ポルシェ「911 GT3 S/C(スポーツカブリオレ)」は、電動開閉式のコンバーチブルルーフを備えた初のGT3モデル。自然吸気の4リッター水平対向6気筒エンジンが放つ咆哮を全身に浴びながら、ドイツ・シュトゥットガルト郊外のワインディングを約270km走り抜けた。

血湧き肉躍る「ポルシェ911 GT3 S/C」
「911 GT3」は、GT3という名がついていることからもわかるように数多くある911のバリエーションのなかでレーシングカー直系の特別なモデル。これをベースに「911GT3 Cup」や「911GT3R」といった純レーシングカーがつくられている。
GT3が特別であることの理由のひとつが、レーシングカー由来の自然吸気水平対向6気筒エンジンを搭載していること。カレラシリーズ(カレラ、カレラS、GTS)やターボシリーズのエンジンが、ターボやハイブリッド化するなかでGT3だけは自然吸気エンジンにこだわっている。その希少性もあって911マニアには圧倒的な支持を得ている。

現在、市販バージョンのGT3には、3つのバリエーションがある。ベースカーの「GT3」、そこから大きなリアウイングなどを省き、公道でのつかいやすさを高めた「GT3 with ツーリングパッケージ」、ボディに軽量化をほどこし、市販車としては最大級のエアロパーツを備えたほぼレーシングカーの「GT3 RS」というラインアップだ。
そのGT3シリーズに今回はじめて、電動開閉式のコンバーチブルルーフを備えたモデルとして追加されたのが「911 GT3 S/C(スポーツカブリオレ)」だ。

秘密裏に進められた開発プロジェクト
これまでにもGT3をベースとしたオープンモデルがなかったわけではない。先代911(タイプ991)をベースに、2019年には「911スピードスター」というモデルがつくられている。しかし、これは手動式ルーフの限定車だった。
開発者たちは、もっと日常で使いやすい電動開閉式のルーフを備えたGT3をつくりたいと長年アイデアを温めてきたという。GTモデルライン(911)のプロジェクトマネジャーであるヨルグ・ユンガー氏は、このモデルが開発に至った経緯をこのように話した。
「アイデアを持つことと、それを実現することは別問題です。取締役会や経営陣を説得し、プロジェクトの承認と新型車開発のための予算を獲得しなければなりません。通常は、ごく初期の段階ではスタイリングのレンダリング画像などをつかって取締役会にかけます。しかし、それらはデザイン上の提案に過ぎません。
そこで私たちは、“秘密裏に”別のアプローチをとることにしました。実物のプロトタイプを製作したのです。そしてそのプロトタイプを取締役会に見せたところ、説得はずっと容易になりました。彼らは早い段階で予算を承認し、プロジェクトにゴーサインを出しました。そして我々は『911 GT3 S/C』の開発をスタートさせることができたのです」
では、なぜ開発を急ぐ必要があったのか。それは欧州市場における最新の排気ガス規制の問題がある。現在はユーロ6とよばれるものが施行されているが、2026年の11月からはユーロ7に厳格化される予定だ。これを大排気量の自然吸気エンジンでクリアすることは難しいと言われており、世界中のスーパーカー、スポーツカーメーカーは対応に追われている。先述のようにターボやハイブリッドなどの補機類をエンジンに付加することによって規制対応するのが一般的になっている。
ヨルグ・ユンガー氏にその点について尋ねると、ユーロ7に関してはまだ正確な情報を把握できておらず、喫緊の課題であること。自然吸気を維持するのか、別のコンセプト(ターボやハイブリッド)を考案すべきなのか検討段階にあると苦しい胸中を明かしてくれた。

とにもかくにも、GT3シリーズである以上はカブリオレモデルであっても軽くなくてはいけない。そこで開発チームがとった手段は、2023年に限定生産された現行911(タイプ992)における最軽量モデルである「911 S/T」のコンポーネントを活用すること。
エクステリアではドアやフロントフェンダー、フロントリッドなどをカーボン製に。センターロック式のホイールはマグネシウム製。ブレーキはPCCB(カーボンセラミック)。バッテリーは小型のリチウムイオンにし、後席を省いた2シーターのみ、PDK(AT)より約17kg軽量な6速マニュアルトランスミッションのみという徹底した軽量化によって、車両重量は現行の911カブリオレシリーズのなかで最軽量の1497kgとなっている。

こうしてS /T(スポーツツーリング)の技術が活かされていることから、車名は相関性をもたせてS/C(スポーツカブリオレ)としたそうだ。
国際試乗会は、シュトゥットガルトにあるポルシェ本社から約90km南下した山脈地帯シュウェービッシェ・アルプで行われた。そのほとんどが森林におおわれておりハイキングやサイクリングに格好の地としても知られる。ポルシェの試乗会といえばサーキットがつきものだが、自然の中でオープンエアを楽しんで欲しいという意図から企画されたようだ。

これが最後!? 自然吸気エンジンの叫びに酔いしれる
出発の朝、試乗用に割当られたのは特注色の明るい水色“914オリンパスブルー”に彩られたモデルだった。シートに腰掛け、エンジンを始動すると自然吸気の4リッター水平対向6気筒エンジンが軽快に目覚める。最高許容回転は9000回転!で、最高出力510PS、最大トルクは450Nmを発揮する。
GT3モデル用の6速マニュアルトランスミッションはストロークが短くかつ節度感があって、気持ちよくエンゲージする。レーシングカー直系だからといって、クラッチが重いとか操作が難しいということはまったくない。半クラッチからゆっくりとミートすれば、スルスルと前へ動き出す。
ドイツ郊外のカントリーロードは、ほとんどが速度制限100km/h。運転のうまいローカルな人たちは(たとえ商用バンであっても)+αのスピードで走っている。市街地をぬけてワインディングロードに入ると、ドライブモードをスポーツに切り替える。エグゾーストノートが高まり、シフトダウン時などにエンジンの回転数を自動で合わせてくれるオートブリップ機能がオンになる。これがあればヒール&トゥがうまくなくても気持ちよく走れる。

エンジンは自然吸気らしくスムーズに吹けがある。4000回転を超えたあたりから音が変化し、そして9000回転まで一気にたどりつく。ポルシェのレースカーのエンジン音はその特徴から“スクリーム”と称されるが、まさにそれを彷彿とさせる。クーペでは味わえない、オープンだからこその風と音とがあいまって、まさに血湧き肉躍る瞬間が訪れる。
試乗中、突然のスコールに見舞われたがルーフは速度50km/h以下なら走行中でも12秒で開閉が可能。これが手動だったらずぶ濡れだなと思いながら、電動幌の恩恵に預かった。雨が止むとふたたびルーフを開け放った。音の抜けがいい、やはりオープンのほうが圧倒的に気持ちがいい。
この日、カントリーロードをひたすら約270km駆け抜けた。東京〜名古屋間を一般道で走ったようなものだ。試乗を終えて、それでも走り足りないと思った。この自然吸気エンジンは最高に気持ちよく、そしてGT3 S/Cは最高に楽しいモデルだった。



