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2026.03.19

森保一監督「イメージは陸上100Mリレー。9秒台が揃い、繋ぐ力で、世界を追い越す」。個と組織力の融合③

2026年6月に開幕するサッカーW杯。そこでの躍進の鍵を握るのは、日本伝統の「組織力」と、欧州基準の「個の力」の融合だ。森保一監督が今取り組んでいるのは、この一見相反する要素を高い次元で結びつけ、日本サッカーの「最大値」を引き出すこと。それは、かつて日本が世界を驚かせた陸上リレーのような、極めて高度なミキシングである。3回目。【特集 2026FIFAワールドカップ】

森保一監督「イメージは陸上の100Mリレー。9秒台が揃い、繋ぐ力で、世界を追い越す」。個と組織力の融合③

9秒台の走者が揃って初めてメダルが見えてくる

森保一監督の采配には、常に「個」の成長と「組織」のバランスを最適化しようとする論理的な意図がある。かつての日本代表が「組織力」という言葉を、足りない個の力を補うための言葉として使っていたのに対し、森保監督は、個が強いことを前提とした組織論を説く。

「個の力を培った上で、そこに日本のサポートを融合させる。日本人の組織で戦うメンタリティを表現すれば、自然に勝っていけるのではないのかという気持ちがありました。広島の監督をしていた頃から考えてはいましたが、代表での戦いをとおして、大切なポイントがより『個の強さ』へと変わっていきました。

以前は、組織的に勝つ優先順位がどちらかと言えば高かったのですが、今は個で勝っていくことも重視します。そうすることで、世界を超えていこうと考えているんです」

森保監督は、この「個」と「組織」の関係性を、陸上のリレー競技に例えて説明する。日本がリレーで世界と渡り合えるのは、単にバトン技術が優れているからではない。

森保一監督
森保一/Hajime Moriyasu
1968年8月23日静岡県生まれ。長崎日大高校から1987年からマツダでプレー。1992年にハンス・オフト監督によって日本代表に抜擢され、ボランチとして「ドーハの悲劇」を経験した。1998年は京都パープルサンガ(現・京都サンガ)に期限付き移籍。2002年にベガルタ仙台へ移籍し、2003年に現役引退。引退後は指導者の道に進み、2012年にサンフレッチェ広島の監督に就任。3度のJ1リーグ優勝を果たす。2017年よりU-21日本代表監督、2018年からは日本代表監督を兼任。2022年カタールW杯ではドイツ、スペインを破りベスト16に導いた。国際Aマッチ通算35試合出場1得点。日本代表監督として初めて国際Aマッチ100試合以上を指揮し、過去最高の勝率約70パーセントを誇る。

「例えば男子100メートルで、日本人がメダルを取るのはなかなか難しい。でも、今の日本の選手たちのほとんどは、10秒台、あるいは9秒台に入ってきている。そうなった時に、リレーになれば世界でメダルが取れるんです。日本人に繋ぐ能力、組織力を生かす能力があるのは間違いありません。

ただ、11秒台の選手がいくら繋ぐ能力を発揮したところで、世界で絶対にメダルは取れない。10秒を切り、9秒台に入ってくる選手が揃い、世界に肉薄してきているなかで、日本人の繋ぐ能力を発揮したら、世界を追い越していける。そういうイメージを持ってチームを作っています」

森保一監督

「追いつく」ではなく「追い越す」マインドセット

個が弱いまま組織に頼るのではなく、強い個が揃った上で組織として機能させる。この発想の転換は、格上の相手に対するマインドセットをも変えていった。これまで日本サッカー界に蔓延していた「憧れ」や「コンプレックス」との決別である。

「世界を見上げている日本人がいて、『勝てないんじゃないのか、負けた時のために準備をしておこう』と考えるのではなく、『数的不利な状況でも守れるし、突破できる』と思えること。日本の指導者や選手に自信を持ってもらえるように、そういうチャレンジする姿勢が伝わるように、という気持ちは常に持っていました。

『追いつく』じゃなくて、『追い越せ』なんです。追いつく、だと結局は相手のことを見上げていることになる。勝っていくことが目標なので、追い越すためには同じ目線で考えていくことが不可欠なんです」

さらに、この融合を実際のピッチで体現するためには、代表チーム特有の過酷な条件を克服しなければならない。試合直前にしか全員が揃わない、練習時間が極端に短いという現状だ。W杯直前には合宿があると言っても日常活動しているクラブとはまるで違う。だが森保監督はその不安はないと言う。

森保一監督

「代表に来た時にちゃんとメンタルのスイッチを入れ替えることができる、思考のスイッチを入れ替えて戦術に対応することができる。その違いを最初からわかっている能力を持った選手たちが今の代表にいます。一つの『絵』、コンセプトや理念を共有できなければ、いくらいい選手がいても繋がり合うことはできない。対戦相手を思い浮かべながら、わずか数回の練習でも自分たちが何をすべきかを落とし込んでくれる。選手たちの能力は本当に高いんです」

今の日本代表は、個の強さと組織の知性が高次元で融合しつつある。6月のW杯で日本代表が見せる「リレー」は、単なるバトン渡しではない。研ぎ澄まされた個が、一瞬の知性で繋がり合い、世界を驚愕させる瞬間となるだろう。

※4回目に続く

TEXT=森雅史

PHOTOGRAPH=杉田裕一

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