発表前から注目を集めていたフェラーリ・ルーチェが、いよいよお披露目された。話題の新作のデザインに関して、賛否がまっぷたつにわかれている理由はなにか?

“好き・嫌い”の激論、勃発
ついにフェラーリ初のBEV、ルーチェがアンベールされた。本連載でも、アップル出身のサー・ジョニー・アイブとプロダクトデザイナーのマーク・ニューソンが率いるクリエイティブ集団LoveFromがデザインに関わったことを伝え、先に公開されたインテリアが意外とオーセンティックだったことを紹介している。
2026年5月25日にそのエクステリアが発表されるや、世界中のクルマ好きの間で話題沸騰となり、“好き・嫌い”の激論が交わされた。さらには5月26日朝のミラノ株式市場ではフェラーリの株価が約8%下落、これは同社の時価総額が40〜50億ユーロ(7400〜9300億円)減少したことを意味するという。

自動車に限らず、新機軸にチャレンジすると熱烈なファンが反発をするのは世の常。たとえば1960年代、フォークシンガーとして名声を高めたボブ・ディランが初めてエレキギターを持った時にも、「アコースティックギターを捨てたディランなんてディランじゃない!」と凄まじいブーイングが浴びせられている。
跳ね馬のエンブレムをつけた最初の電動車両のデザインについても、現時点ではこんなフェラーリは認められないという声のほうが大きいようだ。
ここでは“好き・嫌い”とか“カッコいい・カッコ悪い”はひとまず脇に置いて、フェラーリ・ルーチェのデザイン的な特徴と、なにを狙った形なのかをじっくり考察したい。

これまでのフェラーリに5シーターがなかった理由
デザインという言葉はデッサンと同じく、ラテン語の「designare(デジナーレ)」が語源で、もともとは考えや計画を形にするという意味だ。では、フェラーリ・ルーチェはどんな考えを形にしようとしたのかというと、電動アーキテクチャーによって新しいフェラーリ体験を実現しようとした結果、「4ドアで5シーターのフェラーリ」が生まれた。

このコンセプトは、非常に興味深い。フェラーリ各モデルのエンジンレイアウトは、大きくわけてふたつ。ひとつは、エンジンをドライバーの背後に積むミドシップで、もうひとつがエンジンをフロントに置いて後輪を駆動するFR(後輪駆動)だ。
ミドシップの場合は当然2シーターになる。FRでも、フェラーリは前後の重量配分を最適化するために、エンジンの次に重いギアボックスとディファレンシャルを一体化して車体後部に配置する、トランスアクスルという凝ったレイアウトを採用してきた。
トランスアクスルというレイアウトを採ると、前後の重量配分が50:50に近づくのでコーナリングや加減速などでパフォーマンスが向上する。いっぽうで、後席や荷室のスペースに制約を受ける。したがって、フェラーリのエンジン車で5シーターというのは難しかったというか、物理的に不可能だった。
対して、BEVのルーチェはモーター駆動で、エンジン駆動と異なりギアボックスは不要だ。したがって、フェラーリに期待されるパフォーマンスを実現しながら、5つのシートを収める広々とした室内空間が確保できる。ルーチェは、エンジン搭載のフェラーリではできなかったことに挑戦しているのだ。

LoveFromは現代版のピニンファリーナ
デザインでもうひとつフェラーリ(とLoveFrom)の狙いがうかがえるのは、どのボディカラーもツートンを採用していることだ。黒いガラスエリアと、青・赤・黄のボディカラーが組み合わされている。
ガラスエリアは、広々とした居住空間を確保していることを示すいっぽうで、ボディカラーの部分はルーチェがこれまでのフェラーリを同じようなハイパフォーマンス車であることを表現しているように見える。

観音開きのドアを採用したのは、もちろん差別化を図る意味合いもあるだろうけれど、室内をより広く見せる視覚効果を狙っている。
また、いままでのフェラーリとひと味違うシンプルかつ滑らかなフォルムは、フェラーリのロードカー史上最小の空気抵抗係数を目指して生まれたものだ。空力性能と室内空間の両立を目指した、「Form follows function(形態は機能に従う)」を地で行くデザインなのだ。

こうしてフェラーリ・ルーチェのデザインについて考えてみると、賛否がまっぷたつにわかれるのはある意味で当然だということがわかる。
ルーチェは、エンジンをモーターに積み替えて、いままでの文法通りのフェラーリをデザインしたわけではない。BEVだからこそ作ることのできる、新しいフェラーリの意匠にチャレンジしたのだ。灯りや光を照らすという意味の「Luce」というモデル名にふさわしいコンセプトだと言えるいっぽうで、アレルギー反応を起こす方の気持ちも理解できる。
歴史を遡ると、1951年にフェラーリはイタリアの名門カロッツェリア(デザイン工房)であるピニンファリーナと契約を交わし、60年代、70年代、80年代と美しいスポーツカーを世に送り出した。高性能であるのはもちろん、外部の血を入れながら新しい造形に挑むのはフェラーリの伝統で、かつてのピニンファリーナの役割を今回はLoveFromが果たしたことになる。
アコースティックギターをエレキギターに持ち替えたボブ・ディランが新境地を切り拓き、後にノーベル文学賞を受賞したのはご存じの通り。はたして、フェラーリ・ルーチェによって時代は変わるのか。答えは風の中ではなく、ファンからの声にあるはずだ。

全長×全幅×全高:5026×1999×1544mm(全幅はドアミラーを除く)
車重:2260kg
駆動方式:4輪駆動(4モーター)
最高出力:1050ps
最大トルク:990Nm
0-100km/h加速:2.5秒
最高速度:310km/h
航続距離:530km以上
価格:¥76,230,000(税込)〜
サトータケシ/Takeshi Sato
1966年生まれ。自動車文化誌『NAVI』で副編集長を務めた後に独立。現在はフリーランスのライター、編集者として活動している。

