職場や家庭に、こんな人はいないだろうか。明らかなミスをしても、「でも」「だって」と言い訳を続け、絶対に謝らない人物が。「プライドが高いだけだろう」「よほど自分に自信があるんだろう」。多くの人はそう考えるが、現在の脳科学ではまったく違う真実が明らかになってきているという。4万人以上に脳のしくみの講演をしてきた脳科学者・西剛志が解説する。

なぜ「ごめんなさい」が言えないのか? 脳と罪悪感の意外な関係
謝罪しにくい傾向には、ダークな性格の1つである自己愛傾向(ナルシズム)などの性格特性が関係することが知られています。ナルシズムとは、「自分は特別な存在だ」と思い込み、他者からの称賛を過剰にほしいと思ってしまう性格傾向のことを言います。
イギリスの研究者Leunissen氏らが2017年に発表した研究では、ナルシズムの強い人が、なぜ謝らないかを調べたところ、こんな結果がわかりました(*1)。
- 相手の立場を想像する「共感性」が低い
- 自分が悪かったという「罪悪感」を感じにくい
このような2つの特性を持っていると、謝ることに対する抵抗が生まれることがわかりました。
私たちは罪悪感を感じると謝罪につながりやすくなります(*2)。しかし、謝らない人は、相手の立場をイメージする想像力が乏しく、罪悪感を感じにくい傾向があるようです。そのため、「ごめんなさい」「申し訳ない」という気持ちがそもそもわかない可能性があるのです。
ここで興味深いのは、自信満々に見える「誇大型」の自己愛ではなく、他者と張り合おうとする「対抗的」なタイプの自己愛のほうが、より謝らない傾向と強く結びついていた点です。つまり、謝らない人ほど、他人と比較して自分を守ろうとしている可能性があると言えるでしょう。
謝ることは、脳にとって「自己イメージが揺らぐ瞬間」
一般的に「謝る」=「自分が間違いを認める」と脳は認知します。
しかし、対抗的なナルシズムの人は、自分が正しいと思いたいため、自分の判断が間違っていたことを認めると心理的な不一致が生じます。これを専門用語で「認知的不協和」と呼びます。
玉川大学脳科学研究所のリサーチでは人が認知的不協和を感じたとき、脳の中でどんなことが起きるかを調べました(*3)。その結果、認知的不協和が生じると、葛藤を処理する脳領域が活動し、その不快感を減らすために、自分の選択や判断を正当化する心理的プロセスが働くことが示されています。
つまり脳にとって「自分は間違っていた」と認めることは、ただの反省ではなく、"自己イメージの崩壊"に直結する脅威とも言えるかもしれません。その脅威を感じた瞬間、脳は無意識のうちに防衛モードに入り、正当化のストーリーを作り始めてしまいます。
謝れない人の脳は、あなたを困らせようとしているのではなく、"自分を守ろうとして"暴走しているだけなのかもしれません。
その言い訳、実は脳が“勝手に”作っている
米国カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)のJarcho氏らの研究では、自分の選択を正当化するとき、右下前頭回や腹側線条体などが関わっていることが明らかになりました。こうした正当化は、本人が意識して行っているというより、脳が自動的に行っている可能性があると考えられています(*4)。
謝らない人を見て「よくそんな言い訳が思いつくな」と呆れることがありますが、本人にとってはそれが脳の自然な防衛反応であり、必ずしも計算ずくの悪意ではないというわけです。
米国ミシガン大学の研究でも、自己正当化には、①背側前部帯状皮質(葛藤検出)、②左前部島皮質(不快な感情の喚起)、③後部帯状皮質(自己の処理、正当化の予測)など脳の複数の部分が連動していることが観察されています(*5)。
この研究自体は日常の場面を対象にしたものですが、同じメカニズムが「自分の非を認めたくない」「謝りたくない!」という場面でも働いている可能性があります。
「自分は悪くない」という気持ちは、いろいろな脳領域が総出で自分を守ろうとする根深い現象といえるかもしれません。
今日から使える、謝れない人との付き合い方
こうした脳のしくみを知っておくと、謝らない相手に対して「なぜ分かってくれないんだ」と消耗してしまう頻度が少なくなることが期待できます。なぜなら、相手の脳は、悪気があるというより、自己防衛のために正当化を続けているだけかもしれないからです。
追い詰めて謝罪を引き出そうとするほど、脳の防衛反応はかえって強くなります。今日からできる対処法はシンプルです。
・「なぜ謝らないの?」と問い詰めない(脳の防衛スイッチが入るだけです)
・相手のプライドを潰さずに、事実だけを淡々と共有する
・謝罪そのものより「次にどうするか」に会話の焦点を移す
謝れない人を変えることは簡単ではありません。でも「なぜ謝れないのか」という脳のしくみを理解しておくだけで、あなた自身のストレスは大きく減らせるでしょう。

脳科学者(工学博士)、分子生物学者。武蔵野学院大学スペシャルアカデミックフェロー。T&Rセルフイメージデザイン代表取締役。東京工業大学大学院生命情報専攻修了。2002年に博士号を取得後、特許庁を経て、2008年にうまくいく人とそうでない人の違いを研究する会社を設立。子育てからビジネス、スポーツまで世界的に成功している人たちの脳科学的なノウハウや、大人から子供まで才能を引き出す方法を提供するサービスを展開し、企業から教育者、高齢者、主婦など含めて4万人以上に講演会を提供。『世界仰天ニュース』『モーニングショー』『カズレーザーと学ぶ。』などをはじめメディア出演も多数。TBS Podcast「脳科学、脳LIFE」レギュラー。著書に20万部のベストセラーとなった『増量版 80歳でも脳が老化しない人がやっていること』、『1万人の才能を引き出してきた脳科学者が教える 「やりたいこと」の見つけ方』『結局、どうしたら伝わるのか? 脳科学が導き出した本当に伝わるコツ』など海外を含めて累計45万部突破。最新刊は『脳科学×最新研究が解き明かす64のテクニック 「伝える」が「伝わる」に変わるひみつ』。
*1 Leunissen, J. M., Sedikides, C., & Wildschut, T. (2017).Why narcissists are unwilling to apologize: The role of empathy and guilt.European Journal of Personality, 31(4), 385–403
*2 Tangney JP, Stuewig J, Mashek DJ. Moral emotions and moral behavior. Annu Rev Psychol. 2007;58:345-72
*3 Izuma, K., Matsumoto, M., Murayama, K., Samejima, K., Sadato, N., & Matsumoto, K. (2010).Neural correlates of cognitive dissonance and choice-induced preference change. Proceedings of the National Academy of Sciences, 107(51), 22014–22019
*4 Jarcho, J. M., Berkman, E. T., & Lieberman, M. D. (2011).The neural basis of rationalization: Cognitive dissonance reduction during decision-making.Social Cognitive and Affective Neuroscience, 6(4), 460–467
*5 Kitayama, S., Chua, H. F., Tompson, S., & Han, S. (2013).Neural mechanisms of dissonance: An fMRI investigation of choice justification.NeuroImage, 69, 206–212

