けない。』の刊行記念トークイベントで太田宏介氏と対談した連載2回目は、「個々のモチベーションをあげ、一体感のあるチームをつくる」ことについて。
挫折があったから、勝てる組織のヒントが得られた
太田 僕は18年間のプロ人生の中で19人の監督のもとでプレーさせていただいてきましたが、最後の1年、黒田さんとご一緒させていただいたことで、たくさんの気づきを得られました。
2023年シーズン、FC町田ゼルビアが成功した大きな要因は、メンバー外の選手が、チームが勝つことを最優先に行動していたことじゃないかと思います。選手としては、自分が試合に出て活躍したいわけだから、やっぱりモヤモヤはあります。そんな苦しい状況の中でも、歯を食いしばって、チームの勝利を心から喜びあえる。そんな集団につくりあげたのが大きかったのではないかと。
黒田 そうですね。キャンプでのガイダンスを通じて、FC町田ゼルビアというチームの組織はどんなもので、何が重要で、何は許されないかというあたりが、うまく整理されていたことは大きかったと思います。
僕は高校サッカー出身なので、(FC町田ゼルビアの監督に転向する際)いろいろと言われました。「プロの世界は甘くないぞ」「選手たちが(アマチュア出身監督の)言うことを聞くわけがない」って。それはそうですよね。選手たちにはプロとしてのプライドもあるし、お金だって監督よりたくさんもらっているだろうし(笑)。だから、もちろん覚悟をもって、FC町田ゼルビアの監督に就任しました。
約30年間、青森山田高校で監督をやってきて、組織が崩れる瞬間をいっぱい経験してきました。30年のうち20年間は、挫折の方が多かったくらいです。
全国(全国高校サッカー大会やインターハイ)でも、10大会中9回もベスト16の壁に阻まれて、もう辞めたいと思ったこともありますし、「どうやったら勝てるんだろう」と、名監督をたずね、全国行脚をしたこともあります。いろんな挫折をしたからこそ、今こうして、勝てる集団、勝てる組織のヒントを得られたのだと思います。それが、今、FC町田ゼルビアに良い流れを持ってこられている要因のひとつでしょうね。
「組織は必ず壊れるもの」という概念を持つ
黒田 強い組織になるためには、まず、「組織は必ず壊れるものだ」という概念を持つことが必要だと思います。組織とは、人が形成するもの。毎日、その姿や表情が変わるのは当たり前で、今日良ければ明日も良いとは限りません。その感覚を、まず持たなければならない。そうすると、「ちょっと横道にそれているな」とか「周りの雑音に動揺しているな」といったことを瞬時に感じ取れ、軌道修正ができます。
それから、チームにとってマイナスの要因は、いっさい排除するようにしています。選手はみんな一生懸命頑張っているし、人生をかけてサッカーに取り組んでいるわけです。その選手たちの妨げになるような、ネガティブな発言や行動は、いっさい認めませんし、チームの中でそうした言動をすれば、疎外されてしまうという空気感を、組織に植えつけることが重要というか……。これが、みんなが一体になれる、大きなポイントのひとつじゃないでしょうか。
――著書『勝つ、ではなく、負けない。』の中で黒田氏は、「チーム立ち上げ時のガイダンスで、しっかりとルールを意識させて横道に外れにくい状況をつくり、誰か一人がネガティブな空気を出すとチームのみんなに咎められるような組織づくりをしていく。これが、『強い組織』を作るための最重要ポイントです」と綴っている。それは、どんなチームであっても、たったひとつの出来事やたったひとりの存在によって、壊れるということを、いやというほど経験したからこそだ。