CAR

2026.06.23

自動車の教科書、ベンツの「新型Sクラス」を読み解く

2026年6月11日、メルセデス・ベンツの新型Sクラスがお披露目された。Sクラスの変化は、次世代の自動車のあり方を先取りするものだ。モデルチェンジのポイントをチェックした。

自動車の教科書、ベンツの「新型Sクラス」を読み解く

メルセデス・ベンツSクラスに見る“常識の変化”

自動車業界のちょっとした常識が変わりつつある。

以前は、ニューモデルが発表された数年後にマイナーチェンジ(小規模の改良)があり、さらに数年後にフルモデルチェンジで全面的に刷新するという流れだった。けれどもクルマのハイテク化、電脳化が進む昨今は、そんな悠長なペースでは追いつかなくなった。パソコンやスマートフォンと同じようなスピードでクルマも進化しているので、頻繁に更新しないと競争から遅れをとってしまうのだ。

メルセデス・ベンツの旗艦モデルであるSクラスも例外ではない。

かつてのSクラスのモデルライフは8年ほどで、デビューから4〜5年後にマイナーチェンジを受けるというのが通例だった。けれども2020年に発表され、21年から生産とデリバリーが始まった現行Sクラス(W223型)は、デビューから5年でコンポーネントの50%以上を改めるという大がかりな改良を受けることになった。もはやマイナーチェンジとは呼べない、大規模なモデルチェンジだ。

日本に導入されるメルセデス・ベンツ新型Sクラスは、S 450 d 4MATIC(IGS)とS580 4MATIC long(ISG)の2モデル。前者が1598万円、後者が2365万円(いずれも税込)。
日本に導入されるメルセデス・ベンツ新型Sクラスは、2026年6月11日発表時点ではS 450 d 4MATIC(ISG)とS580 4MATIC long(ISG)の2モデル。前者が1598万円、後者が2365万円(いずれも税込)。

率直に言って、モデルチェンジ前のSクラスは完成度が高く、これ以上の伸びしろがあるのかと思えるほどの出来栄えだった。魔法の絨毯のような乗り心地と圧倒的な静粛性、望むだけの加速がすぐに手に入る動力性能、そして最先端の安全・運転支援装置と、すでに完璧だった。

メルセデス・ベンツは、すでに完成の域にあると思われるSクラスのどこに手を加えたのだろうか。

「自動車の父」を名乗れるのはメルセデスだけ

まず外観からふれると、伸びやかで端正な基本的なフォルムに変更はない。

目を惹くのはラジエターグリルの開口部が約20%大型化されたことと、グリルの縁が光るようになっていることで、存在感が大きく増した。グリルの内側にスリーポインテッドスターが散りばめられ、ヘッドランプやリアのコンビネーションランプまでがスリーポインテッドスターをモチーフにしたデザインになっていることも特徴的。日本では法規の関係で採用されなかったけれど、ボンネット上のスリーポインテッドスターのマスコットが光る国や地域もあるという。

ラジエターグリルの内側とヘッドランプにスリーポインテッドスターがあしらわれている。
ラジエターグリルの内側とヘッドランプにスリーポインテッドスターがあしらわれている。

「やりすぎ」という声も聞こえてきそうではあるけれど、それだけ自社のブランド力に自信があり、ここをアピールしたいということだろう。

自動車の歴史を振り返れば、1886年にカール・ベンツが三輪の「パテント・モトールヴァーゲン」で自動車の特許を取得し、ほぼ同じ時期に「自動車の父」と言われるドイツ人エンジニアのゴットリープ・ダイムラーがヴィルヘルム・マイバッハとともに、小型・高速回転のエンジンを馬車に搭載した四輪自動車を生み出した。つまり、いま世界中を走っているすべてのクルマが彼らの子どもたち、孫たちということであり、「うちが元祖です」とアピールできるのは世界で唯一、メルセデス・ベンツだけなのだ。

群雄割拠で椅子取りゲームが過熱する高級車市場で、この物語を活用しない手はない。

閑話休題。

インテリアに目を移すと、運転席側のディスプレイと助手席側のディスプレイを1枚のガラスで覆ったMBUXスーパースクリーンが標準装備されている。

「運転支援装置など、コントロールするものが増えたので液晶画面に集約」→「でも運転中のタッチスクリーンの操作は難しい」というように、クルマのインターフェイスには揺り戻しが起きている。新型Sクラスはステアリングホイールのスポーク部分に頻繁に操作するスイッチを配置するのと同時に、音声操作の精度を高めることで、この課題に対応している。クルマの構造上、ダッシュボードやメーターパネルの面積が増えることはないわけで、現時点でのインターフェイスの最適解だと言えるだろう。

