PERSON

2026.03.20

森保一監督は、自己主張の強い日本代表選手たちをどうまとめているのか。マネジメント論④

2026年6月のサッカーW杯に向けて、日本代表メンバー入りの競争は激しさを増している。選ばれる選手の多くは欧州トップリーグの最前線で日常的にしのぎを削り、自己主張の強い個性派たち。彼らを、日本国内での指導経験がメインである森保一監督がいかにして束ね、一つの方向へ向かわせているのか。その手法は、威圧的なトップダウンでも、甘い放任でもない。「尊重」と「プロセスの透明性」を軸にした、現代的なリーダーシップである。4回目。【特集 2026FIFAワールドカップ】

森保一監督は、個性的な日本代表選手たちをどうまとめているのか。マネジメント論④

自分の価値観を押し付けない「聞く」リーダーシップ

森保一監督のマネジメントの根底にあるのは、驚くほどの謙虚さと、現実的な自己分析だ。彼は、自分がすべてを支配する王様であるとは微塵も思っていない。

「広島での監督経験が評価されて代表の監督にさせていただいたんですが、でも私は1チームしか監督をやっていません。日本が世界で勝つために自分が最高の監督かと言われると、そうでないということも自分のなかで常に考えています。

世界で戦っている選手たちに、自分の価値観だけ押し付けるのは間違っているということは最初から思っていました。こだわりがあるようでない、ないようである、という人間ですし、自分の考えていることがすべて正解ではない。だからこそ、学ぶ姿勢、吸収する姿勢を持ち続けなければいけないんです」

森保一監督

監督は、選手を動かす駒としてではなく、知見を持ったパートナーとして扱う。特にコミュニケーションにおいては、「話す」こと以上に「聞く」ことを戦略的に重視している。

「個々で話す時は『聞くこと』を先にします。自分が先に話してしまうと、選手は監督の話に沿った答えを返してくる。それでは本当の言葉なのかどうかわからなくなってしまうんです。最初に相手に話してもらったなかから対話を広げていく。基本はそうしています。選手たちの世界での経験を取り入れながら、それを融合させて最大値を作っていこうという考えなので、常に選手たちの話はオープンに聞くようにしています」

森保一監督

選手選考の透明性が納得感を生む

個性派揃いの集団に納得感をもたらすのは、監督の言葉だけでなく、その裏付けとなる膨大な「仕事量」だ。森保監督が選手選考において最も大切にしているのは、誰にも文句を言わせない「プロセス」の構築である。

「監督が選手を選ぶ、ではなく、選手が監督に選ばせている、と思っているんです。好きな選手を選ぶのではなくて、輝いている選手を招集させてもらっている。選ぶプロセスをどう構築するか、ということは重要視しています。我々のスタッフの視察の回数は絶対にどこにも負けません。選手たちは、見て決められたのか、見ずに決められたのかを敏感に察知します。見て決めてあげることが、選手にしてあげられる最低限の誠実さであり、最高の評価だと思っているんです」

こうした地道な裏付けがあるからこそ、監督は選手たちの「王様」のようなプライドを尊重することができる。

「個性を持った選手たちに関して言うと、あんまり無理に『まとめよう』と思ってないかもしれません。できるだけ個性を活かしていこう、と。選手たちは『俺が一番だ、俺が王様だ』と思っていていいんです。でも、なんだかんだ言ってみんな、本当にサッカーが大好きなサッカー小僧が大人になった集団。勝ちたい、成功したいという思いは同じ。だからこそ、共通の目標さえクリアであれば、自然とまとまれるグループだと思いますね」

森保監督は、強烈な個性をまとめるために最も実効性のある現代のリーダー像を示している。監督は最後まで謙虚にこんな言葉で締めくくった。

「でも、逆に言うと自分に引っ張っていく力はないとも思っているんです。イメージ的には、リーダーとして引っ張るというよりも、後ろから支えるというか、押していくみたいなイメージのほうが強いですね。羊の群れの先頭に行くリーダーではなくて、牧羊犬のように後ろから『みんなこっち行こうよ』みたいな感じだと思ってますよ(笑)」

森保一監督
森保一/Hajime Moriyasu
1968年8月23日静岡県生まれ。長崎日大高校から1987年マツダに入団。1992年にハンス・オフト監督によって日本代表に抜擢され、ボランチとして「ドーハの悲劇」を経験した。1998年、京都パープルサンガ(現・京都サンガF.C.)に期限付き移籍。2002年にベガルタ仙台へ移籍し、2003年に現役引退。国際Aマッチ通算35試合出場1得点。引退後は指導者の道に進み、2012年にサンフレッチェ広島の監督に就任。3度のJ1リーグ優勝を果たす。2017年よりU-21日本代表監督、2018年からは日本代表監督を兼任。2022年カタールW杯ではドイツ、スペインを破りベスト16に導いた。日本代表監督として初めて国際Aマッチ100試合以上を指揮し、過去最高の勝率約70パーセントを誇る。

TEXT=森雅史

PHOTOGRAPH=杉田裕一

PICK UP

STORY 連載

MAGAZINE 最新号

2026年4月号

最幸の贅沢

『GOETHE(ゲーテ)2026年4月号』表紙

最新号を見る

定期購読はこちら

バックナンバー一覧

MAGAZINE 最新号

2026年4月号

最幸の贅沢

仕事に遊びに一切妥協できない男たちが、人生を謳歌するためのライフスタイル誌『ゲーテ4月号』が2026年2月25日に発売となる。特集は、「最幸の贅沢」。表紙はOriginal Love田島貴男!

最新号を購入する

電子版も発売中!

バックナンバー一覧

GOETHE LOUNGE ゲーテラウンジ

忙しい日々の中で、心を満たす特別な体験を。GOETHE LOUNGEは、上質な時間を求めるあなたのための登録無料の会員制サービス。限定イベント、優待特典、そして選りすぐりの情報を通じて、GOETHEだからこそできる特別なひとときをお届けします。

詳しくみる