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2025.12.28

「子どもにゲームは悪影響」は嘘だった!? 脳科学&データから導く“有効”なつき合い方

「ゲームをすると頭が悪くなる」「集中できなくなる」「ゲームなんてくだらない!」親ならつい叫んでしまいたくなる一言。これは本当に正しいのか? うまくいく人とそうでない人の違いを研究し、4万人以上に脳科学的ノウハウを講演してきた脳科学者・西剛志が考察する。

「子どもにゲームは悪影響」は嘘だった!? 脳科学&データから導く“有効”なつき合い方
Unsplush / Javier Martínez ※画像はイメージ

「ゲームは脳に悪い」は、いつ生まれた思い込みか

1983年、任天堂のファミリーコンピュータが登場。それ以来、ゲームボーイ、スーパーファミコン、X-Boxやプレイステーションなど、数々のゲーム機が世界にこれまで10億台以上普及しています。

しかし、一方で「ゲームは子どもに悪影響を与える」というイメージも、ずっと根強くある人もいるかもしれません。暴力的になる、社交性がなくなる、勉強をしなくなる――、これらは本当に科学的事実なのでしょうか。

暴力ゲームをやっても犯罪者にはならない

ちなみに暴力的なゲームについては、近年の研究で意外な結果が出ています。

ゲームをした直後は攻撃性スコアが上がりますが、長期的には犯罪や深刻な問題行動との関連はほとんど見られないと数々のリサーチで判明しているのです(*1)。

つまり、「暴力ゲームをしたから将来は危険」という単純な因果関係は、科学的には支持されていない状況です。

動画とゲームはどっちが子どもに悪影響なのか

最近は動画視聴やゲームをする子どもたちが増えています。

これは、2023年の日本のこども家庭庁の統計です。動画はなんと2歳から全ての年齢で90%を超える利用率になっています。また、ゲームは12歳でピークとなりますが、一方、スマホなどのメッセージ交換は小学生から高校生にかけて急増していき、17歳では91.6%となります。ほとんどの高校生はメッセージに依存しているといってもよいかもしれません。

これらの子どもへの影響はどうなのでしょうか?

参考になるデータが米国で2022年に発表されました。これは米国に住む約1万人の子ども(9〜10歳)に対して行ったリサーチですが、子どもたちの習慣を以下の3つに分けて、2年後の子どもたちにどんな影響があるかを調べてみたのです(*2)。

①テレビや動画の視聴
②ゲーム
③SNSでのネット交流

その結果、なんと②のゲームだけが、2年後の子どもたち(11〜12歳)のIQを2.5ポイントも上昇させました。ちなみに、①と③の動画視聴とSNSなどのネット交流は知能を高めませんでした(9〜10歳の時点では、むしろ知能にマイナスに働いたそうです)。

日々の活動が脳に与える変化

しかも、ゲームは認知能力だけでなく非認知能力まで発達させるという報告もあります。

米国バーモント大学の約2,000人の研究では、ゲームをしている子どもは、ゲームをしたことがない子どもと比べて、注意力と記憶力に関連する脳領域の活動が高く、前頭葉の活動が増加していることがわかりました(*3)。

実際にゲームをしていた子どもほど、衝動制御やワーキングメモリを含む認知能力テストで優れた成績を収めていたそうです。

また他の海外のリサーチでも、3Dアクションゲームは空間認知力をアップさせたり(*4)、ゲームキャラクターをコントロールできる感覚は目標を達成する力(自己効力感)まで高めることもわかっています(*5)。

「1日1時間」が子どもの脳を守る境界線

これだけ見ると、ゲームはむしろたくさんやらせたほうがよいと思うかもしれません。

しかし、実際はそうでもないようです。

有名なのは、オックスフォード大学が発表した、ゲームが子どもの幸福度や社交性にプラスの影響を与える「ある条件」です。それは「1日1時間以内のゲーム」という条件でした(*7)。1時間以内のゲームのみが子どもにプラスの効果をもたらしたのです。

1日に3時間以上ビデオゲームをした子どもは、注意力の問題、うつ症状、注意欠陥・多動性障害(ADHD)の指標に少し動きが見られたそうです(*3)。

実際に日本の約10万人のリサーチでも、任天堂Switch(スイッチ)やPS5(プレイステーション5)を持つ人は幸福度(メンタルヘルスや人生の満足度)が高いそうですが、プレイ時間が3時間以上になるとその効果がなくなってしまいました(*6)。

