2025年、製薬企業との利益相反の医師が多い日本高血圧学会が血圧の治療目標値を“年齢に関係なく”「130/80mmHg未満」に下げると発表した。これにより高血圧との診断を受け、薬を飲む人の激増が予想される。本当にそれでいいのか。“医学常識のウソ”に鋭く切りこんだすべての国民必読の対談、5回目。【他の記事はコチラ】

糖を必須とする細胞は赤血球など僅か、体内でも糖新生で合成される
和田 ここからは糖尿の話に移ります。日本人は血圧の話と同じように糖尿にも関心が高い。近頃は糖質オフという言葉もよく耳にするようになりました。
大櫛 実は血圧と糖尿は深く関係していましてね。例えば肥満対策として糖質制限食が勧められていますが、これは血圧対策としても有効なことがアメリカで報告されています。
和田 血糖値が高いと、体は血管内の水分量を増やして血糖値を下げようとする。自然に血圧は上がってくる。
大櫛 そうです。私たちのグループでは糖質制限医療というのをやっていましてね。ケトン体生成食という糖質を控えた食事を勧めています。
和田 ケトン体という言葉は、一般の方には馴染みが薄いので簡単に説明してもらえますか。
大櫛 ケトン体は体内の脂肪を分解するときに出てくるものです。人間はこのケトン体を主たるエネルギー源にしているんですよ。
和田 一般の認識ではエネルギーは糖質で摂るものだと思っていますよね。
大櫛 そうですね。糖・グルコースもエネルギー源です。ですが実際は、糖は血液中に20kcalしかない。肝臓でも蓄えているんですが、ここにも600kcalしかない。だからすぐに消費されてしまう。100mくらい走るとなくなってしまうんです。
和田 スポーツ選手はエネルギー源として、試合の前にご飯や麺を食べる人が多いのですが、あれは無意味なんですか。
大櫛 無意味ではないけどすぐに使い切る。じゃあエネルギーはどうするのか。
和田 脂肪ですね。
大櫛 はい。食べた栄養素を脂肪に換えて蓄えているんです。体内には10万kcalくらいの脂肪がある。これを分解してエネルギーにしています。脂肪からエネルギーに変わる段階のものをケトン体と言います。
和田 糖新生もありますよね。
大櫛 はい。食べ物から得た糖はすぐに消費してしまうので、脂肪やタンパク質を原料として、主に肝臓と腎臓で糖を生成するんです。このメカニズムが糖新生です。

東海大学名誉教授・大櫛医学情報研究所所長。1947年徳島市生まれ。大阪大学大学院工学研究科修了。大阪府立の複数病院で研究をした後、1988年より東海大学医学部教授。2012年より現職。著書に『高血圧の9割は正常です』『長生きしたければ高血圧のウソに気づきなさい』『「血圧147」で薬は飲むな』など著書多数。
糖は少量だけで十分
和田 糖は食べなくても生きられるということですね。
大櫛 はい。脂肪は細胞のミトコンドリアの中でエネルギーに換わるんですが、人体にはミトコンドリアがない細胞もあるんです。赤血球はその一つです。そういう細胞は糖を食べてエネルギーにするしかない。このために、人体には糖新生という機能が備わっています。
和田 がん細胞もそうですね。
大櫛 はい。がん細胞は糖がないと生きられない。だから糖を食べず、いわゆる兵糧攻めをするとがん細胞は減るんです。
和田 結局、人間は少量の糖さえ食べておけば生きていけるということですよね。あとは脂肪をしっかり摂っておく。するとケトン体に換えてくれるのでエネルギーには困らない。
大櫛 エネルギー源以外にも、人間の体内で合成できないので、食事から摂取すべき栄養素があります。9つのアミノ酸(タンパク質)、ω3とω6脂肪酸、15種類のビタミン、11種類のミネラル、3種類の電解質です。これらは肉類、魚介類、卵と乳製品、野菜・果物・ナッツ類に多く含まれています。そして食物繊維と水です。日本人の主食と言われている糖質(デンプンと糖類)は必須栄養素ではないのです。脳もケトン体が主たるエネルギー源なのです。
糖質オフ食のほうが糖尿病の95%を占める2型糖尿病にはなりにくい。仮になったとしても薬なしで治療ができます。僕の知り合いに多くの2型糖尿病の人がいますが薬はまったく使いません。その代わりに食事の糖質制限をしています。糖尿病の初期の段階なら、夜だけご飯や麺、パンを抜くという簡単な制限で済みます。病気が進行してくると昼も夜も糖質を抜かないといけないんです。だから早期に異常を見つけて糖質制限食を始めることが大事なんです。
糖尿病医療の危うさ
和田 そもそもなぜ統計の専門家である大櫛先生が糖尿病とかケトン体に携わるようになったんですか。
大櫛 中国の留学生が研究テーマに糖尿を選びましてね。中国で急増していて彼の父親も糖尿病だと。で、日本の大学院にも将来は糖尿病専門医になりたいという学生がいて。同時期に二人の学生が糖尿病を研究すると言い出した。二人を指導するためには私も知っておかなきゃならんでしょ。で、糖尿病の研究を始めたわけです。
和田 最初は学生のために。
大櫛 そうです。そしたらね、当時の糖尿病の予防と治療は全然科学的じゃなかったんですよ。文献の検索、人間ドック受診者の追跡調査、地域住民のコホート研究、各種食事の実食実験などで研究を進めていけばいくほど間違っていることに気づきました。当時のアメリカと日本糖尿病学会ガイドラインのマッチポンプ的な医療(糖質を摂取させて血糖値を上げ、薬で血糖値を下げる治療)の危険性もわかってきましてね。
和田 なるほど、これは解明しなきゃならんと(笑)。
大櫛 火がついた(笑)。当時、偶然アメリカにも疑問を感じている研究者がいましてね。ロバート・C・アトキンス博士という肥満および糖尿病の対策食の提唱者と、ハーバード大学のジョージ・F・ケイヒル教授です。ケイヒル教授は理論的、アトキンス博士は実践的。この二人がアメリカ糖尿病学会やアカデミーと闘っていた。そこで私は双方の研究を比較しました。それでアトキンス博士やケイヒル教授のほうが正しいと結論を出したんです。
和田 なるほど。それで今に至るんですね。
大櫛 決め手になったのはケイヒル教授の退官時の「人の本質的なエネルギー源はケトン体」という論文でした。それを基に私自身も研究して、糖尿病の最も有効で安全な予防法、治療法はケトン体生成食であるという、今の結論にたどり着いたんです。