操作する情報が増加するいっぽうで、ダッシュボードの面積はこれ以上増えない。新型Sクラスでは、この矛盾を解決するための工夫が施されている。
操作する情報が増加するいっぽうで、ダッシュボードの面積はこれ以上増えない。新型Sクラスでは、この矛盾を解決するための工夫が施されている。

なお、新型Sクラスにはメルセデス・ベンツが自社で開発したMB.OS(メルセデス・ベンツ・オペレーションシステム)が採用されていることもトピック。インフォテインメントシステム、安全・運転支援装置、車両パフォーマンスなどの機能を統合して、情報を高速で処理できるとされている。しかもOTA(Over-The-Air)による無線アップデートが可能で、搭載するソフトウェアは常に最新の状態に置かれることになる。

パワートレインに目を向けると、日本仕様として発表された2車種はいずれも内燃機関とISGと呼ばれるマイルドハイブリッドシステムの組み合わせ。メルセデスが電動化の歩みを止めることはないだろうけれど、拙速なBEV化はだれも幸せにしないという、冷静な判断が見て取れる。

助手席側にも液晶スクリーンが配置されるのは、メルセデス・ベンツに限らず最近の潮流。ドライバーだけでなくパッセンジャーもドライブを楽しむ時代なのだ。
助手席側にも液晶スクリーンが配置されるのは、メルセデス・ベンツに限らず最近の潮流。ドライバーだけでなくパッセンジャーもドライブを楽しむ時代なのだ。

デザインやメカニズムと同じくらい重要なポイントが、「MANUFAKTUR Made to Measure(マヌファクトゥーア・メイド・トゥ・メジャー)」というパーソナライゼーションのプログラムがスタートすることだろう。

従来から同種のプログラムは存在したけれど、パーソナライズの自由度と選択肢がさらに拡大、担当するスペシャリストとのやりとりから、理想の1台を仕立てることが可能になった。なお、このプログラムは新型Sクラスから始まり、順次車種を広げる予定だという。

「MANUFAKTUR Made to Measure」では、外装色を100色以上用意、かつてのメルセデス・ベンツの名車と同じカラーも準備しているという。インテリアに至っては、なんと400色以上から選択できるという。
「MANUFAKTUR Made to Measure」では、外装色を100色以上用意、かつてのメルセデス・ベンツの名車と同じカラーも準備している。インテリアに至っては、なんと400色以上から選択できるという。

まとめると、自社の歴史を背景にブランド力をアピールすること、安全機能をはじめとするデジタルテクノロジーの先頭を走ること、BEVの開発を進めつつもう少しエンジンを延命させること、パーソナライゼーションを充実させるさきがけとなることが、新型Sクラスに課せられた使命ということになる。

記事中で、1886年のパテント・モートルヴァーゲンにふれた。つまり今年は自動車の誕生から140年ということになる。この間のメルセデス・ベンツの歴史を振り返ると、単にパフォーマンスを向上させるだけでなく、衝突安全対策や排ガスゼロの電気自動車と燃料電池車にいち早く取り組み、自動車の父としての責任を果たしてきたように思える。

ラインナップのなかでも、自社のすべての技術と理念を注ぎ込んで開発するのがSクラス。これ以上の伸びしろがあるのか疑問だと記したけれど、メルセデス・ベンツがSクラスの開発を通じて取り組んでいることは、自動車の未来を明るくすること。新型Sクラスを見れば、未来のクルマ(社会)がどうなるのかがわかるのだ。

メルセデス・ベンツS 450 d 4MATIC(ISG) 全長×全幅×全高:5195×1920×1505mm パワートレイン:3ℓ直列6気筒ディーゼルターボ+マイルドハイブリッドシステム トランスミッション:9段AT 駆動方式: 4輪駆動 最高出力:367ps 価格:クーペ ¥15,980,000(税込)
メルセデス・ベンツS 450 d 4MATIC(ISG)
全長×全幅×全高:5195×1920×1505mm
パワートレイン:3ℓ直列6気筒ディーゼルターボ+マイルドハイブリッドシステム
トランスミッション:9速AT
駆動方式: 4輪駆動
最高出力:367ps
価格:¥15,980,000(税込)

問い合わせ
メルセデスコール TEL:0120-190-610

サトータケシ/Takeshi Sato
1966年生まれ。自動車文化誌『NAVI』で副編集長を務めた後に独立。現在はフリーランスのライター、編集者として活動している。

TEXT=サトータケシ

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