幸福度は学習力や創造性に影響するため、ゲームとバランスよく付き合えると、むしろ学習力が上がる可能性があるのです。

東大生のデータからも見える、親ができる3つの関わり方

2016年の東大生の調査でも、小学生からゲームをしていた人は約80%でした(*7)。

特に知育ゲームはあまり人気がなく、一般の子どもが大好きな「ポケットモンスター」「大乱闘スマッシュブラザーズ」「モンスターハンター」などのゲームをよくしていたそうです。2022年のリサーチでも、東大生が小学校の頃によくした遊びの第1位は「ゲーム」(約37%)、第2位「スポーツ」(約34%)、第3位「外遊び」(約32%)という結果も出ています。

私自身も小学校の頃は水泳部に入っていて、外でたっぷり遊んで、家ではドラクエやマリオブラザーズなどを夢中になってやっていたことを今でも覚えています。友達や家族など、みんなでゲームをするとより幸福感や一体感なども得られます(*8)。

親にとって重要なのは、ゲームの「禁止」ではなく「環境づくり」です。

1. 時間を決める(基本は1日1時間、最大でも2時間)
2. 内容に関心を持つ(子どもが何をしているかを知る)
3. 会話しながらゲームする(幸福度がより高まります)

子どもを思う気持ちは、誰もが同じです。

だからこそ、科学の力を味方につけて、子どもとゲームの距離を考えることは大切かもしれません。

脳科学者・西剛志「勝者の思考」
西剛志/Takeyuki Nishi
脳科学者(工学博士)、分子生物学者。武蔵野学院大学スペシャルアカデミックフェロー。T&Rセルフイメージデザイン代表取締役。東京工業大学大学院生命情報専攻修了。2002年に博士号を取得後、特許庁を経て、2008年にうまくいく人とそうでない人の違いを研究する会社を設立。子育てからビジネス、スポーツまで世界的に成功している人たちの脳科学的なノウハウや、大人から子供まで才能を引き出す方法を提供するサービスを展開し、企業から教育者、高齢者、主婦など含めて4万人以上に講演会を提供。『世界仰天ニュース』『モーニングショー』『カズレーザーと学ぶ。』などをはじめメディア出演も多数。TBS Podcast「脳科学、脳LIFE」レギュラー。著書に20万部のベストセラーとなった『増量版 80歳でも脳が老化しない人がやっていること』『1万人の才能を引き出してきた脳科学者が教える 「やりたいこと」の見つけ方』『結局、どうしたら伝わるのか? 脳科学が導き出した本当に伝わるコツ』など海外を含めて累計43万部突破。最新刊は『脳科学でわかった仕事のストレスをなくす本』(2025年10月30日発売)。

<参考文献>
1.Peter J. Etchells, et.al., “Prospective Investigation of Video Game Use in Children and Subsequent Conduct Disorder and Depression Using Data from the Avon Longitudinal Study of Parents and Children”PLoS One, Vol.11(1), e0147732, 2016/Dr. Lawrence Lawrence Kutner, ”Grand Theft Childhood: The Surprising Truth About Violent Video Games”, Simon & Schuster
2.Sauce, B., Liebherr, M., Judd, N. et al. The impact of digital media on children’s intelligence while controlling for genetic differences in cognition and socioeconomic background. Sci Rep 12, 7720 (2022)
3. Chaarani B, Ortigara J, Yuan D, Loso H, Potter A, Garavan HP. Association of Video Gaming With Cognitive Performance Among Children. JAMA Netw Open. 2022;5(10):e2235721. 
4. Feng, J., Spence, I., & Pratt, J. (2007). Playing an action video game reduces gender differences in spatial cognition. Psychological Science, 18(10), 850–855
5. Garris, R., Ahlers, R., & Driskell, J. E. (2002). Games, Motivation, and Learning: A Research and Practice Model. Simulation & Gaming33(4), 441-467
6. Egami, H., Rahman, M.S., Yamamoto, T. et al. Causal effect of video gaming on mental well-being in Japan 2020–2022. Nat Hum Behav 8, 1943–1956 (2024)
7. 東大新聞オンライン調査2016年(357名):https://www.todaishimbun.org/survey_game160325/
・ひまわり教育研究所リサーチ:https://www.himawari-child.com/center/report/6097.html
8. Przybylski AK. Electronic gaming and psychosocial adjustment. Pediatrics. 2014 Sep;134(3):e716-22. doi: 10.1542/peds.2013-4021

TEXT=西剛志

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