2026年6月のW杯開幕を控え、日本代表の戦い方に改めて注目が集まっている。森保一監督の変遷を辿る上で、最も大きなターニングポイントといえるのが、欧州で戦う選手たちの「日常」に触れ、それまでの日本サッカーの常識を根底から見直したことだろう。就任当初、多くのファンは「組織力で勝つ日本」を期待していたが、監督は徐々に、よりシビアな「個の責任」を強調するスタイルへと舵を切っていった。2回目。【特集 2026FIFAワールドカップ】

「組織」という言葉に逃げない強さを
森保一監督は、視察で欧州のスタジアムを巡るなかで、一つの現実に直面した。それは、世界トップレベルの戦場では、戦術以前に「一対一の死闘」に勝てなければ何も始まらないという冷徹な事実だ。
森保監督は就任前から「『日本人らしく』だけで世界には勝てないだろうとも思っていました」と、その限界が視野に入っていたという。「それまで日本で言われていたのは、『フィジカルモンスター相手に組織力で戦っていく』ということ」だった。だが欧州の現状をハッキリと見て、その限界を打ち破らなければならないと考え始めた。
「どこかリスク管理しすぎるところが自分のサッカー観の中にあったんです。でも、ヨーロッパのサッカー、選手たちの日常を見ていると、組織の役割はもちろんありますが、極端に言うと『一対一ではみんな勝っていけ』という世界です。目の前の相手には絶対負けない。
日本の場合だったら、守備をするときに一対一で負けたときのためにカバーしておくという考え方が強いですが、欧州は違う。個人の負けがすぐにチームの負けに繋がる。そういうシーンが日常なんです」

日本の指導現場では、伝統的に「数的な優位を作って守る」あるいは「味方のミスを組織でカバーする」という考え方が尊ばれてきた。しかし、森保監督は、その「リスク管理」の文化が、時に個人の甘えや責任回避に繋がっているのではないかという、深い懸念を抱くようになる。
一方で、光明も見つけていた。それは「世界基準の個の力を身につけた日本人が、その上で組織として戦えば、世界で勝つ可能性はより上がっていく」ということだった。
「だからこそ、『組織は個から成り立つ』という部分にフォーカスをして、まずは個が大きくなってほしいと、所属クラブでの活動のときも、選手たちに口を酸っぱくして伝えてきました」
孤独な環境で磨かれる「尊敬できる個」
味方の助けを前提とするのではなく、まずは目の前の敵を自分の力でねじ伏せる。その徹底した「個」の追求こそが、欧州のサッカーを支える哲学だった。監督は、2022年カタールW杯での激闘を支えたディフェンス陣の姿に、その結実を見た。
「2022年大会のメンバーで言えば、酒井宏樹や長友佑都は、イタリアやフランスのすごいアタッカー陣の中でもまれて、それをやっていましたね。前の選手が戻ってきてくれなくても、一人で世界的な相手選手二人を止めてしまうような守りを日常的にやっていた。それを見て、『日本人でもやれる』と改めて確信しました」
こうした「個」の強さは、欧州の過酷な環境に身を置くことで磨かれるものだと森保監督は指摘する。打破しなければならない「外国人枠」という制約、さらに「助っ人」として負わされる過剰なまでの責任。その孤独な戦いの中にこそ、日本が学ぶべきエッセンスがある。

1968年8月23日静岡県生まれ。長崎日大高校から1987年からマツダでプレー。1992年にハンス・オフト監督によって日本代表に抜擢され、ボランチとして「ドーハの悲劇」を経験した。1998年は京都パープルサンガ(現・京都サンガ)に期限付き移籍。2002年にベガルタ仙台へ移籍し、2003年に現役引退。引退後は指導者の道に進み、2012年にサンフレッチェ広島の監督に就任。3度のJ1リーグ優勝を果たす。2017年よりU-21日本代表監督、2018年からは日本代表監督を兼任。2022年カタールW杯ではドイツ、スペインを破りベスト16に導いた。国際Aマッチ通算35試合出場1得点。日本代表監督として初めて国際Aマッチ100試合以上を指揮し、過去最高の勝率約70パーセントを誇る。
「組織で戦うことで『個』をうやむやにしない。これは欧州で戦っている選手たちを見ていて、すごく感じました。みんな孤独に、本当に頑張っています。自分で責任を果たすという、逃げ場のない状況。負けた時やうまくいかないときの責任を、外国人として過剰に負わされている。そういうなかで生き抜いている人たちは、やっぱり強いし、尊敬できると思います。
日本のアイデンティティを大切にすると言いつつも、その個の責任をより負っていく。助けがあるのを前提にするのではなく、自分一人で局面を打開する。そういう姿勢を、このチームに作っていきたいと思いました」
6月のワールドカップで、日本代表は再び世界と対峙する。そこで求められるのは、組織に頼る弱さではなく、個で戦い抜く覚悟を持った十一人の「個」の集積である。
※3回目に続く

