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2026.01.29

WBC2026、侍ジャパン左の柱へ――菊池雄星はいかにして“世界基準の左腕”になったのか

2026年3月に開幕するワールド・ベースボール・クラシック(WBC)。2大会連続優勝を狙う侍ジャパンにおいて、先発左腕の柱として期待されているのが菊池雄星(エンゼルス)だ。高校時代に甲子園を沸かせ、プロでの挫折を経て、メジャーのローテーション投手へ。その歩みは、決して一直線ではなかった。

WBC2026、侍ジャパン左の柱へ――菊池雄星はいかにして“世界基準の左腕”になったのか

WBC2026、左の柱に託される存在

2026年の野球界で最大のイベントといえば、3月に開幕するWBC(ワールド・ベースボール・クラシック)だ。

2大会連続の優勝を目指す侍ジャパンは、2026年1月23日時点で19人の代表メンバーを発表。そのなかで、長いイニングを投げられる左腕として期待が高まっているのが菊池雄星(エンゼルス)である。

2018年オフにポスティングシステムを利用して渡米すると、2023年には先発として11勝をマーク。2025年からはメジャー4球団目となるエンゼルスに移籍し、7勝11敗と負け越したもののリーグトップとなる33試合に先発登板し、1年を通じてローテーション投手としての役割を果たした。

甲子園で示した完成度。“別格”だった大型左腕

菊池は岩手県の出身で、中学時代から地元では評判の投手だったという。

花巻東でも1年夏には早くも甲子園に出場したが、1回戦の新潟明訓戦で2番手で登板し、リリーフで5回を投げて1失点で負け投手となっている。地方大会では最速145キロをマークしたスーパー1年生と話題だったものの、この試合での最速137キロにとどまり、少し拍子抜けしたのをよく覚えている。

そんな菊池の評価が一気に跳ね上がったのは、3年春の選抜高校野球だった。

初戦の鵡川戦では、9回ワンアウトまでノーヒットノーランという圧巻の投球を披露。最終的に被安打2、12奪三振で完封勝利を挙げ、ストレートは球場表示で最速152キロを記録した。

ちなみにこの152キロは、現在も選抜高校野球における左投手の最速記録として残っている。

この試合は残念ながら現地で見ていなかったが、2回戦で明豊を相手に2試合連続完封勝利をおさめた試合を見ることができた。当時のノートには12行にわたって菊池の投球を記載したメモが残っている。

「高校生の大型左腕にありがちな粗っぽさがまったくない。ゆったりとしたモーションで軸足にためを作り、下半身主導で楽に腕が振れ、腕の振り自体も強くて柔らかい。球持ちが長く、低めのボールの勢いも抜群。

ギリギリまで体の正面が一塁方向を向いたままで、鋭く体を回転させて前で大きく腕が振れる。145キロ以上を連発するスピードがあってもリリースがばらつくことなく、コーナーの低めにボールを集める。

(中略)

変化球もスライダーが右打者の足元に絡みつくように鋭く変化し、面白いように空振りを奪う。フォームもストレートと変わらない。スライダー以外はたまに緩いカーブを投げるだけだが、少ない球種で相手を圧倒できるところが逆に凄みを感じる」

対戦相手の明豊では現在ソフトバンクで活躍している今宮健太が3番、サードで出場しており、第1打席ではライト前ヒットを許したが、その後の打席では見逃し三振を奪うなどほぼ完ぺきに抑え込んでいる。

リリーフで登板した今宮が、菊池のボールに差し込まれて右手がしびれた影響で本来の投球ができなかったというのも試合の結果を左右する大きなポイントだった。

チームは決勝で清峰に敗れて惜しくも優勝こそ逃したものの、この大会での投球で菊池は一躍ドラフトの目玉と言われる存在となった。

挫折と違和感――順風満帆ではなかった高校最後の夏

しかしその後の菊池は決して順風満帆だったわけではない。

3年夏に出場した甲子園では3回戦の東北戦では最速154キロをマークし、チームも準決勝まで勝ち進んだものの、背中を痛めた影響で選抜と比べると明らかに安定感を欠く内容だった。初戦の長崎日大戦を記録したノートにも以下のようなメモが残っている。

「初戦ということもあってか少し上半身の力みが目立ち、バランスが良くないように見える。投げ終わった後に体が三塁側に流れたり、逆に後ろに体重が残っているような姿勢になるシーンが目立つ。スライダーも変化が早く、見極められやすい。

(中略)

それでも力を入れた時のボールは150キロを超え、高校生の左投手ではなかなかいないレベル。上手く力を抜いて常時速いボールを投げられるようになれば凄い投手になる」

プロで味わった停滞、そして覚醒へ

2009年のドラフトでは6球団が1位で競合の末、西武に入団。しかし、1年目は左肩を痛めて二軍でもわずか2試合の登板に終わった。

2年目に一軍初勝利を挙げたものの、当時のピッチングは高校時代の好調時と比べてもかなり物足りなさは否めなかった。

プロ入り時の期待が大きかっただけに、この時期はかなり苦しかったと思われるが、それでも徐々に登板数を増やし、7年目の2016年には初の二桁勝利をマーク。翌2017年には最多勝、最優秀防御率、ベストナインの三冠に輝いて球界を代表する左腕となり、メジャーでも長くローテーション投手として活躍し続けている。

そういった逆境を乗り越えてきた経験はWBCという大舞台でも大きな強みとなることは間違いないだろう。侍ジャパンの一員としてプレーするのは意外なことに今大会が初めてとなるが、その経験を生かしてチームを牽引するような投球を見せてくれることを期待したい。

■著者・西尾典文/Norifumi Nishio
1979年愛知県生まれ。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。在学中から野球専門誌への寄稿を開始し、大学院修了後もアマチュア野球を中心に年間約300試合を取材。2017年からはスカイAのドラフト中継で解説も務め、noteでの「プロアマ野球研究所(PABBlab)」でも多くの選手やデータを発信している。

TEXT=西尾典文

PHOTOGRAPH=岡沢克郎/アフロ

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