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2026.06.26

日本最大の美容プラットフォーム「@cosme」。飛躍の歴史は、ファイナンスの歴史

GOETHEとファイナンスプラットフォーム「FINCHI」がタッグを組み、新メディア「GOETHE Finance powered by FINCHI」を創設。ビジネス界で圧倒的な実績を持つリーダーたちは、M&Aや投資などの「ファイナンス」をどのように捉え、活用しているのか。その最前線の思考に迫る連載を通じて、日本における「ファイナンス」をカルチャーとして定着させていく。今回は、日本最大の美容プラットフォーム「@cosme」を運営するアイスタイルのCFO・菅原敬氏を取材。ファイナンスを活用しながら独自のビジネスモデルを築いてきた歩みを聞いた。

「生活者中心の市場の創造」を目指して

1999年の創業から27年。アイスタイルが運営する美容系総合サイト「@cosme」に寄せられた口コミは累計2,200万件以上、登録商品は40万点にものぼり、今や20~30代日本人女性の過半数が毎月利用するほど、国民的とも言えるサービスを有する企業となった。

「現在は情報サイトのほか、ECショップ、実店舗を『@cosme』というひとつのプラットフォームとして運営し、検索・認知から購買まで一連の流れを構築しています。

また、化粧品ブランドに対しては、広告や販促支援などの代理店サービスにとどまらず、プラットフォーム上で得られた膨大な顧客データを戦略に活かすコンサルティングも本格化させています」

創業時からアイスタイルに参画し、現在は同社取締役副会長でCFOの菅原敬氏は、自社のビジネスモデルをそう説明したうえで、「私たちが目指すのは、『生活者中心の市場の創造』です」と力を込める。

「生活者が望むのは、さまざまな商品を比較し、本当に欲しいものを買うこと。また、自分たちの実感が、市場マーケティングに活かされることです。

企業側は消費者のニーズに沿ったビジネスを展開でき、生活者はよりよい商品を手にできる。私たちは、生活者のリアルな声を中心とした好循環を広げたいのです」

こうした想いは、創業期からすでに抱いていた。裏を返せば、同社が立ち上がった1999年頃は、美容市場の中心は企業側だったということでもある。

「当時、化粧品はブランドや商品の分野、あるいは価格帯ごとに、通販や百貨店、ドラッグストアなど多岐にわたるチャンネルで販売されていました。大手ブランドが広告で発信する商品イメージと生活者の使用した実感が必ずしも一致しないという実態があり、ブランドの商品の魅力をより齟齬なく伝えられるようなコミュニケーション手段が必要とされているという実感がありました」

その実態を受け、「生活者のリアルな声にこそ価値がある」という思想を可視化するものとして、「@cosme」という口コミサイトを立ち上げる。「生活者中心の市場の創造」というアイスタイルのビジネスの根幹ができあがった瞬間だ。同時に、いい意見も悪い意見も混在する口コミサイトに広告を集めて収益を得るというビジネスモデルは、その新鮮さが認められ、IT業界を中心に複数の出資を得る。

またその頃、菅原氏が「資金調達に本腰を入れなければいけない」と覚悟を決めるきっかけとなる出来事があった。

「ユーザーにとってより利便性の高いWEBサービスにするため、現会長の吉松徹郎が、Amazonから商品カタログとレビューのソフトウェアを貸してもらおうと、ジェフ・ベゾスへ直談判しようと考えたんです。結果はあっさり『ダメ』。でも、断られたことで『自分たちで開発するしかない。そのためにはもっとお金が必要だ』と強く実感しました」

ファイナンスについて語る菅原敬氏
菅原敬/Kei Sugawara
1969年京都府生まれ。アイスタイルに1999年の創業時より参画。CTOや複数子会社の代表取締役を経て、現在は取締役副会長兼CFOを務めるほか、グループ海外全事業の事業責任者として海外複数子会社の代表取締役も兼任。また、2016年にはベンチャーキャピタル事業を行うiSGSインベントメントワークスを設立し、取締役 代表パートナーに就任(現任)。その他、GENEROSITYの社外取締役、オープンエイトの社外取締役も務める。

「攻め」と「守り」を戦略的に展開

設立間もない同社を見舞ったのが、2000年のインターネット・バブル崩壊。具体化していた大きな資金調達の話も立ち消えとなり、同社にとって最大の経営危機が訪れた。

「IT以外の業界で、口コミサイトという新しいビジネスモデルへの理解を得ることは難しく、100社近いベンチャーキャピタルに出資をお願いして回りましたが、すべて断られてしまいました。

そんな時に出会った、あるエンジェル投資家の方が、1億円を出資してくれたのです。その方もITにはなじみはなかったのですが、きっとビジネスへの私たちの熱意を感じ取ってくれたのだと思います。あの出資がなければ、今のアイスタイルはないと断言できます」

