現在パ・リーグで防御率1位と好調。日本ハムを牽引している北山亘基がスターとなる前夜に迫った。

防御率はリーグトップ
現在快調にパ・リーグの首位を走っている日本ハム。大きな強みの一つは強力な先発投手陣だが、その一角としてチームに欠かせない存在となっているのが4年目の北山亘基だ。
ルーキーイヤーはリリーフとして55試合に登板すると、2年目には先発に転向して6勝をマーク。2025年も力のある投手陣のなかでも開幕ローテーション入りを果たすと、ここまで9試合に先発して4勝2敗、リーグトップとなる防御率1.17をマークするなど、さらなる成長を見せているのだ。
19年ぶりに甲子園に導くも課題が多かった
そんな北山の名前が評判になり始めたのは京都成章高校の3年時だった。
春の府大会2回戦ではノーヒットノーランを達成。夏の京都大会では6試合すべてに登板し、そのうち4試合で二桁奪三振を記録する大車輪の活躍でチームを19年ぶりとなる甲子園出場に導いたのだ。
甲子園本大会でも初戦で神村学園にサヨナラ負けを喫したものの、8回1/3を投げて11奪三振をマークしている。ただ当時のストレートは140キロ程度でそこまで目立ったスピードはなく、ドラフト候補という印象ではなかった。当時のノートにも以下のようなメモが残っている。
「テイクバックで腕が背中に入り、肘が前に出ないのが気になるフォーム。それでも腕の振りは鋭く、リリースの感覚も悪くない。コントロールが適度に荒れており、打者から見ると的を絞りづらいのが三振を奪える理由か。
スライダーが110キロ台と遅く、ストレートとのスピード差が大きいため打者のタイミングを上手く外す。ただ勝負どころではストレート頼みで慣れられると苦しい。故障も心配なフォームに見える」
目立つ部分はあったものの、課題が多かったこともよくわかるだろう。プロのスカウト陣からその名前が聞かれるようになったのは京都産業大に進学してからだ。
ストレートが大学時代よりもパワーアップ
1年春からリーグ戦に登板すると2年春には先発で3勝をマークし、関西六大学野球で新人賞にあたる“平古場賞”を受賞。その後も安定した投球を続け、リーグを代表する投手へと成長したのだ。
そんな成長ぶりを強く感じたのが4年春、2021年5月18日のリーグ戦だ。相手の大阪商業大はリーグの絶対的王者と言える存在で、2回には2点を先制されながらもその後は粘り強いピッチングを披露。
最終的にチームは0対7で敗れたものの、北山自身は8回途中まで投げて3失点、7奪三振としっかり試合を作って見せたのだ。当時のノートにも以下のように書かれている。
「テイクバックで右手を大きく下げ、背中に腕が入り、体が逆から見た“くの字”になる動きが大きいのも気になる。しかしそれでも引っかかることなく肘が上がり、上から腕を振り下ろすことができるのが長所。
体つきも高校時代とは別人のように大きくなり、出力が大幅にアップ。ストレートはコンスタントに145キロ前後をマークし、打者の手元で強くキャッチャーミットをたたく音が他の投手とは違う。
(中略)
カーブ、スライダー、チェンジアップ、フォークと変化球も多彩。特にフォークはストレートと同じ軌道から鋭く落ちるボールでブレーキも申し分なく、決め球として十分な威力がある。
雨が強くなった2回に少し制球に苦しんで2点を失ったものの、その後も集中力を切らさずに立ち直る。7回に149キロをマークするなどスタミナも十分」
ちなみにこの日の最速は150キロをマークしており、大阪商業大の強力打線を相手に真っ向勝負を挑むことができていた。この日も多くのスカウト陣が視察に訪れており、その注目度の高さがうかがえた。
しかしドラフト会議では8位という低い順位での指名となっており、これには驚いた関係者も多かったようだ。他球団の担当スカウトに聞くと、メモにもあるように右手が大きく下がるフォームで故障の心配があるように見えたことが評価を下げた大きな要因とのことだった。
それでも冒頭で触れたように1年目からリリーフでフル回転の活躍を見せており、そんな心配を見事に払拭。プロに入ってからも体つきやフォームの躍動感はさらにパワーアップしており、フォームも以前より無駄な動きは減っているように見える。
そういった改善の積み重ねが2025年の活躍につながっているのだろう。チームの9年ぶりとなるリーグ優勝に向けて、さらなる活躍に期待したい。
■著者・西尾典文/Norifumi Nishio
1979年愛知県生まれ。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。在学中から野球専門誌への寄稿を開始し、大学院修了後もアマチュア野球を中心に年間約300試合を取材。2017年からはスカイAのドラフト中継で解説も務め、noteでの「プロアマ野球研究所(PABBlab)」でも多くの選手やデータを発信している。