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2026.06.26

売上高1兆円超の巨大連合「マツキヨココカラ&カンパニー」を形作ったファイナンスの力

GOETHEとファイナンスプラットフォーム「FINCHI」がタッグを組み、新メディア「GOETHE Finance powered by FINCHI」を創設。ビジネス界で圧倒的な実績を持つリーダーたちは、M&Aや投資などの「ファイナンス」をどのように捉え、活用しているのか。その最前線の思考に迫る連載を通じて、日本における「ファイナンス」をカルチャーとして定着させていく。今回は、2021年の経営統合から始まったマツキヨココカラ&カンパニーの取締役グループ事業企画統括、山本剛氏を取材。業界内での「椅子取り合戦」の最終局面において、山本氏が指揮を執るファイナンス戦略とは。

ファイナンスについて語る山本剛氏

規模から資本効率へ。集約期の生存戦略

ドラッグストアという業態が日本に定着してから約四半世紀。売上高1兆円を超える巨大連合である「マツキヨココカラ&カンパニー」で、同社の成長戦略を牽引し、M&Aなどのファイナンスの舵取りを担う山本剛氏は、現在の業界が置かれた局面をこう分析する。

「日本の小売業は歴史的に見ると、多くの業態において最終的には3社から5社に集約されていきます。GMS(総合スーパー)もコンビニも、100円ショップもそうです。ドラッグストアもまた、全国チェーンとして残る椅子はそれくらいでしょう。まさに今、その『最後の椅子』を奪い合う局面にあると考えています」

そのために目指すのは、「規模」だけではない。収益の「質」において他を圧倒する、独占的ポジションの構築だという。

「標準的なドラッグストアは、食品や雑貨で客数を稼いでいて、ヘルス&ビューティー(H&B)比率が50%程度という売上構成が一般的。しかし我々は、H&B比率が7割超で、食品比率はわずか10%程度です。

生活インフラとして食品を強化するチェーンが1~2社残るなら、我々は『美と健康のスペシャリスト』として、その椅子を確実に確保する。勝負所はそこにあります」

利益率も高いこの領域に経営資源を集中投下し、資本効率を最大化する――。そのための強力な武器となるのが、同社のM&A戦略だ。

ファイナンスについて語る山本剛氏
山本剛/Tsuyoshi Yamamoto
1966年東京都生まれ。1990年に富士銀行(現みずほ銀行)に入行、みずほ証券でのM&Aアドバイザリー業務などを経て、2016年にココカラファイン(現ココカラファイングループ)に顧問として入社。2017年に取締役常務執行役員、2019年には取締役副社長に就任。2021年10月、マツモトキヨシホールディングスとの経営統合に伴い、マツキヨココカラ&カンパニーの取締役に就任。現在はグループの事業企画統括として、M&A、組織再編等のコーポレートアクション、店舗開発、CVCによるスタートアップ投資などを管掌し、巨大グループのシナジー創出と経営基盤の強化を推進する。


「売上高より志」M&Aで重視する共感

マツキヨココカラ&カンパニーのM&A戦略において、直近で目立つのが地方有力チェーンのグループ入りだ。福岡の「新生堂薬局」や東京の「ユニバーサルドラッグ」のグループ化は、「弊社のエリア戦略を象徴する事例」と山本氏。

「我々は『都市型』に絶対的な強みを持っています。注力エリアは明確で、首都圏(東京中心)、関西圏(大阪中心)、東海圏(名古屋周辺)、そして北九州(福岡中心)の4大エリアです。ここに経営資源を集中投下します。

例えば福岡の新生堂薬局さんは、地元で非常に強固な基盤を持っていました。彼らがグループに入っていただけたことで、我々の福岡での競争優位性は一気に加速しました。今後も、こうした注力エリアにおける密度を高めるためのM&Aを継続していきます」

物販と並ぶ収益の柱には「調剤薬局事業」がある。ドラッグストアでの調剤併設は業界のトレンドだが、同社は専門チェーンの買収によって、その精度と規模を一段引き上げようとしている。

「調剤薬局事業は、物販と並ぶ注力事業のひとつ。過去にも調剤専業チェーンを多数買収してきましたが、今後も志を同じくするチェーンを慎重に検討していきます」

ここで興味深いのは、買収先の選定基準だ。単に「売上がいくらあるか」ではなく、両者の「志」の重なりを最重視するという。

「注力する商品軸が『美と健康』であり、そこでお客様に貢献したいという志の部分で共感し合えるかどうか。例えば郊外型で食品を6割置くようなチェーンとは、ビジネスモデルそのものが違うため、統合しても我々の強みであるオリジナル化粧品(PB)の展開やデジタルマーケティングを最大限に活かしきれない部分もあります。したがって、美と健康の領域で、収益性の伴った規模の拡大を目指すという、同じ方向を目指す仲間に参画いただけることが重要で、それがM&A後のシナジーが最大化される要因となるのです」

