PERSON

2026.02.12

なぜあの左腕が侍ジャパンに? 127キロの控え投手だった曽谷龍平の進化

2026年3月開幕のWBC(ワールド・ベースボール・クラシック)で初選出された曽谷龍平(オリックス)。高校時代は最速127キロの控え投手で、甲子園でも目立たない存在だった左腕が、なぜ日本代表に選ばれるまでに成長したのか。曽谷の大学時代について記した取材ノートをひもときながら、その進化の過程を追う。

なぜあの左腕が侍ジャパンに?127キロの控え投手だった曽谷龍平の進化

WBC初選出。侍ジャパン左腕・曽谷龍平が評価された現在地

2026年3月5日に開幕するWBC(ワールド・ベースボール・クラシック)。2月4日には大会連覇を狙う侍ジャパンのメンバー30人が発表された。投手も野手も実績のある名前が並ぶなか、トップチーム初選出としてひときわ注目を集めているのが、曽谷龍平(オリックス)だ。

プロ入り3年目の2025年シーズンは、初めて開幕ローテーションに定着。シーズン終盤は調子を落としたものの、前半戦だけで8勝をマークするなど、チームのAクラス入りにも大きく貢献した。

高校時代は無名…甲子園でも記録に残らなかった左腕

曽谷は奈良県出身。秋田・明桜高に進学し、2年夏に甲子園に出場しているが、当時は控え投手だった。チームの注目は同学年で投打に活躍していた山口航輝(現ロッテ)に集まっていた。

実際、甲子園初戦の二松学舎大付戦では3番手として登板。2回を投げて被安打5、3失点という成績に終わり、チームも2対14で大敗を喫している。

当時この試合を記録したノートを見返しても、曽谷の投球について何もメモは残っておらず、ストレートの最速も127キロと平凡な数字だった。3年夏は秋田大会の決勝で現在はチームメイトである吉田輝星(現・オリックス)を擁する金足農に敗れている。

白鴎大で一変。150キロを“楽に投げる”フォームとの出合い

そんな曽谷の才能が開花したのは、白鴎大に進学してからだ。3年春に先発の一角に定着。秋には4勝0敗、防御率0.24という圧倒的な成績を残し、最多勝、最優秀防御率、最多奪三振、ベストナインを受賞する。

強く印象に残っているのが、そのリーグ戦後に行われた横浜市長杯の初戦、桐蔭横浜大との一戦だ。

先発を任された曽谷は、立ち上がりから150キロ前後のストレートで相手打線を圧倒。3回に味方のパスボールからピンチを招いてタイムリーを浴びて1点こそ失ったものの、7回を投げて1失点、6奪三振の好投でチームを勝利に導いたのだ。

当時のノートにも以下のようなメモが残っている。

「力みなく、楽に腕を振っており、速いボールを投げるようには見えないフォームから150キロ台を連発。少しステップの幅は狭いが、体が無駄に沈み込むような動きがなく、体幹の強さを感じる。フォームの流れがスムーズで指のかかりも良く、右打者の内角へのボールの角度が素晴らしい。

(中略)

少し体を左右に振る動きがあり、コントロールはまだアバウトな印象。ボールの出所も見やすいせいか、スピードの割にバットに当てられることが多い。変化球もスライダーがほとんどで、バリエーションは少ない印象。それでも力みなくこれだけのスピードボールを投げられる左腕は貴重で、ストレートの勢いは申し分ない」

ちなみに相手の桐蔭横浜大の先発投手は、この年のドラフト会議で巨人から育成6位で指名された菊地大稀(現・日本ハム)で、その菊地も最速150キロをマークしていたが、ボールの勢いは明らかに曽谷が上回っていたのをよく覚えている。

この試合の好投をきっかけに、曽谷の名前はNPB関係者の間に知れ渡ることとなった。翌年春のリーグ戦では松本大を相手にノーヒット・ノーランも達成。大学日本代表にも選出され、国際大会も経験した。

「速いのに打たれる」大学時代に見えた課題

ただ、4年時も曽谷のピッチングを見る機会は多かったが、3年秋に感じた課題が残っていたことも確かだ。

この年の6月20日に行われた大学日本代表候補合宿の紅白戦。2回を投げて無失点だったものの、2イニング目には2つの四球を与えて満塁のピンチを招いており、当時のノートにもこう書かれている。

「左投手らしいボールの角度とストレートの勢いはさすが(この日の最速は151キロ)。ただ下半身の粘りはもうひとつで、抜けるボール、引っかかるボールも目立つ。特に右打者に対しては抜くボールがなく、スライダーだけだと厳しい印象。上のレベルで先発として勝負するなら制球力と変化球を向上させたい」

制球力とフォークの習得が、代表入りを引き寄せた

実際、プロ入り後も1年目には10試合に登板したが32回2/3を投げ、16四死球を記録するなど、制球に苦しんだ。

しかし2年目以降、制球面が大幅に改善。変化球もスライダーだけでなくフォークをしっかり操れるようになったことは大きな成長だ。今回代表入りを果たしたのもストレート、スライダー、フォークの3球種いずれも空振りを奪えるところが評価されたのだろう。

NPB所属の左投手でWBCの代表メンバーに選出されたのは宮城大弥(オリックス)と曽谷だけであり、今大会だけではなく、2027年以降の国際大会を考えても重要な存在であることは間違いない。

それだけに初の大舞台で持ち味を発揮しつつ、さらに大きく成長するきっかけとしてくれることを期待したい。

■著者・西尾典文/Norifumi Nishio
1979年愛知県生まれ。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。在学中から野球専門誌への寄稿を開始し、大学院修了後もアマチュア野球を中心に年間約300試合を取材。2017年からはスカイAのドラフト中継で解説も務め、noteでの「プロアマ野球研究所(PABBlab)」でも多くの選手やデータを発信している。

TEXT=西尾典文

PHOTOGRAPH=岡沢克郎/アフロ

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