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2025.09.28

「いい人なのに、なぜか疲れる」の正体。“隠れ攻撃性”をもったカバートアグレッション、6つのサイン

世の中には性格が悪い人とそうでない人がいる。「性格が悪い人の正体」シリーズ第2弾。うまくいく人とそうでない人の違いを研究し、3万人以上に脳科学的ノウハウを講演してきた脳科学者・西剛志が考察する。

Unsplush / Tarik Haiga ※画像はイメージ

身近にいる“善人の顔をした悪魔”

「一見いい人に見えるのに、なぜか疲れる…」

そんな人があなたの周りにもいませんか?

前回のコラムでは「ダークエンパス」という、“共感力を武器に人を操る怖い性格”を紹介しました。

今回はさらに一歩踏み込み、職場や恋愛でも蔓延し、多くの人が体験したことのある「カバートアグレッション(隠された攻撃性)」について、脳科学の視点からひも解いてみたいと思います。

「こっそり攻撃する」現代型モンスター

カバートアグレッション(Covert Aggression)とは、表立った攻撃するのではなく、善人の顔をしながら隠れて相手を傷つけ、最終的に支配にまでつながることがある性格傾向です(*1)。

海外の研究でも、職場で人を攻撃するときに怒鳴るなどの「表立った攻撃」よりも多かったのが、陰湿な「隠れた攻撃性」でした(*2)。

サイコパスのように露骨に暴言を吐いたり暴力を振るったりはしません。むしろ一見すると「人当たりがいい人」と思われることも多かったりします(*3)。

だからこそ、気づかぬうちに心をむしばまれ、疲弊してしていくのです。

カバートアグレッションを見抜く6パターン

私自身、個人的に250名ほどにリサーチしたことがありますが、この「隠れ攻撃」で人を傷つける方法には大きく6つの特徴がありました。

①皮肉混じりのほめ言葉を言う
例:「そのシャツ、昔流行ったけど似合ってるね」

②罪悪感を植え付ける
例:「わざとじゃなかったのに、そんなに責めないで」

③知らないふりをする
本当は知っているのに「それ知らなかったなぁ、ごめんごめん」

④質問をすり替える
答えを避けて、別の話題にすり替える

⑤陰口や評判操作
いないところで悪口を言い、周囲を巻き込む

⑥孤立化させる
わざと敵を作り、ターゲットを孤立させる

もし2つ以上当てはまる人が身近にいたら、要注意です。特にこのような気質を持つ人は、突然声色や表情を変え、怒りを爆発させる傾向もあります(*4)。詐欺や、ブランド品を貢がせるなどホストや夜の仕事系にもこのようなタイプの人がいます。

科学で迫る「隠れた攻撃性」の正体

驚くべきことに、このようなカバートアグレッションをする人はホルモンの分泌パターンにも特徴があることもわかってきました。

まず、1つはストレスホルモンとして有名な「コルチゾール」が低いことです。通常、人を攻撃すると脳から「コルチゾール」というストレスホルモンが出ます。つまり、普通の人にとって攻撃はストレスです。しかし、カバートアグレッションをする人は コルチゾールが低く、攻撃してもストレスを感じにくかったのです(*5)。

さらに、オキシトシン(愛の脳内物質)の分泌が多い という意外な事実も判明しました(*5)。

オキシトシンは「信頼と絆を深める効果」がありますが、マウスの研究でもオキシトシンが多いと逆に“外部への攻撃性を高める”こともわかっています(*6)。

つまり、カバートアグレッションは、人へのつながり欲求が強いあまりに起きている可能性があるのです。

視線を外すだけで防御になる?

では、そんな「隠れ攻撃者」からどう身を守ればいいのでしょうか。

効果的な方法の1つは「目を合わせる頻度を減らす」こと です。

なぜなら、隠れ攻撃の原因となるオキシトシンは「お互いの視線が合うこと」で大量に分泌されることがわかっているからです(*7,8)。

ただ、完全に視線を合わせないというのは、あまりおすすめしません。

むしろ、気づかれないように少し視線を外す時間をつくることが大切です。

もちろん理想は、そうした人とは関わらないことですが、職場や学校、家庭では距離を取れないケースもあるでしょう。

そんなときは、目を合わせない・話題を鵜呑みにしない・心の中で「これはパターンだ」と実況中継する。

それだけで、不思議とストレスのダメージは軽くなります。

善人の顔をした攻撃者を見抜き、心を守る

「カバートアグレッション」はこれまで研究例が少なくあまり注目されていませんでした。

しかし、彼らは友達や恋人のフリをして表向きは優しく、笑顔で接してきますが、知らぬ間にあなたを追い詰めていくかもしれません。何かがおかしい、心が疲弊する直感がしても理由がわからず、心だけでなく体の健康も蝕まれていきます(*9)。

