世の中には、何か問題が起きるとすぐに「人のせい」にする人がいる。一方で、同じ状況でもそうならない人もいる。この違いはどこから生まれるのか。4万人以上に脳科学的ノウハウを伝えてきた脳科学者・西剛志が考察する。

何でも人のせいにする人達
「悪いのは私ではない」
「言われた通りにやっただけです」
「あいつのせいだ!」
職場で一度は聞いたことがある言葉ではないでしょうか。組織には必ずといっていいほど、“他責タイプ”がいます。
しかし結論から言えば、他責は性格ではありません。それは脳に組み込まれた“クセ”なのです。
成功は自分のおかげ、失敗は他人のせい。「自己奉仕バイアス」という脳の仕組み
脳科学では、成功したときは自分の能力のおかげ、失敗したときは外部要因のせいにする傾向を「自己奉仕バイアス」と呼びます(*1)。
私たちは自尊心を守るために、無意識に出来事を自分に都合よく解釈することがあります。
その一例がランナーの実験です。目標タイムを達成した人と達成できなかった人に「自分のタイムはいくつだったか」と聞いたところ、達成できなかった人ほど実際より速いタイムを申告する傾向がありました(*2)。
つまり、人は失敗をそのまま受け止めるよりも、少しだけ現実を“調整”してしまうのです。
なぜ人は「自分は平均以上」と思うのか
この現象の背景には、もう一つの脳のクセがあります。それは「自分は平均以上でありたい」という心理です。
研究では、多くの人が自分の運転能力や倫理観、仕事の能力を「平均以上」と評価する傾向があることがわかっています(*3)。
しかし、全員が上位50%に入ることは統計学的にあり得ません。
それでも私たちは、自分を少し高く見積もりたくなる。
この現象は「レイク・ウォビゴン効果」や「優越の錯覚」とも呼ばれます(*4)。
たとえば夫婦に家事の分担割合を聞くと、合計が100%を超えるという有名な現象があります(*5)。人は成功を能力のおかげと考え、失敗を運や状況のせいにしたがる生き物なのです。
他責の正体は「恥ずかしさ」
とはいえ、他責の強さには個人差があります。その差を生む感情の一つが「恥ずかしさ」です。
海外の研究では、恥を強く感じる人ほど、失敗の責任を周囲に帰属させる傾向があることがわかっています(*6)。
失敗すると、人は「周りからどう見られるか」を強く意識します。恥ずかしさという不快な感情を避けるため、無意識に他責という防衛反応を取るのです(*7)。
私自身のカウンセリング経験でも、他責傾向が強い人の中には、幼少期に失敗を強く責められたり、人前で恥をかかされた経験を持つ人が少なくありませんでした。
「時間がなかった」は印象を悪くする
ただし、他責に偏りすぎると問題も起こります。
ロンドン大学の研究では、約1200人を対象に、失敗の原因と人の印象を調べました。
その結果、「時間がなかった」と説明した人は、「資金が不足していた」と説明した人よりも能力が低いと評価されたのです(*8)。時間は本人が管理できるものと考えられるため、責任回避の印象を与えてしまうようです。
他責は一時的には楽ですが、周囲からの評価を下げる可能性もあるということです。
とはいえ、すべてを自分の責任にする必要もありません。
私たちには、コントロールできることとできないことがあります。
たとえば、どれだけ努力しても成果が出ない会社の仕組みの中で、すべてを自分の責任だと思い込んでしまうと、心が疲れてしまいます。
有名なのが「インポスター症候群」と呼ばれる人で、過剰な自責で自己肯定感が低く、社会生活にも影響を及ぼします(*9)。
重要なのは、自分で変えられる部分と、環境の問題を見分けることです。
他責の人を動かす「一つの言葉」
では、他責の人にはどう向き合えばよいのでしょうか。
おすすめなのは、「人」ではなく「仕組み」に視点を向けることです。
例えば、こう伝えてみてください。
「人のせいよりも、仕組みに原因があるかもよ。それを改善するためにどうすればよいか一緒に考えてみない?」
他責を否定するのではなく、原因をシステムに置き換え、改善案を一緒に考えるのです。
相手の力を利用して技をかける柔道のように、他責のエネルギーを建設的な方向にシフトさせていく…そうすると、他責の人でも考え方が少しずつ変わっていくことがあります。
他の研究でも、家族や恋人など親しい人に対してほど他責になりやすく(*10)、過食の言い訳も他責思考の1つと言われています(*11)。行き過ぎた他責は、人間関係だけでなく健康すら損なうこともありますので、注意してください。

脳科学者(工学博士)、分子生物学者。武蔵野学院大学スペシャルアカデミックフェロー。T&Rセルフイメージデザイン代表取締役。東京工業大学大学院生命情報専攻修了。2002年に博士号を取得後、特許庁を経て、2008年にうまくいく人とそうでない人の違いを研究する会社を設立。子育てからビジネス、スポーツまで世界的に成功している人たちの脳科学的なノウハウや、大人から子供まで才能を引き出す方法を提供するサービスを展開し、企業から教育者、高齢者、主婦など含めて4万人以上に講演会を提供。『世界仰天ニュース』『モーニングショー』『カズレーザーと学ぶ。』などをはじめメディア出演も多数。TBS Podcast「脳科学、脳LIFE」レギュラー。著書に20万部のベストセラーとなった『増量版 80歳でも脳が老化しない人がやっていること』、『1万人の才能を引き出してきた脳科学者が教える 「やりたいこと」の見つけ方』『結局、どうしたら伝わるのか? 脳科学が導き出した本当に伝わるコツ』など海外を含めて累計43万部突破。最新刊は『脳科学でわかった仕事のストレスをなくす本』。
<参考文献>
(*1) Campbell,W.K.,& Sedikides,C. (1999). Self-threat magnifies the self-serving bias: A meta-analytic integration. Review of General Psychology ,3,23-43