同社はその後、取引先を順調に拡大。サイト上の広告枠販売で利益を得てきた「@cosme」は、広告代理店事業へと手を広げていく。

「当時、代理店事業のノウハウはゼロ。そこで私たちのビジネスを面白がってくださっていたサイバーエージェントの藤田晋さんに力をお借りし、合弁会社をつくりました。ネット広告のプロたちとの合弁会社での業務を通して、マーケティング戦略やクリエイティヴの知見を学び取ることができました」

こうして学びを広げたうえで、情報サイトとEC、実店舗を三位一体のプラットフォームとする体制を整えていった。

ビジネスモデルの確立に向けた出資は、「いわば『攻め』のファイナンスでした」と菅原氏。同時に、「守り」のファイナンスで足場を固め、さらなる飛躍への準備も怠らなかった。

「巨大企業が同じ領域に本気で乗りだしてきたら、我々ベンチャーはひとたまりもないという危機感がありました。だったら、その前に倒すべき敵だと思われないような関係性をつくっておこう。そう考えて、女性ユーザーを基盤とするWEBサービスを持つ大手企業から出資を受けました。

こちらからデータや独自技術を提供することで、私たちの存在を、彼らのサービスに不可欠なインフラの一部として組みこんでもらったんです。ファイナンスを通して『親戚』のような企業を増やしていったわけですね」

ファイナンスについて語る菅原敬氏

静かな熱を持つ仲間と、挑戦を続ける

2012年の上場後、アイスタイルはファイナンスの「攻め」をさらに強化していく。

M&Aや出資を積極的に行い、「化粧品」から「美容」へと領域を拡大。また商品認知から購買まで、一気通貫のマーケティング支援体制の整備を加速。同時に東アジアを中心とした海外展開にも積極的に力を入れていった。

「海外展開にあたっては、進出先の国を決めるための指標を明確に定めるなど、海外の投資家からも理解を得られやすいように工夫しながら進めました。

また『生活者中心の市場の創造』を目指す美容領域のリーディングプラットフォームである、という日本国内での明確なポジションとストーリー性は、海外でのパートナーシップ構築にも大いに活きました」

合弁会社設立や業務資本提携、マイノリティ投資、そしてM&Aなど、ひととおりの共創パターンを経験してきたアイスタイル。その手段は目的に応じて決められるが、いずれにせよ、パートナー企業との「人やカルチャー、価値観の一致が大事」と菅原氏は語る。

「私たちは、世の中に長く価値を提供し続けたい。そのためには長期的なパートナーシップが必要で、これまでそうした関係を築けた企業とは、思想やカルチャーがフィットしていた実感があります。だからこそ、投資対象となり得る企業については、経営者や働いている人たちの雰囲気から、会社のカルチャー、ミッションやバリューまで細かく見させてもらいます」

では、アイスタイル的なカルチャーとはどんなものなのか。菅原氏は、それをとてもわかりやすいたとえで表現してくれた。

「『青い炎』という言葉がありますよね。赤い炎のような派手さはないけど、実は青い炎のほうが温度は高い。私たちは『青い炎』でありたいんです。瞬間的に目立とうというのでもなく、今だけ儲かればいいとも思っていない。

うちの社員たちは冷静で穏やかに見えても、内側では熱い想いを持っている。生活者中心の市場をつくり、ビューティーの力で多くの人を幸せにしたいという情熱が激しく燃えている人たちが集まっています」

菅原氏は、パートナー候補の企業に「青い炎」があるか、アイスタイルと価値観が一致するかどうかを判断するには、オープンなコミュニケーションが必要だと続ける。そしてその大切さを改めて実感させてくれたのは、創業期に協業を断られたAmazonだった。

アイスタイルは2022年、米国Amazonおよび三井物産と業務資本提携を締結。Amazonはストアの拡充、アイスタイルはECの強化を目的のひとつとしたものであり、約20年越しに、互いの成長のためのパートナーとして手を結んだ。

「Amazon本社でファイナンスの責任者の女性にお会いした時、『策略的に交渉せず、実現したいことをすべて素直に言い合おう』と言ってくださった。その言葉は、私の金言になっています。確かにどちらかが我慢するディールは必ず破綻するものですから」

あらゆるファイナンスの力を活用しながら成長してきたアイスタイル。2025年には過去最高益を記録するなど、業績はすこぶる好調だ。それでもなお、菅原氏は「まだまだ挑戦の途中」と前傾姿勢を崩さない。

「既存事業においては、情報サイト・EC・実店舗の三位一体モデルをさらに強化していきたい。そしてそこで得た利益を資金として、フェムテックや美容医療、さらにはファッションやアクセサリーなど広義の『Beauty』領域の新規事業へも積極的に投資していきたいと考えています。そのためにも、『青い炎』を持つ仲間をたくさん集めていきたいですね」

ファイナンスについて語る菅原敬氏

――「アイスタイル」は、ファイナンスプラットフォームFINCHIに資金提供者として登録しています。

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DIRECTION=日野淳

COMPOSITION=阿部達人

TEXT=明日陽樹

PHOTOGRAPH=江森康之

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