自分は無敵と信じていた20代。砂を噛む思いで夢を捨てていった30代。そして50代に宮本浩次は心のギアを入れ直し、ソロ活動をスタートした。強くカッコよく生きたい思いをロックにした新作『I AM HERO』で60代のフェイズを迎える。

「強くカッコよくありたくて、クソッ! と歯を食いしばってきた」
ロック・バンド、エレファントカシマシのボーカリスト、宮本浩次はソロ・アルバム『I AM HERO』をリリースした。「over the top」「I love 人生!」「愛を抱きしめろ」……。曲のタイトルからも熱量の高さが伝わる。この作品の最大の魅力のひとつは、剥きだしであること。ありのままの宮本が歌う。叫ぶ。ギターをかき鳴らす。
「やっぱり、そのままの宮本が歌っている声がいいね」
6年前に中島みゆきの曲「化粧」をカバーした際、プロデューサーの小林武史に指摘された。
「作業場で録音したデモテープを聴いてもらった時、でした。僕はレコーディング・スタジオで、いい機材で、腕利きの演奏で歌い直すつもりでいた。でも、小林さんが、デモの歌のままでいこうと言ったんですよ」
この時、宮本は自分の“弱点”を察した。
「僕はロック歌手らしくカッコつけたかったんです。見栄を張りたかった。でも音楽は、きれいに装えばいいわけではない」
音楽には演者の本質が表れ、リスナーはそれを敏感に察知する。
「音は嘘をつけません。自分が全部伝わっちゃいます」
2026年2月、大阪のフェスティバルホールでのソロ・コンサートで歌ったエレファントカシマシの曲「悲しみの果て」では、極上の体験をした。
「小林さんをはじめ全員が曲を消化し無欲で演奏してくれた。エレカシでは体験したことのない『悲しみの果て』になりました。自分の腕一本で勝負しているミュージシャンだからこその凄みでした。歌手冥利に尽きた。そんなプロ中のプロと8年やって、自分の脚で立てたと思えるアルバムが『I AM HERO』です」
無敵だと思っていた20代。ギアを入れ直した50代
20代、宮本は自分をスーパーな存在だと信じてきた。
「僕は高度経済成長期の東京・赤羽の2DKの団地で育ちました。学校の仲間とバンドを組み、ヤマハのコンテストの地区予選で優勝。CBSソニーのオーディションに受かってデビューした時は天下を取った気分でした。音楽シーンに革命を起こすぞ、と。でも、現実は厳しかった。なかなかCDが売れずレコード会社に契約を切られ、お金がなくて、実家でご飯を食べさせてもらっていましたよ」
30代には早くも“オジサン化”する自分を意識した。
「厳しい現実を体験して、かつて夢見ていたものをひとつずつあきらめていきました」
しかし50代、あらためて心のギアを入れ直す。
「時間がない、と感じたんです。自分では“50代の青春”と言っていますが、公私ともにそれまでできなかったこと、やり残したことに本気で取り組みました。そのひとつがソロ活動です。エレカシの魅力は十分に理解しています。でも、それでは満足できなくなった」
ずっと歌い続けるため飲酒喫煙を断つ
アルバム『I AM HERO』でも、宮本は本心から思っている言葉を選び抜いて歌う。
「『I love 人生!』では、飼いならされたPassionという言葉が生まれました。乱暴な言い方ですが、クソッ! クソッ! と歯を食いしばって僕は歌ってきた。強くカッコよくなりたくてね。でも、現実は簡単にはいきません。僕は芥川龍之介や太宰治が好きで、あの人たちは一生懸命生きていたがゆえ自殺したと思っていました。憧れる人にはカッコよくあってほしいですから。でも、実際には弱いから死を選んだのかもしれません。そんなことを考えていたら、飼いならされたPassionという表現にたどりついたんです」
カッコ悪く見える凡事を徹底することこそ、実はカッコいいのかもしれない。
「ステージでカッコつけて歌っていても、実生活の僕はめんどくせーなぁ、と言いながらトイレ掃除もやっています。自分に負荷をかけないと、飼いならされた存在になるのが怖いから。駅ではエスカレーターではなく階段を選ぶ。強くありたいから」
心にも身体にも鞭打つことで、たくましい自分を維持する。
「50代に僕は人生のプライオリティを決めました。飲酒喫煙はやめた。一番大切な歌を続けるためにいらないと判断したからです。おかげで、今は喉も身体のコンディションもいい。打ち上げをやめたので、生活は味気なくなりましたけれど」
健康管理を心がけて、82歳でワールドツアーを行うローリング・ストーンズのボーカリスト、ミック・ジャガーを宮本はリスペクトしている。
「ミック・ジャガーは今も『イッツ・オンリー・ロックン・ロール』を歌っていますよね」
たかがロックン・ロールじゃねえか、という1974の曲だ。
「化け物ですよ。あそこまで行けたら、素晴らしい」
2026年6月12日に宮本は還暦を迎えた。新しいアルバムを持って次のフェイズに入る。

1966年東京都生まれ。1988年にエレファントカシマシのボーカリストとしてアルバムデビュー。「今宵の月のように」「悲しみの果て」など名曲多数。2020年にソロアルバム『宮本、独歩。』、カバーアルバム『ROMANCE』発売。最新作は『I AM HERO』。2026年も8〜9月に夏フェスに多数参加する。
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