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2026.08.06

【平尾喜昭 × 安宅和人】「AIは希望にも絶望にもなる」データサイエンスの先駆者が語り合うAI時代の意思決定

経営者、政治家ら各界のトップランナーが一堂に会するライブイベント「Climbers(クライマーズ)」。その最新回「Climbers X LIVE 2026」が2026年6月、東京ビッグサイトで開催された。今回は、データサイエンスファーム・サイカ代表取締役社長CEOの平尾喜昭氏と、慶應義塾大学教授およびデータサイエンティスト協会設立理事の安宅和人氏によるセッションを一部抜粋してお届けする。AI活用が当たり前になった今、人間は何で価値を出すのか。AI時代を生きる全ビジネスパーソン必見の対談に迫る。

【平尾喜昭 × 安宅和人】「AIは希望にも絶望にもなる」データサイエンスの先駆者が語り合うAI時代の意思決定
平尾喜昭氏(左)、安宅和人氏(右)。

「AIは希望の時代を導くか」という問いが間違っている

データサイエンスの最前線を走り続ける2人の言葉を待ち望むように、広大なホールは開演前から熱気に包まれていた。

セッションの冒頭、平尾氏が「AIは私たちを希望の時代に導くのか?」というテーマを投げかけると、安宅氏は「その問い自体が問いになってない」と返す。

「希望にするかどうかはこっち側の問題。あらゆる技術と同じで、希望にしたければ希望になり、絶望にしたければ絶望になります。AIは道具であり、それをいいものにするかどうかには人の意思決定がめちゃめちゃ重要です」

「問いを間違えるな」データを丸投げしても答えは出ない

平尾氏は安宅氏からの指摘に関連して、データサイエンスにおいて「問いの設定」自体がおざなりになっているケースが増えていることに警鐘を鳴らした。特に、適切な課題設定を怠り、最初からAIに丸投げしてしまう現場が増加している状況へ強い危機感を示している。

平尾喜昭氏

「AIって、データサイエンスの技術が具現化したものなのに、課題をすっ飛ばして『いきなり答えが導けるんじゃないか』みたいなシーンを見ることがあります。

例えば、まだデータサイエンスという言葉が一般的ではなかった時代の事例です。某コンビニチェーンが50名以上のデータサイエンティストを半年間投入して出した答えが“雨が降ると売上が下がる”だったんです。それはみなさんご存知ですよね。こういうことが起きるリスクは、AI時代も変わらないんですね」

安宅氏はこれに応じ、データサイエンスで見落としてはならない“比較の視点”を強調する。

「自社データだけを見ていても、最も影響を与えるものが外にある以上、答えは出ません。分析の基本は比較。例えば日本語の特徴を知りたければ日本語だけ見ていてもわからないんです」

「生の体験がすべて」

議論が「人間はどこで価値を出すのか」へと移ると、安宅氏は明確に答えた。

「結局、肌触りというか、実際に苦労をしていないと判断できないし、知覚できません。『何かが違うんじゃないか』と感じるためには膨大な生の経験や、苦しんだ経験が必要です。例えば『恋愛の達人』みたいな本があったとして、それを200回読んだら恋愛がうまくいくのでしょうか。そんな暇があったら口説いて、振られてみるしかありません。意図的に経験の幅を広げることが重要で、同じことばかりやっている人は知覚が深まりません」と安宅氏は強調した。

AI時代こそ、勇気を持った判断が必要

セッション終盤は、いかに「未来をつくる側に回るか」へとテーマが移り、活発な議論が交わされた。平尾氏が懸念するのが、AIの出力に無批判に従う人が増えていることだ。安宅氏もこれに同調する。

「何でもAIに投げて、それに従って生きるという人が増えてきていると思います。自分にとってろくでもない未来(が待っている)というか、冷静に考えればわかったはずなんです」

安宅和人氏

安宅氏が未来をつくるために必要だと語ったものは2つ。「嫌なものは嫌と言えること」と「勇気」だ。

「嫌だっていうことをはっきりさせないとOBゾーン(超えてはならない一線)がクリアにならないので、それができない人には未来はつくれないと思います。『自分が受け入れられない未来とはなんだ?』をはっきりさせることはものすごく重大です。

そして新しいことをやろうとする時、踏み込むのはAIではなく自分自身の勇気です。今までの延長にないことを選ぼうとするから勇気がいります。これはAIは関係なく、むしろ心を鍛えなくてはいけません。その選択の修練的経験を毎日積んでいるかどうかで、1年で数十倍、数年で数百倍の差がつくんです」

会場に向けた最後のメッセージで、平尾氏はこう締めた。

「AIは壁を乗り越えてくれません。壁を乗り越えるのは、ここに集まっている1人1人だと肝に銘じて、気持ちよく壁を乗り越えていきましょう」

安宅氏も続けた。

「AIに聞けばそれらしい答えを出してくれます。ですが、みなさんがそれを見た時に『違うんじゃねえか』と感じたなら、その感覚はたぶん正しいです。それを感じられなくなってきた時がやばいんです。自分の心の声が聞こえているかどうかを日々確認してほしいですね」

力強い言葉が東京ビッグサイトの会場に響いた後、大きな拍手がステージを包んだ。

平尾喜昭/Yoshiaki Hirao
サイカ 代表取締役社長CEO。慶應義塾大学卒業。父親が勤める会社の倒産を原体験として、在学中に出会った統計分析から経営支援の可能性を見出し、2012年にサイカを設立。エンタープライズ企業を中心にこれまで300社以上を支援。"ビジネスの成長スパイラルをつくるデータサイエンスファーム"として、再現性の高いビジネス成長に貢献してきた。著書に『狙って売上を伸ばすデータ分析の思考法 勝ち続けるための「データ×感性」6ステップ』

安宅和人/Kazuto Ataka
慶應義塾大学環境情報学部教授/LINEヤフー シニアストラテジスト。データサイエンティスト協会 設立理事・スキル定義委員長。マッキンゼー、ヤフーCSO(10年間)を経て現職。専門はデータ・AIによる社会システム設計。政府の科学技術・AI政策形成に参画。イェール大学Ph.D.(脳神経科学)。著書に『イシューからはじめよ』『シン・ニホン』『風の谷という希望』ほか。

TEXT=Re|vent編集部(Sansan)

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