大分県日出町(ひじまち)の名水に育まれ、麦だけの焼酎を生みだした二階堂酒造。老舗の歩みを支えてきたのは、土地の恵みと革新を恐れない精神だった。その矜持は今、焼酎文化を世界へ広げる挑戦へとつながっている。

大分の水と出合い、麦だけの焼酎をつくる。革新を恐れない精神と、その未来
よい酒は、よい水のある土地から生まれる。酒造りの原点ともいうべきその言葉を、二階堂酒造ほど揺るぎなく体現してきた蔵もないだろう。大分県速見郡日出町。清らかな湧き水に恵まれたこの地で、二階堂酒造は創業以来160年にわたり酒を造り続けてきた。仕込みの水はもちろん、瓶を洗う水にまで湧き水を用いる。その徹底ぶりは、日出町という場所そのものが、この焼酎の味わいを根底から支えていることの、何よりの証しとなっている。
しかし、歴史を動かすのは、恵まれた環境だけではない。二階堂酒造の名を世に轟かせたのは、土地の恩恵に甘んじることなく、麦だけで香り高い焼酎を造るという新たな道を選んだ六代目当主・二階堂暹の英断があってのことだった。
六代目は、戦後の米不足のなかで麦に着眼し「米で麹ができるなら、麦でもできるはず」という信念のもと麦麹の開発に着手した。麦だけで香り高く、まろやかな味わいの焼酎造りに挑み、1974年に日本初の「むぎ100%」本格焼酎を発売。その芳醇な香りとすっきりした飲み口が評判となり、大分むぎ焼酎の名を全国へと押し広げていく。
大分県北部は有数の麦の産地であり、味噌などの原料としての麦に親しみのある土地柄でもあった。だからこそ、日出町に根ざす蔵にとって麦を用いた焼酎への挑戦は、自然な流れだったのだろう。だが特筆すべきは、その製法について特許を敢えて取得しなかったことにある。自社で独占しなかったからこそ県内でさまざまな麦焼酎が生まれ、結果として産地としての厚みが増し、麦焼酎の文化が広がった。そこには、ひとつの蔵の成功にとどまらず、大分という土地の酒として麦焼酎を育てようとする大きな視野があったのだ。
土地の恵みを享受しながら、時代に応じて新たな道を切り拓く。二階堂酒造の歩みは、老舗の伝統を守るだけでなく、次代へ手渡すためには、更新が必須とも教えてくれる。むぎ100%焼酎の1杯には、日出町の名水と麦、そして革新を恐れなかった蔵の矜持が宿っている。
「焼酎文化を、大分の地から世界へ広げたい」
伝統を受け継ぐことは、変わらないことと同義ではない。時代に合わせて、その魅力をどう届け直すか。現在の二階堂酒造は、麦焼酎の新しい飲まれ方を模索しながら、次なる挑戦へと踏みだしている。その象徴が、別府駅前に佇む「THE NIKAIDO STAND」だ。「二階堂の地元で、乾杯する文化を広めたい」という思いから生まれ、スタンディング形式で1杯から気軽に焼酎を楽しめる場として、旅人や地元客に新たな接点を拓いている、と二階堂亨介氏は語る。
「別府は国内外からの観光客が多いにもかかわらず、昼から焼酎を楽しめる店が少なくて。だったらまずは自分たちの膝元で、焼酎の魅力を体験できる場所をつくろうと考えたのです」
挑戦は海外にも広がる。米国カリフォルニアを中心に展開を進め、2025年のシーズンからロサンゼルス・ドジャースとパートナーシップ契約を締結。球団史上初の公式焼酎に採用された。スタジアムでは月に一回ほど試飲イベントも実施。「タイミングとしては、大谷翔平選手の移籍と重なり、非常に幸運だった」と亨介氏が語るように、現地の人々に“焼酎とは何か”“二階堂とはどういう会社か”ということを知ってもらう活動を続けている。
目指すのは、焼酎がスピリッツのひとつとして世界で認識される未来。すぐに結果が出る挑戦ではないと理解しながらも、長い時間軸で焼酎文化を広めようとするその姿勢は、かつてむぎ100%の焼酎で新たな扉を開いた六代目の開拓精神とも大いに重なって見える。

1990年大分県生まれ。二階堂酒造・六代目当主である二階堂暹氏を祖父に持ち、七代目当主の雅士氏の三男として生まれる。現在は、広告代理店アイ・エージェンシー代表取締役社長として、二階堂酒造の広報を担当。八代目当主であり、現代表取締役の兄・裕一氏とともに、二階堂の海外進出をサポートする役割も担う。
二階堂酒造
慶應2年(1866年)創業。二階堂酒造場(屋号:喜和屋)として、清酒の製造・販売を開始。第二次世界大戦の休業を経て、1948年に焼酎の製造で復業。1951年に六代目の二階堂暹が杜氏となり、麦による麹の製法を開始。1973年にはだか麦100%を用いての「むぎ焼酎」を開発。翌年発売し、むぎ焼酎ブームを牽引。以来、100%むぎ焼酎のパイオニアとして、業界のトップランナーであり続ける。現在は、八代目当主の二階堂裕一が代表取締役社長に。

大分むぎ焼酎 二階堂|日本初の「むぎ100%焼酎」は、芳醇な香りと味わいが魅力
厳選された大麦と麦麹、清らかな水だけで造られた焼酎。日本で初めての、原材料も麹も麦100%の「二階堂」は、1974年に発売開始。全国的なむぎ焼酎ブームの火付け役となる。オレンジ色のラベルはたわわに実った麦の色合いを彷彿とさせ、減圧蒸留によりクセを抑えた味わいは、麦の甘みが十分に感じられる。ロック、水割り、お湯割り、ソーダ割りと、さまざまな飲み方で楽しめる。

吉四六|唯一無二の表情が魅力のプレミアムなむぎ焼酎
華やかな香りと芳醇な味わいを持つ「吉四六」は、「むぎ焼酎二階堂」をじっくりと寝かせ、熟成させたプレミアムな1本。手焼きの陶器に詰め、コルクで栓をすることで壺の中でも熟成が進むのも特徴的である。吉四六の名前は地元の古い民話の主人公から名づけられ、壺の文字はすべて職人による手書き。ひとつとして同じものが存在しないという点からも、造り手の大きなこだわりを感じる。

THE NIKAIDO STAND
店舗は駅から徒歩一分という好立地。電車の待ち時間に立ち寄る人、ホテルのチェックイン前に1杯飲む人、ディナー前に待ち合わせてアペリティフ感覚で利用する人など、新しい楽しみ方のシーンが生まれている。また、若い女性の来店が多いのも特徴的で、従来の焼酎のイメージとは異なる軽やかな接点となっているという。

住所:大分県別府市駅前本町3-1
営業時間:12:00〜L.O.19:45
定休日:火曜
Instagram:@thenikaidostand
問い合わせ
二階堂酒造 https://nikaido-shuzo.co.jp

