PERSON

2021.03.21

ロックシンガー宮本浩次、インタビュー全公開「ドーンとゆけ!」

アグレッシブに仕事に打ちこむ者たちの傍らには、活力を与え続けてきた勝負アイテムがある。闘う仕事人たちの相棒と、その勝負論とは? アルバム『宮本、独歩。』、カバーアルバム『ROMANCE』など、その真摯な取り組みが評価され「芸術選奨文部科学大臣賞」の「大衆芸能部門・文部科学大臣賞」で受賞を果たした宮本浩次さん。表紙を飾った本誌創刊15周年特別号の4月号の全インタビューを大公開!

宮本浩次のセリーヌのネクタイ

「50代、シンガーとして新たなステージで勝負する象徴」

「52歳くらいの頃でしょうか、新しいスタートといいますか、勝負を意識しましてね。そのステップを上がる象徴のひとつがネクタイでした。これまではずっと黒のジャケットに白のシャツで、ノーネクタイで歌ってきましたから。今日はセリーヌの細いデザインです」

ロックバンド、エレファントカシマシのボーカリストでギタリストの宮本浩次氏は、2018年にソロシンガーとしての活動をスタート。新しい宮本浩次も意識して、ネクタイを身につけた。そして、今回の表紙では自前のタキシード姿も披露した。

「実は、私、タキシードがよくわかっていなくて。これはスモーキングジャケット(タキシードの原型とされている)として買って普段着に使っていた服です。だから、Tシャツと合わせたこともあります。蝶ネクタイをしたのは生まれて初めてなんですよ。私が着ると、ちょっとウェイターさん風かな……。最近ロレックスも手に入れました。腕時計は小学校6年生の時のセイコーのデジタルウォッチ以来です。靴もね、50歳になる節目の誕生日に、うんと高い靴が欲しくて買いにいって。世の中にこんな高い靴があるんだ! とびっくりして。でも、敢えてそれを買ってみました」

今までにはなかった選択の場面で、試行錯誤を重ねている。

「ファッションって、身体に合えばいいというわけではないですよね。極端な例ですが、私、ジャージが似合うんですよ。細身のTシャツにフードつきのトレーニングウェアを合わせます。でも少し窮屈に見えても、楽をせず、自分に負荷をかけたほうがカッコいいし、面白い。いやあ、難しいですね」

ネクタイ、スーツ、シャツ、デニム、タキシードをセリーヌで揃えた。「クリエイティヴ・ディレクターのエディ・スリマンが好きなんです」。

ソロ活動で歌手として自分の原点に還った

実は’12年にはすでに、宮本氏はソロ活動を意識していた。

「エレファントカシマシのデビューは33年前ですが、私がバンドに参加したのは中学3年生の時。もう40年になります。同級生の仲間でスタートして、高校の時は修学旅行も行かずにバンドで練習をしていました。中学も一緒。高校も一緒。大人になっても一緒。40年も一緒にいるバンドは、日本では他にはないと思います。でも、これだけ長いと、お互いの関係に疲れてしまうんですよ。それで、ソロ活動をしようという話をしました」

ところが、宮本氏の左耳に予期せぬトラブルが襲った。

「急性感音難聴で、音楽そのものを休まなくてはいけなくなってしまいました。復帰後は、バンドにとっての勝負、デビュー30周年に向かっていってね」

’17年に宮本氏自身が選曲したベスト盤『All Time Best Album THE FIGHTING MAN』は大ヒット。全国47都道府県を回るツアーのチケットは完売が続いた。大晦日には紅白歌合戦にも初参加した。

「そして、’18年からソロ活動を始めました。47都道府県ツアーの前にはエレファントカシマシのメンバーにも、スタッフにも宣言して、準備をして」

’18年には椎名林檎とのコラボレーションで「獣ゆく細道」、’19年には初ソロ曲「冬の花」、’20年には初ソロアルバム『宮本、独歩。』をリリースした。

そして2枚目のソロアルバム。松任谷由実、中島みゆき、松田聖子など女性シンガーの名曲をカバーした『ROMANCE』は、オリコンのウィークリーチャートで1位のヒットとなった。

