「夢と金」の関係に真正面から向き合い、数々の常識を覆してきた西野亮廣氏。変わり続ける時代のなかで、変わらずに夢を追い続けるために必要な技術と覚悟を記したビジネス書最新刊『北極星 僕たちはどう働くか』が話題だ。20年前に「打倒ディズニー」を掲げて以来、大胆な挑戦とともに新しい資金調達方法を実行し続けてきた西野氏は、今や夢に向かう人にとっての「北極星」とも言える。著書のなかでも説いている、創造の加速装置としてのファイナンスの力について詳しく聞いた。

エンタメで世界に挑む"北極星"。ファイナンスの力で創造を加速させる
――西野亮廣氏は、自らの現状をどう捉えているのか? インタビューの冒頭、まずは西野氏に、こうたずねてみた。
作・脚本・製作総指揮を務めた『映画 えんとつ町のプペル 〜約束の時計台〜』が公開中であり、絵本『えんとつ町のプペル』をもとにしたブロードウェイミュージカルの制作も進行中。加えて今回の取材が行われたのは、共同プロデューサーを務めるブロードウェイミュージカル『キャッツ 〜THE JELLICLE BAL〜』のトニー賞3冠受賞が発表された数日後。大きな話題が重なったなかでの冒頭の質問だったが、西野氏から返ってきたのは、感慨の言葉でも、冷静な自己分析でもなかった。
「今は完全に、『次』を見ていますね。今日も、とにかく世界一デカい祭りをつくる、っていうプロジェクトの打ち合わせがあって。今後しばらくはそこにリソースを『全振り』しようとしているところです」
お笑いコンビ・キングコングとして世に出てから四半世紀。西野氏は常に「次」へと挑み続け、絵本や小説、映画、舞台など、表現の領域を広げてきた。長年掲げてきた目標は「打倒ディズニー」。自身が主宰するオンラインサロンには、そうした姿に共感する人々が集い、国内最大規模の会員数を誇る。
さらには、これらの企画・運営を行うCHIMNEY TOWNの代表取締役として経営にも当たり、現在も美術館運営など多方面のプロジェクトに奔走する。そもそも西野氏はなぜ、これほどまでに精力的に活動できるのだろうか。
「僕自身が『まだ見たことがないもの』を見たいし、これからを生きる子どもたちにも見せてあげたい。そして、それをつくるのが、ほかの誰でもなく、自分たちでありたいんです」
「まだ見たことがないもの」は願うだけでは生まれない。そこにはお金が必要だ。西野氏はこれまで、購入型クラウドファンディング(以下CF)やNFTの活用など、現在では広く認知されている資金調達の手法を時代に先駆けて取り入れてきた。
「自分でお金を集めることを初めて意識したのは、20代半ばのころでした。ゴールデン帯のバラエティ番組のレギュラーを務めるなかで、スポンサーからの広告費という定められた枠内で、やりたいことをやらせてもらうには、限界があるんだと感じたんです。それから童話作家としての活動を始めて、ニューヨークで個展を開くためにCFを活用したのが、自分で資金を集めた最初の経験でした」
2016年にはオンラインサロン「西野亮廣エンタメ研究所」を設立し、会費という「ダイレクト課金」によって安定収入を得ながら、自身の考え方や制作状況を会員に発信できる環境を整え、サービスや商品の販売、CFなどを展開していった。
ファンをはじめ自身の考え方を応援してくれる人々から、活動資金を集める。それによって、スポンサーの意向に左右されることなく、自分自身がつくりたいものを追求できる環境を求めたのだ。絵本『えんとつ町のプペル』もまた、分業体制に伴い規模が大きくなった制作費の一部をCFで確保した。

1980年兵庫県生まれ。芸人・童話作家。絵本では『Dr.インクの星空キネマ』『えんとつ町のプペル』ビジネス書では『革命のファンファーレ』『夢と金』『北極星 ~僕たちはどう働くか~』など、ヒット作多数。原作・脚本・製作総指揮を務めた『映画 えんとつ町のプペル』(2020)は、日本アカデミー賞をはじめ、多数の映画賞を受賞。ブロードウェイでは、2025年に舞台『OTHELLO(オセロ)』 の共同プロデューサーを務め、週間興行成績3週連続1位を記録。『キャッツ 〜THE JELLICLE BALL〜』にも共同プロデューサーとして参画し、第79回トニー賞3部門を受賞。2026年3月に最新作『映画 えんとつ町のプペル ~約束の時計台~』が日本全国で公開された。
「お金がないから」は執着心の不足でしかない
西野氏は、これらの実体験を通じて得た資金調達やビジネスのノウハウを積極的に発信。執筆したビジネス書は軒並みヒットし、エンタメの世界を越えて、ビジネスパーソンなどからも注目を集める存在となった。一方、「詐欺だとか宗教だとか言われましたね」と自ら語るように、批判も付きまとってきた。
「日本では、投資イコール怪しいもの、と捉えられるなど、ファイナンス全般に対する認識が十分ではないですからね。クリエイティブ系の学校でも、お金を集める技術はほとんど教えません。でも、それでは世界に打って出られるようなたくさんの才能が、宝の持ち腐れに終わってしまう。お金は、クリエイターがよりよいものをつくるための『道具』のひとつ。料理人が包丁に、野球選手がバットにこだわるのと同じなんです。技術を磨くだけではなく、お金について考え抜くのは、当然のことだと思います」
だからこそ、西野氏は自らに対する批判も「どうでもいいんですよ」と意に介さない。
「お金がないからできない、というのは、ものづくりに対する執着が足りないということ。初めから資金面の制限を設けては、発想も小さくなってしまいます。本当につくりたいものがあるならば、その実現のためにあらゆる手段を尽くすべきです」

「僕がここで本に書かなかったら、日本は、重大な選択肢を失ったまま、この先、5年10年過ごすことになる。」
――24万部突破のベストセラー『夢と金』から3年の間に、日本人の誰も経験していないビッグスケールの挑戦から得た知見を、すべて本書に詰めこんだ! 西野亮廣のビジネス書史上、ブッちぎりの最高傑作。(幻冬舎刊、1,980円)
総クリエイター時代に事業投資型CFを
そして現在、「つくりたいものの規模がどんどん膨らみ、従来の手法だけでは、資金調達が追い付かなくなりつつある」という西野氏が、積極的に活用するのが、「事業投資型CF」だ。
一般的に知られる購入型CFは、支援者が商品やサービスなどの返礼品を「買う」ことでプロジェクトを支えるもの。一方で事業投資型は、事業の利益の一部が投資家に分配される仕組み。プロジェクト主催者は、返礼品をリターンの中心に据える必要はない。加えて投資家が株主のように意思決定の議論に関与する立場ではないため、クリエイターにとって、創作の自由を担保しやすい。
さらに、「一緒にものづくりをしたい、という現代のお客さんのニーズにも合致するんです」と西野氏。投資を通じてプロのクリエイティブに関わるという当事者体験が、SNSやAIの普及により総クリエイター時代を迎えた今こそ、大きなインセンティブになるのだという。
――後編につづく――
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