来日した外国人からよく聞かれる「日本人は優しい」の声。果たしてそれは真実なのか? 4万人以上に脳のしくみの講演をしてきました脳科学者・西剛志が解き明かす。

日本人は優しいのか?
コロナ禍が明けて以降、日本を訪れる外国人がこぞって口にする言葉があります。
「日本人って、本当に優しいんですね」
ゴミひとつ落ちていない街、列に黙って並ぶ人々、道に迷えば笑顔で案内してくれる通行人──。そんな光景に感動した外国人の声は、ニュースやSNSで毎日のように流れてきます。
でも、ちょっと考えてほしいことがあります。
本当に、日本人は「優しい」国民なのでしょうか?
私はこれまで4万人以上に脳のしくみの講演をしてきましたが、「人間の本当の性格」というのは、表の顔だけでは語れません。最新の研究を紐解いていくと、「日本人=優しい」というイメージを根底から揺るがす、ある衝撃的な事実が浮かび上がってきました。
世界53ヵ国・4万5000人を対象にした"性格の大調査"
2025年、米国ミシガン大学が世界53ヵ国・約4万5000人を対象に、ある性格特性を徹底的に調査しました(*1)。
その性格とは、ナルシズム(ナルシシズム)です。
日本では「ナルシスト」という言葉でおなじみですが、心理学的ナルシズムは単なる「自分好き」ではありません。エゴが強く、自分は他人より優れているという特権意識を持ち、傲慢さが際立つ——いわゆる「ダークな性格」のひとつです(*2)。
語源はギリシャ神話の美少年ナルキッソス。水面に映る自分の姿に恋をしてしまった彼の名前から来ており、ナルシズムが強い人と一緒にいると、なぜか無性に疲弊してしまう、あの感覚は多くの方にも覚えがあるのではないでしょうか。
日本は世界13位──「相手を蹴落としたい」ランキングの衝撃
今回の調査でとくに注目したのは、ナルシズムの中でも「ライバルを蹴落としたいという競争意識」を測定した部分です。
具体的には、次のような思考の強さを国別に比較しました。
- 自分が注目の中心にいないと耐えられない
- まわりの人間はたいして大したことない、と見下している
- ライバルにはぜひとも失敗してほしい
この「相手を蹴落としたい度」の世界ランキングで、日本はなんと世界13位にランクインしました。
(※1位〜53位の国別ランキングは図表参照)
1位はドイツ、2位は韓国。中国やバングラデシュなどのアジア勢も上位を占めるなか、日本も世界の上位4分の1に入っているという事実──「日本人は優しい」というイメージとは、ずいぶん異なる結果ではないでしょうか。

「目立たないだけ」だった日本人の本音
ここからが、この研究でもっとも興味深いポイントです。
ナルシズムには大きく2つのタイプがあります。
ひとつは「称賛を求める外向タイプ」。自己アピールが激しく、SNSでフォロワー数を競ったり、常に称賛を求めて目立とうとする外交的なタイプです。
もうひとつが「ライバルを蹴落とす内向タイプ」。表向きは静かでも、心の中では他者への敵意を燃やし、相手をひそかに見下しているタイプです。
日本人の「称賛を求める外向タイプ」のスコアは、なんと世界47位。自己アピールや目立つ行動については、世界的に見ても非常に低い水準でした。
だから外国人の目には「控えめで優しい」と映る。
しかし──ライバルを蹴落とす内向タイプのスコアは世界13位。
つまり日本人は、外では穏やかに振る舞いながら、内側にダークな競争心を抱えているという構造が浮かび上がるのです。
「出る杭は打たれる」文化、ネット上での執拗な炎上や犯人探し、職場でのじわじわとしたいじめや同調圧力──。こうした日本社会特有の現象も、このデータから見ると、まったく違う景色に見えてくるかもしれません。
あなたは大丈夫? ダークな側面を引き出す"意外な原因"
では、こうしたダークな競争意識は、どんな人に強く出るのでしょうか?
研究によれば、先ほど伝えた次の3つの思考が当てはまる人ほど、そのスコアが高くなる傾向があります(*3)。
1.「まわりの人はたいてい大したことない」と感じる
2.「自分以外の誰かが注目されていると、イライラする」
3.「ライバルには失敗してほしい」と心のどこかで思う
いくつ当てはまるでしょうか?
じつは、ダークな性格は特別な人だけのものではありません。程度の差こそあれ、誰もが持ちうるものです。
そして、2025年にベルギー・ブリュッセル自由大学が発表した最新研究では、睡眠不足がこのダークな側面を引き出す大きな引き金の1つになることが明らかになっています(*4)。
睡眠が短かった日の翌日、職場でナルシズム的な言動が増える傾向が確認されたのです。
カスハラ、逆パワハラ、SNSでの攻撃的なコメント──。ダークなニュースが絶えない現代社会の背景に、日本人の慢性的な睡眠不足が関係しているとしたら?
良質な睡眠をとることは、自分自身の健康のためだけでなく、まわりへの「優しさ」を守るためにも、じつは大切なことなのかもしれません。

脳科学者(工学博士)、分子生物学者。武蔵野学院大学スペシャルアカデミックフェロー。T&Rセルフイメージデザイン代表取締役。東京工業大学大学院生命情報専攻修了。2002年に博士号を取得後、特許庁を経て、2008年にうまくいく人とそうでない人の違いを研究する会社を設立。子育てからビジネス、スポーツまで世界的に成功している人たちの脳科学的なノウハウや、大人から子供まで才能を引き出す方法を提供するサービスを展開し、企業から教育者、高齢者、主婦など含めて4万人以上に講演会を提供。『世界仰天ニュース』『モーニングショー』『カズレーザーと学ぶ。』などをはじめメディア出演も多数。TBS Podcast「脳科学、脳LIFE」レギュラー。著書に20万部のベストセラーとなった『増量版 80歳でも脳が老化しない人がやっていること』、『1万人の才能を引き出してきた脳科学者が教える 「やりたいこと」の見つけ方』『結局、どうしたら伝わるのか? 脳科学が導き出した本当に伝わるコツ』など海外を含めて累計45万部突破。最新刊は『脳科学×最新研究が解き明かす64のテクニック 「伝える」が「伝わる」に変わるひみつ』。
(*1) Miscikowski, M. M., et.al. (2026). Cultural moderation of demographic differences in narcissism. Self and Identity, 25(1), 111–141
(*2)Paulhus, D. L., & Williams, K. M. (2002). The dark triad of personality: Narcissism, machiavellianism and psychopathy. Journal of Research in Personality, 36, 556-563.
(*3)Leckelt, M. et.al. (2018). Validation of the narcissistic admiration and rivalry questionnaire short scale (NARQ-S) in convenience and representative samples. Psychological Assessment, 30(1), 86–96.
(*4)Kuijpers, E., J., et.al. 2025. “Rise of the Dark Side: How Sleep Perception Triggers Dark Triad States at Work.” Journal of Organizational Behavior46, no. 8: 1120–1138.