純粋に好きな曲を歌ったアルバム『ROMANCE』

「『ROMANCE』がこんなに売れるとは思いませんでした。プロデューサーの小林武史さんと二人三脚で作った、セールスよりも純粋に好きな曲を精一杯集中して歌ったアルバムでしたから。もちろん、売れていることは嬉しいし、いや、実はもうちょっと売れたいと思っていますけれど、歌が好きだと改めて感じたことが、私にとってはデカいですね。小学生の時にNHK東京児童合唱団にいて、宮本浩次としてCD『はじめての僕デス』を収録しています。あの歌手としての私の原点、喜びを思いだしました」

アルバム『ROMANCE』のヒットによって、テレビの音楽番組で歌う機会も増えた。

「コロナ禍でツアーができないなか、テレビ番組で歌えることは嬉しくてね。スタッフの皆さんの気合も伝わってきて。スタジオでは、その場に私が必要とされている空気が感じられました。不思議なもので、自分にふさわしくない場所にいると、どんなに叫んでもリスナーに伝わりません。ところがふさわしい場所だと、歌がしっかりと届きます。無理をせず、素になれる」

身体から力が抜け、歌に全力を注げるという。

「『ROMANCE』の曲は名曲ばかりなので、作品が持っている力に助けられてはいるけれど、歌うことは、やっぱり私の“得意分野”なんですよ」

スリマンの服はデヴィッド・ボウイをはじめ、スタイリッシュなロックシンガーたちに愛されている。

エレファントカシマシが再集結した時は勝負

「50代は新たなスタート地点」

宮本氏はそう感じている。

「今、私は54歳で、辞書に書かれている解釈のとおりなら、もう初老の域です。でもね、まだ勝負できると思っています」

インプットにも積極的だ。

「コロナ禍で在宅時間が増えたから、本を読み直しているんです。『論語』『春秋左氏伝』『伊勢物語』、夏目漱石の『彼岸過迄(ひがんすぎまで)』など10冊を並行して。そのうち9冊はすでに読んだ本です。2回、3回と読むと、より深く理解できる。道徳として読んだ『論語』も、歴史物語として読み直すともっと面白く感じます」

音楽は、かつて夢中になったロックを聴き直している。

「ローリング・ストーンズの’60年代、’70年代のアルバムを聴いています。素敵ですよ。好きな音楽を全力でやっているカッコよさがあるんです。ストーンズは、10代の頃にも石君(エレファントカシマシのギタリスト、石森敏行氏)と聴いていたけれど、大人になると新しい発見があります。『ジャンピン・ジャック・フラッシュ』も『ブラウン・シュガー』も、メンバーみんなが楽しんでいる様子が音を通して伝わってきてね」

ストーンズのようなマインドで歌いたいーーと思った。

「エレファントカシマシも、セールスを意識しすぎず、力まず、全員が自然体で迷わず音を出せる領域に行きたい。その確信が持てるまで、歌を突き詰めようと思います。今は私、ソロ活動中です。でも次にメンバーが揃う時に、集まって演奏するだけでは意味がありません。さらにいい音楽をやらなくてはいけない。勝負の時だと思うんですよ。バンドの次のステージについては悩んでいます。簡単に答えは出せません。今は全力で歌うだけです」

「50代を迎え、自然体で歌えるように、さまざまなものを俯瞰できるようにもなってきました。素の自分で突き進みます」。

 

カバーアルバム『ROMANCE』

カバーアルバム『ROMANCE』
松任谷由実「恋人がサンタクロース」、中島みゆき「化粧」など12曲をカバー。(通常盤¥3,000、ボーナスCDつき初回限定盤¥3,500/ ユニバーサル ミュージック)

Hiroji Miyamoto

Hiroji Miyamoto
1966年東京都生まれ。’81年エレファントカシマシ結成。’88年『THE ELEPHANT KASHIMASHI』でデビュー。バンドでアルバム23枚、シングル50枚発表。2020年ファーストソロアルバム『宮本、独歩。』発売。

TEXT=神舘和典

PHOTOGRAPH=操上和美

HAIR&MAKE-UP=茅根裕己(Cirque)

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