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2026.05.07

77歳ジャン・レノ、半生を演じ歌う!?  ナタリー・ポートマン、トム・ハンクスらとの裏話も飛び出る舞台『らくだ』に込めた想い

映画『グラン・ブルー』での尊大だけどチャーミングなベテランダイバーや、『レオン』での寡黙ながら心優しき凄腕の殺し屋。そこにいるだけで、作品に奥行きと彩り、ちょっとした渋みとユーモアが加わる。それがジャン・レノという存在だ。そして、2026年5月10日より、ジャン・レノが自らの半生を自ら綴り演じる舞台『らくだ』が上演される。しかもこの作品は、彼自らフランス出身の演出家と音楽家を伴い、この日本でクリエイションされるもの。異国の地で舞台に立つ名優の想いに触れる。#後編

名優ジャン・レノ、自分の人生を演じ歌う!?  ナタリー・ポートマン、トム・ハンクスらとの裏話も飛び出る舞台『らくだ』に込めた想い
©VirginieOvessianPhotographe

普通の人間としての自分を伝えたい

舞台『らくだ』の企画の発端は、なんとジャン・レノ自身。彼が、長年の友人でありフランス・エンターテインメント界で著名なプロデューサーのティエリー・スックとの食事の席で、自らの物語を舞台で演じたいと持ちかけたことから始まった。

「私には、自分の人生…これまでの自分の歩みを語りたいという想いがありました。というのも、これまで長年俳優として“自分ではない他人”を演じてきましたが、自分自身のことを語ることはありませんでした。私は誰で、どこから来た人間なのか。それを自分の子供たちに伝えたいし、みなさんにも、ポスターの中に写っている俳優ではなく、同じひとりの普通の人間であることを伝えたい、と考えたんです」

そんなジャンの想いを受けたスックは、彼に演出家のラディスラス・ショラーを紹介。ショラーは、今のフランス演劇界で最も注目を集める演出家のひとりであり、日本でも、橋爪功や若村麻由美らと4作の舞台を手掛けてきた。彼らは、その場ですぐに日本でクリエイションすることを決めたのだという。

「初めて日本を訪れてから四半世紀ほど経ちますが、その時から変わらず今もずっと大好きな国です。なぜ好きか、どこが好きなのか、理由を説明するのは難しいですが、日本にいると幸せなんですよね。日本人の優しさ、そして他者を受け入れて歓迎し、尊敬してくれる気持ち。それは25年前からずっと変わらずにあるものです。だから、クリエイションを日本で行うということに何の迷いもなかった」

(左から)  演出:ラディスラス・ショラー 、 作・出演:ジャン・レノ、ピアノ:パブロ・ランティ
(左から) 演出:ラディスラス・ショラー 、作・出演:ジャン・レノ、ピアノ:パブロ・ランティ

自らの人生を自ら綴り、演じる

2024年には、中東を舞台にフランス人療法士の女性の人生を描いた小説『Emma(エマ)』を発表し小説家デビューも果たすなど多才な人だ。今回の『らくだ』の脚本も自ら執筆を手がけている。それほどまでに、語りたい、伝えたいと願うのは、ジャン自身の出自が大きい。

両親ともにスペイン人ながら亡命し、彼が生まれたのはモロッコ・カサブランカ。その後家族でフランスに移住し、少年期からはフランスで育っている。

「亡命した私の父は非常に寡黙な人で、過去のことを私にあまり語ってくれることがありませんでした。だから、祖父母がスペイン・アンダルシアの人で、貴族の馬の世話をする仕事をしていたというのも、5、6年前に従兄弟から聞いて初めて知ったくらいです。それが今回の舞台の創作のもとになっています」

幼い頃の記憶。そして演劇と出会い、演じることの魅力を知り、俳優を夢見た青年時代。そして、リュック・ベッソン監督との出会いから、スターダムにのし上がってゆく過程での、光と影。ナタリー・ポートマンやゲイリー・オールドマン、トム・ハンクスやロバート・デニーロといった世界的俳優たちとの思い出――。これまでのさまざまな心象風景が詩的な言葉で語られてゆく。

「自分の人生を脚本に落とし込んでいくのはとても難しく、時間のかかる作業でした。書くにあたって、まずひとつ軸になる象徴的な出来事として、7歳の頃のカサブランカでの記憶をピックアップしています。ある日のランチの後、当時暮らしていた家のバルコニーから道ゆく人を眺めていた私に、母が『あそこを歩いている人の未来を当てることができる?』と尋ねました。そう聞かれた私は、その人を一生懸命観察し、その人の人生を想像しました。たぶんあれが、私が演じることに興味を持つようになった原点ではないかと思っています。そこから始まった、演劇への情熱。『グラン・ブルー』をきっかけに世界に進出していったことなど、それぞれのモーメントを嘘をつかず、できるだけ率直に、誠実に綴ったつもりです」

名優ジャン・レノ
ジャン・レノ/Jean Reno
1948年7月30日生まれ。モロッコ・カサブランカに生まれ、1960年に家族でフランスに移住。演劇学校で演技を学び、パリの劇団で活動したのち、1976年に映画デビュー。1988年のリュック・ベッソン監督の映画『グラン・ブルー』で一躍注目を集め、1994年の『レオン』でその人気を確固たるものとした。その後、数々のハリウッド作品にも出演。主な出演作に『ミッション:インポッシブル』、『RONIN』、『WASABI』、『ダヴィンチ・コード』など。自身初となる小説『Emma(エマ)』の日本語版が2026年4月28日(火)に発売された。
©Nathalie Delépine

合間には音楽が挟まれ、なんとジャン自ら歌唱するシーンも。

「自分の人生を語りながらも、シチュエーションによってストーリーの中に登場する人物を演じる場面もあります。また、自分の父や母の話をし、ノスタルジーに浸ったところから、次のシチュエーションへの切り替えに、全部で8曲の歌を挟んでいます。歌を挟むことで、芝居にリズムが生まれたと思います」

タイトルの『らくだ』とは自分自身のことなのだとか。

「自分にとってのtotem(自分自身を象徴する動物)とは何かを長年考えていたんですが、答えは明白で“らくだ”でした。らくだは、ゆっくりと歩を進め、人や物を運ぶ役割を担っています。私自身、ゆっくりと物事を反芻し、周りを観察しながら、一歩一歩前に進んでいくタイプですから」

※後編はこちら(5/8公開)

『らくだ』
作:ジャン・レノ、演出:ラディスラス・ショラー、出演:ジャン・レノ、ピアノ:パブロ・ランティ 
【東京公演】2026年5月10日(日)~24日(日) 東京芸術劇場 シアターウエスト ほか、富山・兵庫・静岡・宮城・石川・高知・福岡・山口・京都・愛知・岡山での全国公演あり

TEXT=望月リサ

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