ロカビリー歌手、音楽プロデューサー、作詞家、俳優、レーサー、落語家、画家。常に変身し続けるミッキー・カーチスさんと、医療の壁に挑み続ける和田秀樹氏の対談記事をまとめてお届け! ※2026年1月掲載記事を再編。

1.87歳ミッキー・カーチス、2023年脳卒中で余命7ヵ月申告・左半身麻痺…でも人生を楽しく生きている秘訣とは

和田 今回は個展の会場にお邪魔しました。すごい数の絵ですね。どれも色鮮やかで温かい。にぎやかな音が聞こえてきそうな感じです。
ミッキー 150点くらい展示してあるのかな。個展の期間中も描いちゃうから、数はどんどん増える(笑)。
和田 ミッキーさんといえば音楽や俳優のイメージが強いですが、絵はいつから?
ミッキー 80歳の少し前だから10年くらいになるのかな。
和田 年を取ってからでも才能は花開くんですね。
ミッキー いや、びっくりだよ。
和田 今日は雑誌の連載でお話を聞きに来ました。「人生の先輩に元気の秘訣を教えてもらう」という企画なんですが。
ミッキー 俺は元気じゃないよ。楽しんではいるけどね。
和田 (笑)。
ミッキー 脳卒中をやって不自由になっちゃった。だから身体は元気じゃない。頭には穴が開いてるしね(笑)。
和田 最近ですか?
ミッキー 2023年の1月。
2.「みんな好き勝手な考え方を持っていい。ただ悪口は言わないこと」

和田 歌は今でも歌われるんですか。
ミッキー 歌はね、そりゃ歌いたい。だけど聞いてよ。脳卒中の手術をしたでしょ。そのときに生命維持装置っていうのを飲まされるんですよ。
和田 大変ですね。
ミッキー それで声帯やられちゃって。
和田 あ、そうか。
ミッキー だから歌えなくなっちゃった。
和田 それは悲しいですね。歌もやっぱり声を出すアウトプットですからね。でも代わりに絵があってよかったですね。
ミッキー そうなんです。だけど、去年ね、映画の主題歌を歌いました。
和田 それは素晴らしい。
ミッキー うざい声でね(笑)。細野晴臣さんに曲を頼んで。
和田 ほお。すごいですね。
ミッキー 『運命屋』っていうショートムービーをうちで撮ったんだけど、この映画がけっこう評判よくてね。いきなり俺、ニューヨークで主演男優賞もらっちゃった。
和田 素晴らしい。そうか。やっぱり声が変わっても表現力はあるってことですよね。
ミッキー そうですね。
和田 年を取れば取ったなりの渋い声があると思うんです。
3.「やりたくないことは、やったってよくならない」

和田 日本人は柔軟性が乏しい傾向にあります。年を取るとさらに強くなる。一度こっちと思うと、それしかないと思い込んでしまう。だけど年を取ったらいろんな制約がなくなるんだから、もっと自由になったほうがいいと思うんですよね。
ミッキー 結局、宗教の問題ですよ。最終的には。
和田 なるほど。
ミッキー そうでしょ。日本に限らず外国もそうだけど。
和田 そうですね。
ミッキー 俺は神道だから。神道はね、楽なんですよ。制約が何もないので。
和田 神道は八百万のあらゆる神を尊びますからね。ところが他の多くの宗教は一神教的なので、こうあらねばならない、という考え方になってしまう。
ミッキー うん。多神教のほうがいいよね。
和田 僕もそう思います。ミッキーさんのように音楽をやって、プロデューサーをやって、絵描きもやってというのは、やっぱり素敵な生き方です。その根底にはあれもよしこれもよしと、他を認める神道的な精神があるような気がするんです。
ミッキー ただ俺は勉強してないからさ。キリストの時代のカトリックとプロテスタントが分かれた宗教改革の時代があったじゃないですか。あの時代のことはよく知らない。だからそういう絵が描けないんですよ。
和田 でもどうなんですかね。絵は理屈じゃないでしょ。
ミッキー まあそうだね。ギリシャ神話は1枚だけ描いてる。メデューサをね。メデューサの頭の蛇をマングースが狙ってるという絵。
和田 なるほど(笑)。イメージで描かれるわけですもんね。やっぱりそっちのほうが面白い。なんか日本人って勉強しなきゃいけないって思いこんでる人が多すぎちゃうから。
4.「年を取ったからもうこれで十分みたいな気持ちが一切ない」

