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2024.06.13

“ゆあビーム”にリーグトップの打率…プロ6年目で初スタメン、日本ハム・田宮裕涼の捕手力

日本ハム・田宮裕涼(たみやゆあ)がスターとなる前夜に迫った。 連載「スターたちの夜明け前」とは

高校時代のバッターボックスに立つ田宮裕涼

リーグトップの打率、“ゆあビーム”で盗塁阻止

毎年新星が登場するプロ野球だが、2024年のパ・リーグで最も驚きのブレイクを果たした選手と言えば田宮裕涼(日本ハム)になるだろう。

プロ5年間での一軍通算成績は31試合に出場して13安打、打率.228と目立った数字を残していない。

2023年シーズンも1年の大半を二軍で過ごし、イースタン・リーグでの成績も.220に終わっている。

しかし6年目の今シーズンは初の開幕スタメンを勝ち取ると、ヒットを量産。ここまでパ・リーグトップとなる打率.347をマークする大活躍を見せているのだ。

そして田宮の活躍はバッティングだけではない。

盗塁阻止率でもパ・リーグ2位となる.423を記録し、その送球は“ゆあビーム”と呼ばれ、グッズも販売されるほど人気となっている。

2023年までの成績を考えると、ここまでのブレイクを予想できたファンは少なかっただろう(2024年の成績は6月6日終了時点)。

強肩強打の捕手として評判の高校生

そんな田宮は千葉県の出身で、小学校6年の時には年末に行われている12球団ジュニアトーナメントの千葉ロッテジュニアにも選ばれている。

中学は関東でも屈指の強豪として知られる佐倉リトルシニアでプレー。進学した成田高校でも1年秋から正捕手となっている。

初めて現場でプレーを見たのは2年春、2017年4月30日に行われた専大松戸との試合だった。田宮は下級生ながら3番、キャッチャーで出場。

チームは2対3で惜敗したものの、田宮は第1打席でライト前ヒット、第3打席でセンター前ヒットを放ち、盗塁も決めるなど中軸として見事な活躍を見せた。

また捕手としても2.00秒を切れば強肩と言われるイニング間のセカンド送球で4度1.9秒台のタイムをマーク。3回の守備では素早いスローイングで盗塁を阻止するなど、守備でも高い能力を示している。

当時のノートには以下のようなメモが残っている。

「スローイングのフォーム、腕の振りの良さは出色。もう少しボールを持ち替える速さがほしいが、フットワークが良く足をしっかり使い、体の近くでコンパクトに腕が振れる。

低い軌道でセカンドベースまで一直線で届き、ボールの勢いも十分。実戦でも落ち着いた送球で盗塁阻止。

(中略)

バッティングもバットを少し短く持ち、無駄な動きが小さく、鋭い振り出しでスイングの軌道も安定している。どのコースにもスムーズにバットが出ており、広角に鋭い打球を放つ。打てる捕手として攻守ともに非凡」

当時から守備、打撃の両面で高いポテンシャルを誇っていたことがよくわかるだろう。この頃から千葉県はもちろん、関東全体の高校生でも強肩強打の捕手として評判となっていった。

突出した捕手力に期待

そして強く印象に残っているのが、この年の12月17日に行われた千葉県選抜チームの台湾遠征前の強化試合だ。

田宮は選抜チームの主将として自分の所属している成田と対戦。3回の守備では見事な送球で盗塁を阻止すると、打っても4回の第2打席でライト前ヒットを放つなど活躍。

また第1打席と第3打席のファーストゴロでは一塁到達タイムでいずれも4.2秒台を記録している。捕手でありながら脚力があり、走塁への意識も高かったことがよくわかるだろう。

当時のノートのメモには以下のように書かれている。

「イニング間の送球では余裕を持って投げているためタイムは平凡だが(この日の最速は2.06秒)、実戦では素早い送球で楽々盗塁阻止。地肩も強いが、モーションが素早くなった印象を受ける。

打撃も春に見た時と比べて力強さがアップし、鋭く引っ張りライト前ヒット。凡打もしっかりとらえており内容が良い。

(中略)

異なるタイプの投手のボールも落ち着いて捕球。捕手としての総合力が高い」

スローイングやバッティングはもちろんだが、それ以上にこの日感心したのはメモの最後にある部分だ。

選抜チームでの試合ということもあって細かい継投で、田宮が守備についていた間も3人の投手が登板したが、まったく苦にすることなく捕球、ブロックし、無失点で抑えていたのである。

ちなみにこの時に三番手で登板したのが八千代松陰のエースとして活躍していた清宮虎多朗(現・楽天)だった。

また、特別ルールによって田宮が捕手から指名打者に代わった後に選抜チームは成田から4点を奪われている。そういう点も田宮の捕手としての力が突出していたことがわかるだろう。

冒頭でも触れたようにプロでは二軍暮らしが長かったが、2024年のブレイクを見てもその間に着実にレベルアップを果たしていたことは間違いない。

このままの活躍が続けばオールスター出場はもちろん、近い将来の侍ジャパンの正捕手候補としても期待できるだろう。

■著者・西尾典文/Norifumi Nishio
1979年愛知県生まれ。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。在学中から野球専門誌への寄稿を開始し、大学院修了後もアマチュア野球を中心に年間約300試合を取材。2017年からはスカイAのドラフト中継で解説も務め、noteでの「プロアマ野球研究所(PABBlab)」でも多くの選手やデータを発信している。

■連載「スターたちの夜明け前」とは
どんなスーパースターでも最初からそうだったわけではない。誰にでも雌伏の時期は存在しており、一つの試合やプレーがきっかけとなって才能が花開くというのもスポーツの世界ではよくあることである。そんな選手にとって大きなターニングポイントとなった瞬間にスポットを当てながら、スターとなる前夜とともに紹介していきたいと思う。

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TEXT=西尾典文

PHOTOGRAPH=西尾典文

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