PERSON

2025.04.24

学生時代はエースではなかった。新天地オリックスで活躍が期待される九里亜蓮

2025年にオリックスに移籍し、好調なチームを支える九里亜蓮(くりあれん)がスターとなる前夜に迫った。

亜細亜大時代の九里亜蓮。
亜細亜大時代の九里亜蓮。

新天地オリックスでも活躍

パ・リーグ3連覇を達成しながら2024年シーズンは5位に沈んだオリックス。しかし、岸田護(まもる)新監督を迎えた2025年は開幕から順調に勝ち星を重ね、パ・リーグで首位を快走している。

そんなチームの新戦力として大きな存在感を示しているのがフリー・エージェントで広島から加入した九里亜蓮だ。

広島では1年目から一軍に定着。二桁勝利をマークしたのは2021年のみだが、2024年まで8年連続で100イニング以上に登板するなど長く先発として活躍した。新天地のオリックスでもここまで3試合に先発して2勝0敗、防御率1.23とローテーション投手として十分な働きを見せているのだ。

完全なエースではなかった

そんな九里はアメリカ育ちで、中学から日本に移り住んでいる。岡山理大付時代は甲子園出場こそなかったものの、当時から大型投手として関係者の間では話題となっていた。

そして、その名前が全国的に広がることとなったのは亜細亜大進学後だ。2年秋には先発の一角に定着。3年秋には防御率0.70で最優秀防御率のタイトルも獲得している。

しかし当時の亜細亜大はリーグ戦5連覇を達成する常勝チームであり、1学年上には東浜巨(ひがしはまなお/現・ソフトバンク)、1学年下には山崎康晃(現・DeNA)など力のある投手が多かったこともあって、完全なエースというわけではなかった。

大学4年春には全日本大学野球選手権で決勝まで勝ち進んでいるものの、先発を任せられたのは後輩の山崎であり、そのこともチーム内の序列をよく示していると言えるだろう。

結局、上武大との決勝戦は6回に山崎の後を受けてリリーフした諏訪洸(元・トヨタ自動車)が逆転満塁ホームランを浴び、その後を受けた九里は3回2/3を投げて無失点と好投したが、チームは敗れて準優勝に終わっている。

この時の九里のピッチングについては以下のようなメモが残っている。

「少しギクシャクした動きがあるのは気になるが、長身で高い位置から腕が振れており、ボールの角度は素晴らしいのがある。

目立つのは120キロ台後半のスライダーと120キロ台前半のチェンジアップ。どちらもしっかり腕を振って投げることができており、打者の手元で鋭く変化する。

逆にストレートは140キロ台中盤をマークしてもそこまで威力を感じない。山崎に比べると明らかに落ちる印象で、体格は本格派だが投球は技巧的な印象。プロで勝負するにはもう少し球威が欲しい」

この試合での最速は山崎も九里も146キロという記録が残っているが、メモにもあるようなボールの勢いは明らかに山崎の方が上回っていた印象だった。九里自身もそのことを感じていたかはわからないが、4年秋のシーズンにはモデルチェンジを図ろうという姿勢も見られた。

2013年9月7日に行われた青山学院大との試合を記録したノートには以下のように書かれている。

「完全にトルネードと言えるほど体をひねるようになった。ただ、動きの大きさの割にボールに力があまり伝わっておらず、ストレートは140キロ台前半(この日の最速は142キロ)。以前よりも肘の位置も低くなり、ボールの角度もなくなったように見える。

(中略)

変化球の制球は春と比べても向上。130キロ台のツーシームと120キロ台のスライダーを両コーナーに投げ分け、どちらも変化が小さく実戦的なボール。100キロ台のカーブも上手く使って緩急をつける。中盤からリリース安定し、最後までコントロールが乱れない」

短期間にフォーム改造。結果を残した大学4年

この秋のリーグ戦から約2ヵ月後に行われた明治神宮大会ではトルネード投法は見られなくなっており、当時のノートにも「トルネードの動きはなくなり、少しかつぐ動きはあるが高い位置から腕が振れ、ボールの角度が戻ってきた」という記載がある。

これだけ短期間に大きくフォームが変わることは珍しく、あらゆることを試していたのは間違いないだろう。

ただそんななかでも4年秋のシーズン、九里は6勝0敗、防御率1.64という見事な成績でMVP、最優秀投手、ベストナインの三冠を受賞。さらに明治神宮大会でも3試合に先発するフル回転の活躍でチームを日本一に導いている。

試行錯誤しながらも結果を残したことは大きな自信となったのではないだろうか。

プロでもストレートは140キロ台前半と速くない部類に入るが、変化球の精度や投球術は年々磨きがかかっている印象を受ける。それがセ・リーグからパ・リーグへと環境が変わっても結果を残せる要因の一つと言えるだろう。

2年ぶりの優勝を目指すためにも九里の活躍は必要不可欠であり、今後も安定した投球でチームを勝利に導いてくれることを期待したい。

■著者・西尾典文/Norifumi Nishio
1979年愛知県生まれ。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。在学中から野球専門誌への寄稿を開始し、大学院修了後もアマチュア野球を中心に年間約300試合を取材。2017年からはスカイAのドラフト中継で解説も務め、noteでの「プロアマ野球研究所(PABBlab)」でも多くの選手やデータを発信している。

TEXT=西尾典文

PHOTOGRAPH=日刊スポーツ/アフロ

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