2025年シーズンにセ・リーグ最下位に沈んだヤクルトが、今季は首位争いを演じている。その原動力のひとつとなっているのが、先発ローテーションを支える6年目左腕・山野太一だ。開幕から安定した投球を続け、2026年5月終了時点でリーグ単独トップの6勝をマーク。だが、その道のりは決して順風満帆ではなかった。高校時代から高く評価されながらも、プロ入り後は故障や育成落ちを経験。挫折を乗り越えた左腕は、なぜ今ブレイクを果たしたのか。その成長の軌跡を振り返る。

最下位から首位争いへ。ヤクルト躍進を支える山野太一
2025年のセ・リーグ最下位から一転して首位争いを演じているヤクルト。そんなチームにあって、先発投手陣の柱として驚きの活躍を見せているのが6年目の山野太一だ。
今季初登板となった2026年3月28日のDeNA戦で7回を投げて2失点の好投で勝利投手となると、そこから負けなしの自身4連勝を記録。4月29日の阪神戦で負け投手となり連勝はストップしたものの、この試合も5回2/3を投げて自責点1、11奪三振と内容は素晴らしいものだった。
その後も安定した投球を続け、ここまでリーグ単独トップの6勝をマークするなど、チームを牽引する活躍を見せているのだ(2026年5月28日終了時点)。
甲子園で見せた“完成度の高さ”。全国に知られた高校時代
そんな山野は山口県の出身。高川学園中学を経て高川学園高校に進学している。その名前が一躍全国に知れ渡ることとなったのは、3年夏にエースとして出場した甲子園がきっかけだった。
チームは初戦で優勝候補の履正社と対戦。この年のドラフト1位でプロ入りし、後にチームメイトとなる寺島成輝(元・ヤクルト)と投げ合い、1対5で敗れたものの、3回以降は1失点に抑える好投を見せたのだ。当時のノートにも山野のピッチングについてこう書かれている。
「171cmという上背の割にリーチが長く、前で大きく腕が振れるのが特長。軸足にしっかりと体重を乗せてからステップし、フォームにメリハリがある。右打者だけでなく、左打者に対しても内角に腕を振って速いボールを投げられ、高い位置から腕が振れるのでボールの角度も申し分ない。
100キロ台のカーブでカウントをとり、緩急を上手く使え、120キロ台後半のスライダーも決め球として十分。フォームの完成度が高く、体ができてくれば将来プロも」
ちなみにこの時のストレートの最速は142キロと、ドラフト候補としては少し物足りないものの、高校生左腕としては十分なスピードだった。
大学リーグ22勝0敗。圧倒的支配でドラフト上位候補へ
そして、山野の才能が一気に開花することになったのは東北福祉大に進学後だ。
1年春からいきなり4勝0敗、防御率0.29という圧倒的な成績を残し、優秀新人賞を受賞。その後は怪我に苦しんだシーズンもあったが、3年春には5勝0敗、防御率0.00と非の打ち所がない成績でMVPも受賞している。
その成長ぶりを目の当たりにしたのが、3年春のリーグ戦終了後に出場した大学選手権だ。
初戦で創価大を相手に6回を投げて無失点、9奪三振でチームを勝利に導くと、続く佛教大戦でもチームは逆転負けを喫したものの、山野自身は6回を投げて無失点と全国の舞台でも2試合連続で圧巻の投球を見せたのだ。
佛教大戦を記録したノートにもそのピッチングについて以下のように書かれている。
「体つきがたくましくなり、上背のなさをまったく感じさせない。これでもかというほどゆったりとしたモーションで軸足に体重を乗せ、体重移動のスピードも十分。肘もスムーズに高く上がり、高い位置から腕が振れ、フォーム全体のバランスの良さも素晴らしい。
(中略)
ストレートは力を入れると140キロ台中盤をマークし、数字以上に勢いがある(この日の最速は146キロ)。100キロ台のカーブ、120キロ前半の遅いスライダーとカウントをとる変化球同士でも緩急をつける。決め球は130キロ台の速いスライダーと120キロ程度のチェンジアップ。全てのボールの質が高い」
故障と育成落ち――プロ入り後に直面した現実
この頃から山野は大学球界でも屈指のサウスポーという評価を得るようになり、3年秋のリーグ戦終了後には大学日本代表候補合宿にも召集されている。
最終学年となった2020年は新型コロナウイルス感染拡大の影響で春のリーグ戦と全国大会が中止となったが、4年間でのリーグ戦通算成績は22勝0敗という圧倒的なもので、ドラフト2位という高い評価でヤクルトに入団することとなった。
プロ入り後は故障もあってスピードが大きく落ち、2年目のシーズン終了後には育成落ちも経験。しかし3年目には二軍で結果を残し、支配下復帰を果たしている。そういった挫折も経験したことが、2026年の粘り強い投球に繋がっている部分もあるのではないだろうか。
ヤクルトは長年投手不足に悩んでいただけに、山野の成長はチームにとって大きなプラスであることは間違いない。この調子を維持できれば初の二桁勝利はもちろん、投手タイトル獲得も見えてくるだろう。
■著者・西尾典文/Norifumi Nishio
1979年愛知県生まれ。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。在学中から野球専門誌への寄稿を開始し、大学院修了後もアマチュア野球を中心に年間約300試合を取材。2017年からはスカイAのドラフト中継で解説も務め、noteでの「プロアマ野球研究所(PABBlab)」でも多くの選手やデータを発信している。