幼少期からこのような傾向がある子どもは、盗み、不正行為、嘘、破壊行為などの隠れた反社会的な行為にも発展していくそうです(*10)。

大切なのは、「あ、この人はそういう傾向がある」と見抜き、巻き込まれないこと。

善人の仮面を見抜けたとき、あなたの心に境界をつくれるため、これまでよりもっと生きやすくなるでしょう。

脳科学者・西剛志「勝者の思考」
西剛志/Takeyuki Nishi
脳科学者(工学博士)、分子生物学者。武蔵野学院大学スペシャルアカデミックフェロー。T&Rセルフイメージデザイン代表取締役。東京工業大学大学院生命情報専攻修了。2002年に博士号を取得後、特許庁を経て、2008年にうまくいく人とそうでない人の違いを研究する会社を設立。子育てからビジネス、スポーツまで世界的に成功している人たちの脳科学的なノウハウや、大人から子供まで才能を引き出す方法を提供するサービスを展開し、企業から教育者、高齢者、主婦など含めて3万人以上に講演会を提供。『世界仰天ニュース』『モーニングショー』『カズレーザーと学ぶ。』などをはじめメディア出演も多数。TBS Podcast「脳科学、脳LIFE」レギュラー。著書に20万部のベストセラーとなった『増量版 80歳でも脳が老化しない人がやっていること』『1万人の才能を引き出してきた脳科学者が教える 「やりたいこと」の見つけ方』など海外を含めて累計42万部突破。最新刊『結局、どうしたら伝わるのか? 脳科学が導き出した本当に伝わるコツ』も好評発売中。

<参考文献>
(*1) Björkqvist, K., Österman, K., & Lagerspetz, K. M. J. (1994). Sex differences in covert aggression among adults. Aggressive Behavior, 20(1), 27–33/Olson SL, Sameroff AJ, Lansford JE, Sexton H, Davis-Kean P, Bates JE, Pettit GS, Dodge KA. Deconstructing the externalizing spectrum: growth patterns of overt aggression, covert aggression, oppositional behavior, impulsivity/inattention, and emotion dysregulation between school entry and early adolescence. Dev Psychopathol. 2013 Aug;25(3):817-42
(*2)Kaukiainen, A., Salmivalli, C., Björkqvist, K., Österman, K., Lahtinen, A., Kostamo, A., & Lagerspetz, K. (2001). Overt and covert aggression in work settings in relation to the subjective well-being of employees. Aggressive Behavior, 27(5), 360–371.
(*3) George K. Simon, “In Sheep's Clothing: Understanding and Dealing with Manipulative People”, Parkhurst Brothers Publishers Inc; First Edition, 2nd Edition, second edition is exclusive to Parkhurst Brothers pub (2010/4/1) 
(*4”)https://www.wellandgood.com/health/dark-empath
(*5) Popescu ER, Semeniuc S, Hritcu LD, Horhogea CE, Spataru MC, Trus C, Dobrin RP, Chirita V, Chirita R. Cortisol and Oxytocin Could Predict Covert Aggression in Some Psychotic Patients. Medicina (Kaunas). 2021 Jul 27;57(8):760/ McBurnett K., Lahey B.B., Rathouz P.J., Loeber R. Low salivary cortisol and persistent aggression in boys referred for disruptive behavior. Arch. Gen. Psychiatry. 2000;57:38–43
(*6)DeVries AC, Young WS 3rd, Nelson RJ. Reduced aggressive behaviour in mice with targeted disruption of the oxytocin gene. J Neuroendocrinol. 1997 May;9(5):363-8/
(*7)Nagasawa, M., Okabe, S., Mogi, K. et al.: Oxytocin and mutual communication in mother-infant bonding. Front. Hum. Neurosci., 6, 31 (2012)
(*8)Nagasawa, M., Kikusui, T., Onaka, T. et al.: Dog's gaze at its owner increases owner's urinary oxytocin during social interaction. Horm. Behav., 55, 434-441 (2009)
(*9)Maguire J., Ryan D. Aggression and violence in mental health services: Categorizing the experiences of Irish nurses. J. Psychiatr. Ment. Health Nurs. 2007;14:120–127
(*10)Olson SL, Sameroff AJ, Lansford JE, Sexton H, Davis-Kean P, Bates JE, Pettit GS, Dodge KA. Deconstructing the externalizing spectrum: growth patterns of overt aggression, covert aggression, oppositional behavior, impulsivity/inattention, and emotion dysregulation between school entry and early adolescence. Dev Psychopathol. 2013 Aug;25(3):817-42

TEXT=西剛志

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