女性シンガーの名曲をロックに歌いあげ、高い評価を受けた『ROMANCE』に続く、待望の新作カバーアルバム『秋の日に』をリリースした宮本浩次。なぜ宮本は女性の曲を選んで歌い続けるのか。
歌の主人公の女性たちに恋をしてしまいます
ゴリゴリと鳴るギター。許されぬ恋をいたわるような声。宮本浩次の「恋におちて -Fall in love-」は、1985年に小林明子がヒットさせたバラードとは味わいの違うロックだ。
「あのテイク、ほとんどデモテープのままなんですよ。プロデューサーの小林武史さんがゴツゴツしたギターのままがいい、と言いまして。私は少し驚いたんですけれど、デモの歌とギターにピアノを少し加えプリミティブな仕上がりになりました」
宮本浩次のソロアルバム『秋の日に』は女性シンガーの曲が6曲収録されている。
「2022年11月12日に有楽町と神戸で、『ロマンスの夜』というゴージャスなショーを企画しましてね。そのインビテーションカード代わりにつくったのが『秋の日に』です。ところが、私、風邪をひいてしまい。東京公演は延期になって。ああ……思いだすと今も悔しいですね」
最初はスロウナンバーを3曲収録するつもりだった。しかし、宮本らしくロック色を出し、「恋におちて」や中森明菜の「飾りじゃないのよ 涙は」「DESIRE -情熱-」では自ら弾いたギターが前面に出ている。
「名曲やヒット曲には共通する魅力があります。その時代、そのシンガーがとても輝いていることです。歌詞の主人公の女性たちもとても素敵で、共感できます。歌っている私が恋をしてしまうほどです。中森明菜さんの楽曲はよく聴いていたけれど、真剣に向き合うのは初めてでした。びっくりしました。ハードなロックだけど、ラウドしないんですよ。わかりますか? クールなまま、女性のダークサイドを歌います。カッコいいです」
レコーディングで、自分とタイプの違うシンガーだと知った。
「私はバンド、エレファントカシマシで必要以上に絶叫してきました。でも、明菜さんや『愛の戯れ』の平山みきさんは表情を変えずに女性の悲哀を歌います。感情移入がとても難しい歌唱スタイルです。私にとって貴重な出会いでした」
なぜ宮本は女性の曲を選んで歌い続けるのか――。
「女性の優しさとか、涙をこらえる姿とか、かわいいじゃないですか。そのかわいらしさを歌いたいんですよ」
一方、男性シンガーの曲は沢田研二を意識してしまうそうだ。
「いやあ、男の歌を歌うとね、オレよりジュリーのほうがずっと色気があるじゃないか、と思っちゃいます」
2023年に入り、宮本はエレファントカシマシ35周年としてバンドとしては実に4年9ヵ月ぶりの新曲をリリース。初のアリーナツアーをスタートする。
「CDデビューからは35年だけど、赤羽の中学の同級生を中心に15歳で結成してからは42年です。その原点に戻ります。メンバー4人にしかない感じで、また絶叫します」
バンドでは“プレイング・マネージャー”の役割にも戻る。
「ソロ活動では、ドラマーやベーシストやメンバーたちにサウンドを委ねて、シンガーに徹することができました。ひとりの“プレイヤー”として歌いました。その体験はバンドで、自作自演でやる私にも必ずプラスになっているはずです」