PERSON

2026.05.08

名優ジャン・レノ「『グラン・ブルー』公開後は、自分を見失った」

『レオン』をはじめ、数々の名作映画に出演し、世界を魅了し続けるジャン・レノ。その輝かしいキャリアの裏には、“人間”ジャン・レノとしての苦悩もあったという。#前編

名優ジャン・レノ「『グランブルー』公開後は、自分を見失った」
 ©VirginieOvessianPhotographe

自分の原点は“舞台”

「自らのことを語りたい」と、自ら脚本を書き、舞台『らくだ』の上演を決めたジャン・レノ。表現の場として、舞台という場を選んだのはなぜなのだろう。

「この『らくだ』という自らを語るテキストを書いた時、それを映像で撮るということは一切頭になく、当初から生身の自分が舞台で演じることしか考えていませんでした。もちろん映画を愛してはいますが、私の俳優としての出自は舞台。今なお自分は舞台の人間だと思っています。

実は映画『グラン・ブルー』公開後、しばらく空白の期間がありました。ちょうど最初の離婚を経験した時期でプライベートでも苦しいことが多かったのもありますし、突然、世界中から注目を浴びるようになったことで、自分を見失ってしまったんです」

『グラン・ブルー』で彼が演じたのは、自信家で陽気で母親に頭の上がらない、典型的イタリア人のエンゾ。あまりのハマり役だったゆえ、「みんなが私をイタリア人だと思い込み、フランス映画界から声がかからなくなった」という。

スペイン人の両親のもとモロッコで生まれ、その後フランスで青年期を過ごしてきたジャン。明確に故郷と呼べる場所を持たない彼にとって、それは自分のアイデンティティを揺るがす出来事だったに違いない。俳優としての成功は、同時に、苦しみや孤独ももたらした。

名優ジャン・レノ
ジャン・レノ/Jean Reno
1948年7月30日生まれ。モロッコ・カサブランカに生まれ、1960年に家族でフランスに移住。演劇学校で演技を学び、パリの劇団で活動したのち、1976年に映画デビュー。1988年のリュック・ベッソン監督の映画『グラン・ブルー』で一躍注目を集め、1994年の『レオン』でその人気を確固たるものとした。その後、数々のハリウッド作品にも出演。主な出演作に『ミッション:インポッシブル』、『RONIN』、『WASABI』、『ダヴィンチ・コード』など。自身初となる小説『Emma(エマ)』の日本語版が2026年4月28日(火)に発売された。
©Nathalie Delépine

そして、自身を取り巻く急激な環境の変化に戸惑うなか、自分を取り戻すきっかけとなったのが、俳優としての出発点である“舞台”と“演劇”だった。

「その時期、フランスの郊外にある劇場で『アンドロマック』というトロイ戦争後のギリシャで起こる恋愛悲劇の舞台に立ったんです。私は脇役でしたが、自分のよく知っている世界に戻ってきて、どこかホッとしたし、初心に還ることができました。それまでどこか地に足が着いていないような感覚でいたのが、ようやく地に足が着き、再びゆっくりと歩き出すことができた。その経験は、自分にとってとても大きなことでした。このエピソードは、『らくだ』の中でも語られますが、やはり自分の原点は舞台だという意識がありますし、今もそこへのリスペクトの想いは変わっていません」

その日の観客の雰囲気や息遣いを肌で感じながら演じ、自身の一挙手一投足に対して直接的なリアクションが返ってくること。舞台の醍醐味はそこにあると、ジャンは言う。

「あの時の自分には、観客からの手応えのようなものが必要だったんだと思います。カメラの前で演じるのも楽しいけれど、直接的な交換を求めていたんですね」

悪さをしたときは、しっかり叱る

インタビューの合間には、ちょっとした冗談を挟み込んで笑いを提供するなど、場を和ませてくれたジャン。撮影中はBGMとして流されていた今回の舞台の楽曲に合わせ、少しおどけて歌ってみたりと、チャーミングな素顔を覗かせていた。

名優ジャン・レノ

「ユーモアは、私にとってとても重要。まさにこの舞台のなかでも描かれますが、自分のルーツはスペイン・アンダルシアで、アンダルシアンはユーモアを大切にする人たちなんです。厳しい環境にある土地だけに、生きるのにユーモアが必要だったのもあると思います。この舞台では、セリフだけじゃなく、その行間にあるもの……沈黙も静寂もユーモアも、全部楽しんでもらえたらと思っています」

世界を代表する名優でありながら、気さくでサービス精神旺盛。彼の言葉を借りるならば「ひとりの普通の人間」であるジャンの、プライベートで大事にしていることとは?

「それはやっぱり家族。いい父親で、いい夫でいること。妻に嘘をつかないこと。日本の家庭の父親と同じだと思いますよ(笑)。今はアメリカに住んでいるのですが、アメリカは朝食以外に食事と呼べる時間がないんですが、私は家族ととる13時と18時半の食事も大事にしています」

取材中も何度となく、「子供たちに自分のことを伝えたい」と話していたジャン。最後に聞いた「彼らにとって、自分はどんな父親だと思う?」という問いへの答えにも“人間”ジャン・レノが滲んでいた。

「いたずらさえしなければ、優しい父親だと思いますよ。ただ、悪さをしたときには、しっかり叱りますけどね(笑)」

※前編はこちら

『らくだ』
作:ジャン・レノ、演出:ラディスラス・ショラー、出演:ジャン・レノ、ピアノ:パブロ・ランティ 
【東京公演】2026年5月10日(日)~24日(日) 東京芸術劇場 シアターウエスト ほか、富山・兵庫・静岡・宮城・石川・高知・福岡・山口・京都・愛知・岡山での全国公演あり

TEXT=望月リサ

PICK UP

STORY 連載

MAGAZINE 最新号

2026年7月号

軽井沢と熱海の最新リゾート

最新号を見る

定期購読はこちら

バックナンバー一覧

MAGAZINE 最新号

2026年7月号

軽井沢と熱海の最新リゾート

仕事に遊びに一切妥協できない男たちが、人生を謳歌するためのライフスタイル誌『ゲーテ7月号』が2026年5月25日に発売となる。特集「軽井沢と熱海の最新リゾート」では、話題の「軽井沢 T-SITE」から熱海のシェア別荘まで、軽井沢と熱海の最新リゾート情報をお届けする。森保一、吉田修一、吉野北人、染谷将太…。

最新号を購入する

電子版も発売中!

バックナンバー一覧

GOETHE LOUNGE ゲーテラウンジ

忙しい日々の中で、心を満たす特別な体験を。GOETHE LOUNGEは、上質な時間を求めるあなたのための登録無料の会員制サービス。限定イベント、優待特典、そして選りすぐりの情報を通じて、GOETHEだからこそできる特別なひとときをお届けします。

詳しくみる