(*2) Hyun M, Jee WF, Wegner C, Jordan JS, Du J, Oh T. Self-Serving Bias in Performance Goal Achievement Appraisals: Evidence From Long-Distance Runners. Front Psychol. 2022 Feb 10;13:762436.
(*3) Svenson, Ola, "Are We all Less Risky and More Skillful Than Our Fellow Drivers?," Acta Psychol-ogica, February 1981, 94, 143–48/ Baumhart, R., An Honest Profit. New York:Prentice-Hall, 1968/ Larwood, L., and W. Whittaker, "Managerial Myopia: Self-Serving Biases in Organizational Planning," Journal of Applied Psychology, April 1977, 62, 194–98/ Cross, K. Patricia, "Not Can, But Will College Teaching be Improved?," New Directions for Higher Education, Spring 1977, 17, 1–15/ Weinstein, N. D., "Unrealistic Optimism about Future Life Events," Journal of Personality and Social Psychology, November 1980, 39, 806–2/ Ross, Michael, and Fiore Sicoly, "Egocentric Biases in Availability and Attribution," Journal of Personality and Social Psychology, March 1979, 37, 322–36/ Zuckerman, M., "Attributions of Success and Failure Revisited, Or: The Motivational Bias is Alive and Well in Attribution Theory," Journal of Personality, June 1979, 47, 245–8
(*4) Teno JM, Ankuda C. The Lake Wobegon Effect-Where Every Medicare Advantage Plan Is "Above Average". JAMA Health Forum. 2022 Oct 7;3(10):e224320/ Yamada M, Uddin LQ, Takahashi H, Kimura Y, Takahata K, Kousa R, Ikoma Y, Eguchi Y, Takano H, Ito H, Higuchi M, Suhara T. Superiority illusion arises from resting-state brain networks modulated by dopamine. Proc Natl Acad Sci U S A. 2013 Mar 12;110(11):4363-7
(*5) Ross, Michael, and Fiore Sicoly, "Egocentric Biases in Availability and Attribution," Journal of Personality and Social Psychology, March 1979, 37, 322–36
(*6) Hu KC, Tsai HL. Effects of Embarrassment on Self-Serving Bias and Behavioral Response in the Context of Service Failure. Behav Sci (Basel). 2024 Feb 14;14(2):136
(*7) Kim S.Y., Yi Y. Embarrassed customers: The dark side of receiving help from others. J. Serv. Manag. 2017;28:788–806
(*8) Steinmetz, J. (2024). Too little money or time? Using justifications to maintain a positive image after self‐control failure. European Journal of Social Psychology, 54(1), 332–340
(*9) Clance, PR., & Imes, S. A. “The imposter phenomenon in high achieving women: Dynamics and therapeutic intervention”. Psychotherapy: Theory, Research & Practice, 1978, Vol.15 (3), p.241–247
(*10) Brown,J.D.&Kobayashi,C.2002Self-enhancement in Japan and in America.Asian Journal of Social Psychology,5,145-168
(*11) Vartanian LR, Reily NM, Spanos S, Herman CP, Polivy J. Evidence of a self-serving bias in people's attributions for their food intake. Appetite. 2024 Oct 1;201:107583