精神科医・幸齢党党首。1960年大阪府生まれ。東京大学医学部卒業後、同大附属病院精神神経科助手、米国カール・メニンガー精神医学校国際フェロー等を経て、和田秀樹こころと体のクリニック院長に。当対談連載をまとめた『80歳の壁を超えた人たち』をはじめ、『80歳の壁』『幸齢党宣言』など著書多数。
糖尿病の薬はいらない
和田 たしか、ケトン体生成食の実践者の精密検査にも参加されたんですよね。
大櫛 そうなんです。妻と二人で「正常普通食群」として参加しました。いろんなものを食べて30分毎にインスリンを測ったり呼気ガスを計測したり、非常に精密な糖負荷試験をした。そしたら妻に異常が見つかって。HbA1cの上昇とインスリン分泌遅延があることがわかったんです。
和田 糖尿病の初期ですね。
大櫛 それですぐに糖質制限食を始めました。
和田 どんな食事を。
大櫛 朝食と昼食では軽い糖質を、夕食はできるだけ糖質抜きにする。これを続けて20年になります。
和田 奥様は糖尿病には進行しなかったんですか。
大櫛 おかげさまで。インスリン分泌遅延は改善しませんが、HbA1cは今も正常値を維持しています。
和田 よかったですね。食事制限だけで、インスリン注射も内服薬もいらない。
大櫛 はい。まったく治療はしていません。やっぱり食事制限は副作用もないし安全ですから。
和田 でも食べたいものを食べられないのはきつい(笑)。
大櫛 そんなことはないんですよ。ご飯とかの糖質をね、制限するだけですから。肉も普通に食べていい。
和田 大櫛先生も糖質制限食、つまりケトン体生成食を?
大櫛 はい。私の食事を例にすると、朝食は野菜、果物のスムージー、豆腐にキムチ、納豆、卵料理から三品。昼食は、肉やチーズと野菜の炒め物、少量のご飯かパン。夕食は肉、魚、葉物野菜、海藻、きのこなどで数品、という感じです。
和田 かなりガッツリ食べてますね(笑)。糖質を摂らなくてもエネルギーはまかなえる。大櫛先生の肌艶のよさとか、何より活動的ですから、エネルギーが十分なのはわかります。
大櫛 ちょっと専門的な話になるんですが「炭酸ガスの排出量」÷「酸素消費量」で「呼吸商」という指標が計算できるんです。ケトジェニック食の人では、この数式に当てはめると消費エネルギーの90%以上が脂質(ケトン体)でまかなわれていることがわかりました。
和田 読者は仕事をバリバリしている現役世代で、会食の多い経営者や専門職も多いので、この情報はとてもありがたいと思いますよ。
※6回目に続く