ミッキー ヨーロッパなんかはさ、浮世絵に憧れてね。もうジャパニーズの時代があって。みんな浮世絵を描いてた。ゴッホなんかより浮世絵のほうがいっぱい出てくるもんね。
和田 大衆迎合っていうわけじゃないけど。庶民の熱を受けて作り上げたもののほうが世界では評価されたりする。そういう文化を生み出せる日本を、僕はいい国だと思ってるんです。
ミッキー そうだね。本当に。
和田 ミッキーさんもロカビリーで若者を熱狂させたり、『学生街の喫茶店』を大ヒットさせたりしてきた。やっぱりその時代その時代の大衆に見事にうけてきたわけです。これがすごいと思うんですよ。
ミッキー アウトサイドアーティストだから。
和田 (笑)。アウトサイドアーティストであったとしても、うけるってことは、その時代に合ってるってことなんですよ。日本人はずっと演歌を聞きたいわけじゃない。ロックを求めたり『学生街』を求めたり。それを捉える感性がある。芸術家でありながら大衆の感覚もわかっている。そういうところもミッキーさんの特異な才能だと思うんですよ。
ミッキー 大衆の求めてるものを作るんじゃないんですよ。
和田 いや、もちろん。
ミッキー 自分が好きなものを作ってるだけなんですよ。だから、当たりはずれが多いんですよ。
和田 あ、そうか。それ、いいですね。はずれてもいいと思うから面白いものが作れる!
ミッキー そう。
5.「死ぬまで生きる」

ミッキー この間、名寄で落語をやったの。そしたらもう。
和田 喜ばれた?
ミッキー うん。
和田 でしょうね。地元で本物の真打の落語を聞く機会なんてめったにないでしょうし。
ミッキー ないからね。だけど座ったらね、立てないの。
和田 あー。
ミッキー 正座できないから。
和田 いやあ、難しい。
ミッキー で、立てないのが立川流とか言って。
和田 (笑)。でも、これはすごい大事なことだと僕は思っていて。年を取るってことは、できることとできないことが分かれることなんですよ。
ミッキー まあそうだよね。
和田 元気な人が左半身動かなくなるとか。絵は描けるけど頭はボケてるとか。いろんなことが、いろんなカタチでちょっとずつできなくなってくる。
ミッキー 俺みたいだね(笑)。
和田 だけど、できることはまだ残ってる。だから、できなくなったときに諦めるんじゃなくて、残ってることをやってみるのがすごい大事だと思うんです。体は不自由だけど料理だけはできるとかね。
6.「本当は年を取るほど薬は飲まないほうがいい」

ミッキー 最近わかったの。あのね、生きてる間が地獄。死んだらみんな天国。
和田 横尾(忠則)さんみたいなことをおっしゃいますね。死ぬのが楽しみだって。
ミッキー そうでしょ。ねえ。だんだんわだかまりがなくなっていく。生きてる間はけっこういろんなことがあるので。
和田 おっしゃる通りですね。
ミッキー 付き合いがあるというだけの人もいる。
和田 いやあ、なんかお言葉が一つ一つ素敵です。僕がなんでこの対談をやるかって言うと、年を取っても元気な方、いろんなことができてる方って、やっぱりある種のさとりがあるんですよ。その話を聞くほうが医者の言うこと聞くよりよっぽどためになると思いまして。
ミッキー 確かに。医者なんて無責任だから。医者に言っちゃいけないけどね(笑)。
和田 おっしゃる通り医者は無責任ですよ。
ミッキー 人に言うのは簡単だよ。言われるほうは大変。
和田 そう。命令するのは簡単なんですよ。例えば、僕も何年か前に胃カメラを飲まされたときに「楽でしょ。楽でしょ」って医者は言うの。だけど楽なわけないじゃん。こっちは涙流してるんだから。そしたら「抵抗するから余計に苦しくなるんですよ。はい、大人しくね。あーいいですよ。楽でしょ」って、全然楽じゃないよ。だからもう二度とやらない。
ミッキー (笑)。楽なわけないもん。あんなもん飲まされて。声出なくなっちゃうしさ。
和田 そうそう。だから医者も自分が患者になってみたらちょっとわかると思いますけどね。