しかし、どれだけ志が一致していても、それを実際の企業価値へと転換できなければそのM&Aは投資としての意味をなさない。そのシナジーを確実な利益へと変えるPMI(統合プロセス)に、M&A後の最大の難所がある。

山本氏は、M&Aアドバイザリーとしても活躍してきた自身の経験から、経営統合を失敗させてしまう「甘さ」を熟知している。

「PMIがうまくいかない最大の理由は、それぞれに既存の仕組みを並列で動かそうとすることにあるのです。結局どちらの仕組みも中途半端に残り、よさを削り合ってしまう。

我々の考えは違います。とにかくできるだけ早く『共通化』する。マツキヨとココカラが一緒になる時も、統合初日から商品棚割(品揃え)を統一することを最優先しました」

その象徴的なエピソードが「在庫の廃棄」だ。

「統合初日から商品棚割を揃えるために、事前に何十億円分もの在庫を処理しました。短期的にはその何十億円は損失となりますが、これによって統合後3年間300億円のシナジーが生まれるまでのスピードが劇的に上がりました。

遅かれ早かれ手を入れなくてはいけないことを先延ばしにしている間に、企業価値は毎日毀損され続けます。この『時間損失』を最小化すること。それが経営統合における最大のファイナンス戦略です」

ファイナンスについて語る山本剛氏

「&カンパニー」に込めた仲間を求める思い

これらの統合方針を元に同社が次に挑むのが、小売りを「メディア」として再定義すること。単に物を売るのではなく、情報を発信し、消費行動を設計する存在へと生まれ変わろうとしている。

2024年にグループ入りした化粧品の口コミアプリ「LIPS」の運営会社、AppBrewとの関係にその核心を垣間見る。

「自社のアプリや店舗を広告メディア化するリテールメディア事業は、我々の3本目の柱と言える事業領域として成長させたいと考えています。AppBrewのポテンシャルは凄まじく、グループインしてから非連続な成長を遂げています」

なぜ、この広告ビジネスが利益を生むのか。その理由は、同社が持つ「出口(店舗)」の強さにある。

「メーカーさんは、広告費がどれだけ売上につながったかという効果検証を切望しています。我々はいわゆるハイブランドを除くと国内化粧品シェアの3割を握り、なおかつ4500万人以上の顧客IDと精緻なPOSデータを持っている。

例えばLIPSで広告を見た人が、実際に店舗で何を何個買ったか。IDが紐づいていれば、1円単位で測定できる。これは、広告の価値そのものを根底から変える革命です」

AppBrewの買収において、マツキヨココカラ&カンパニーはこれまでのドラッグストアのM&Aとは異なる、しなやかな統合戦略を用いている。

「地方ドラッグストアのような同業者には『合理的な範囲での共通化』を求めますが、AppBrewのような異業種ベンチャーには別の手法を採りました。彼らのポテンシャルは、非常に優秀で豊富な人材にある。ですから、ビジネスの根幹の仕組みはいじらず、方向性だけを共有しました。

本体との利益相反を防ぎつつ、彼らの知見を我々のIT戦略全体に注入してもらう。異業種のM&Aを成功させるためには、彼らの強みを損なわず、我々の強みとかけ合わせることを丁寧に行わなければなりません」

今後もM&AやCVCを通じて「仲間(カンパニー)」を増やし続けると明言する山本氏。

「社名の『&カンパニー』には、仲間という意味を込めています。つまりどんどん仲間になってください、ということです。そしてこれから仲間になる人に求めるのは、強い成長意欲です。

我々の3600以上の店舗というネットワークを使って、『自分の事業を何倍にも伸ばしてやろう』という野心を持って提案してほしい。我々を単なる『買い手』ではなく、自分たちの夢をかなえるための『プラットフォーム』として利用してほしいのです」

ファイナンスについて語る山本剛氏

――「マツキヨココカラ&カンパニー」は、ファイナンスプラットフォームFINCHIに資金提供社として登録しています。

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DIRECTION=日野淳

COMPOSITION=平野遊

TEXT=安藤智彦

PHOTOGRAPH=小嶋淑子

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