目指すのは、世界最高峰のウイスキー。富士山の恵みと妥協なき技法でつくりだす「富嶽蒸溜所」は、樽オーナーとしてともに夢を追うことができる場所でもある。【特集 会員制への誘い】

家業の酒造りを復活。情熱と浪漫のウイスキー
日本のウイスキーは新時代に入っている。ジャパニーズウイスキーの基礎を築いた第一世代、2000年以降に増えた「秩父蒸溜所」などに代表されるクラフト黎明期の第二世代、そして10年代後半から増加しはじめたのが「嘉之助蒸溜所」や「静岡蒸溜所」など新しいクラフトを掲げる第三世代だ。第三世代の特徴はテロワール志向や設備の個性、そして観光価値を備えている点にある。富士山麓に設立された「富嶽蒸溜所」は、まさにこの第三世代を象徴する存在として注目されているディスティラリーだ。
運営会社は「SASAKAWA WHISKY」。社名と社章に“半菊に一の字”の家紋が入っていることからもわかるように、日本船舶振興会(現・日本財団)の創設者の笹川良一を祖父に持つ、笹川一族の正平氏が代表を務める。しかし、「自分の人生は自分で切り開くべし」という教育方針のもと、一族からの資金援助を受けることなく、一から蒸溜所を築き上げた。元フジテレビのエリート社員、異業種からの挑戦である。
起こしたいのはウイスキーという魔法
「人生をかける仕事をしたい、と考えた時に、江戸時代から続く笹川家の家業であった酒造りを復活させたいと思いました。学生時代にラグビーを通じて英国文化に親しみ、スコットランドで出会ったのが“Aqua Vitae(生命の水)”と呼ばれるウイスキーです。その芳醇な味わいに心を打たれ、そして仲間と囲むなかで、人とのつながりを感じられました。そんなお酒を最高の環境と設備で造ってみたいという想いに駆られたのです」
その想いに応えたのが、木下グループの木下直哉氏だ。長年にわたりフィギュアスケートのペア競技を支援し、“りくりゅう”ペアの誕生にもつながったことで知られる、スポーツ界や映画界を応援し、時代を見抜く目を持つ人物である。
「ウイスキーは投資家にとってメリットを示しにくい、浪漫を買うような事業です。資金集めに苦労するなかで、理解をしてくれたのが木下代表でした。『世界一のウイスキーを造りたいなら協力しよう』という言葉で、事業が動きだしました」
こうして誕生したのは、効率を度外視し、妥協なく追求された蒸溜所だ。品質が安定するスチーム加熱ではなく、ここでは伝統的な直火蒸溜を採用。発酵には木桶を使用し、微生物の複雑な発酵を促している。
なかでも最大のこだわりは水だ。仕込み水には富士山の雪解け水を使用する。7層にわたる玄武岩層を通り、約100年の歳月を経て天然ろ過されたその水は、日本の厳しい保健所の基準をクリアしている。こうした天然水をそのまま使う蒸溜所は日本でも珍しい存在だ。

「目指しているのは、製品というよりは“アート”としての存在です。そのために製造コストがかかっても設備には徹底的にこだわりました。直火蒸溜には技術力が必要ですが、意欲ある技術者が集まり、理想的なチームができています。富士山の水によるスムースな口当たり、直火蒸溜ならではの力強い香味、そして木桶由来のフルーティな奥行き。イメージどおりの酒質に仕上がっています」
「富嶽蒸溜所」の特徴のもうひとつは、環境と体験を一体化させたツーリズム型の蒸溜所である点だ。ガラス張りの建築に、ポットスチルが印象的に見えるデザインは、東京ウイスキー&スピリッツコンペティション2024において「Best Design Distillery」にも選ばれている。
「ウイスキーが育つ環境を実際に訪れて、どんなウイスキーができるのか想像したり、お酒造りへの夢を共有してもらえたら嬉しいです。そのためにも、ウイスキーファンが世界から訪れたくなる蒸溜所を目指していますし、オーナーズカスク制度も用意しました。山梨は日本ワインで知られていますが、将来的にはウイスキーツーリズムの地としても知られる場所になれば、と思っています」
カスクオーナーに提供されるバースペースは、正平氏が師と仰ぐ伝説の編集者でエッセイストの島地勝彦氏とともに造り上げたもの。最高の酒を最高の環境で味わう舞台はすでに整っている。島地氏から“ロマンチックな愚か者”と評された男の挑戦は、今始まったばかりだ。
木の魂が宿るラウンジで奇跡の一滴を味わう
木製カウンターと暖炉、ステンドグラスのモチーフ。クラシックなスコットランドのバーを彷彿させるこのスペースは、「富嶽蒸溜所」のカスクオーナーたちのための特別なスペースだ。
“世界一のバーを造る”というコンセプトのもと、空間には四季の森の気配や大地の生命力を感じさせる素材が贅沢に配されている。総合責任者にウッドマスターの佐藤柱也氏を迎え、カウンターやテーブルには、日本原産のミズナラを採用。樹齢500年を超えるものも含まれる希少な一枚板が用いられている。
「本物の火を楽しめる場にしたい」という正平氏の想いで設えられた暖炉には、富士山の溶岩が積まれ、ポットスチルをモチーフとしたステンレスが火を包みこむ。直火蒸溜を思わせるような炉床だ。ラウンジがあるのは保管庫の上階のため、自らが所有する樽が眠る様子を眺めながら、グラスを傾ける時間は至福の時だ。
オーナーズカスクのクラブ会員は、直火蒸溜ノンピーテッドの原酒180ℓをアメリカンホワイトオークのバーボンバレルで5年間熟成したものを購入できる権利と施設の使用権を得られる。追加の熟成を希望する場合は理想の味を目指し、1年ごとに延長することも可能だ。
富士山麓に通いながら、将来の自分のウイスキーに想いを寄せる──。その時間は何ものにも代えがたい贅沢な経験となるに違いない。
SASAKAWA WHISKY OWNER’S CASK CLUB/笹川ウイスキー オーナーズカスククラブ
How to join
「OWNER’S CASK CLUB」は入会費¥550,000。1樽¥3,300,000で購入することができる。5年後以降の熟成には保管費¥110,000/年、カスクレンタル費¥11,000/年がかかる。
Information
会員はバーラウンジの利用以外にも、蒸留所プライベートツアー、新商品リリースの先行販売の案内、スペシャルイベントへの招待がある。
住所:山梨県富士吉田市上吉田4918-1
公式サイト:https://sasakawa-whisky.jp
笹川正平/Shohei Sasakawa
1980年東京都生まれ。日本財団創設者の笹川良一を祖父に持つ。成蹊大学卒業後、フジテレビジョンに入社し、数々の人気番組をプロデュース。退社後、2021年に「富嶽蒸溜所」を設立。2023年からウイスキーの製造を開始する。
この記事はGOETHE 2026年6月号「総力特集:会員制への誘い」に掲載。▶︎▶︎ 購入はこちら









