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2025.12.04

新人王・ヤクルト荘司宏太の“魔球チェンジアップ”は本物だった――高校からNPBアワードまでの軌跡

セ・リーグ新人王に輝いたヤクルト・荘司宏太。社会人時代に「魔球」と評されたチェンジアップを武器に、1年目から勝ちパターンの一角に定着した。しかし、その裏側には、高校時代の片鱗、大学での苦難、社会人での飛躍という、決して平坦ではない道のりがある。“成長曲線”の背景に何があったのか。スカウト視点の記録とともに、その歩みをたどる。

ヤクルト新人王・荘司宏太の“魔球チェンジアップ”は本物だった。高校時代からNPB制覇までの軌跡
セガサミー時代の荘司宏太。

セ・リーグの新人王

2025年11月26日、今年活躍した選手を表彰する「NPB AWARDS 2025 supported by リポビタンD」が行われた。MVPと並んで注目度が高く、一度しか受賞できない新人王。セ・リーグでその栄誉ある賞に輝いたのが荘司宏太(ヤクルト)だ。

2024年のドラフト3位でセガサミーから入団すると、デビューからいきなり12試合連続無失点の快投を見せて勝ちパターンのセットアッパーに定着。2025年5月にはコンディション不良で一度登録抹消されたものの、6月に復帰してその後も安定した投球を続け、最終的に45試合に登板して2勝1敗28ホールド、防御率1.05という見事な成績を残した。

高校時代、山梨で「素材の良さ」が際立つ左腕に

そんな荘司は東京都の出身で、高校は山梨の駿台甲府に進学。2年から投手陣の一角として活躍し、3年時には県内では評判の左腕となった。

初めてピッチングを見たのは高校3年夏の山梨大会準決勝、対東海大甲府戦だった。この試合で荘司は4点をリードされた5回から2番手として登板。4回を投げて1失点、4奪三振と好投を見せたが、チームは反撃およばず4対7で敗れている。

ただストレートの最速は141キロをマークするなど、素材の良さは十分に感じられた。当時のノートにも以下のようなメモが残っている。

「がっちりした体格で高い位置から縦に腕が振れ、上背以上にボールの角度がある。リリースでしっかりボールを抑え込み、低めにも勢いのあるボールが来るのも長所で、ストレートはコンスタントに140キロ前後をマーク。

(中略)

小さい変化のスライダーと、大きい変化のカーブを上手く投げ分け、高低の使い方が上手い。変化球の精度とスピードがさらに上がってくれば左投手だけに面白い」

制球に苦しみ、伸び悩んだ大学時代

しかしその後の荘司は順調に成長したわけではない。

国士舘大では1年春からリリーフとして多く登板したが、2年以降は怪我もあって低迷。大学4年間でリーグ戦通算1勝という成績に終わっている。

当時もピッチングを見る機会は多かったが、スピードは高校時代よりもアップしたものの、制球に苦しむ場面が多く、常に自らピンチを招いている印象が強かった。

魔球と言われたチェンジアップが開花

ようやくドラフトの対象として見直すことになったのは社会人のセガサミーに進んでからだ。

1年目は重要な試合での登板は少なかったが、徐々に課題だったコントロールが改善。そして強い印象を残したのが2年目のシーズン開幕を告げるJABA東京スポニチ大会の東海理化戦でのピッチングだった。

2点をリードした9回からマウンドに上がると、三者凡退、1奪三振という完璧な投球で試合を締めて見せたのだ。ストレートの最速は145キロと春先ということもあってそこまで驚くような数字ではなかったが、11球を投げてボール球はわずか3球と制球が大きく改善。

そして驚かされたのが変化球だった。当時のノートにはこう書かれている。

「下半身の粘り強さが増し、フォームもコントロールも安定。ストレートは140キロ台中盤だが、勢いは申し分ない。

変化球はチェンジアップのブレーキが抜群。ストレートと同じ腕の振りで投げられ、途中までまったく(ストレートと)見分けがつかず、急激にブレーキがかかって落ちる。打者はフルスイングするのが難しいボール。

(チェンジアップは)130キロ弱の速いボールと、110キロ台の遅いボールの2種類があり、どちらもカウント球、決め球の両方として使うことができる。短いイニングであればプロでも十分使えるレベル」

荘司はこの後も抑えとして活躍。7月に行われた都市対抗野球でも東京ガスの補強選手として出場し、2試合、4回を投げて無失点、5奪三振と見事な投球を見せている。

このピッチングを視察していたプロ球団のスカウトも「荘司のチェンジアップは魔球ですよ」と話していたのをよく覚えている。

プロでもこの魔球と言われたチェンジアップは威力を発揮。ストレートのスピードは145キロ前後とリリーフ投手としてはそこまで速い方ではないが、42回2/3を投げて53奪三振をマークしている。

チームは2025年、4年ぶりとなる最下位に沈み、慢性的な投手力不足は大きな課題となっているが、そのなかでも荘司の活躍は大きなプラスとなったことは間違いない。

2026年もその魔球を武器に、セ・リーグの強打者を抑え込むピッチングを見せてくれることを期待したい。

■著者・西尾典文/Norifumi Nishio
1979年愛知県生まれ。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。在学中から野球専門誌への寄稿を開始し、大学院修了後もアマチュア野球を中心に年間約300試合を取材。2017年からはスカイAのドラフト中継で解説も務め、noteでの「プロアマ野球研究所(PABBlab)」でも多くの選手やデータを発信している。

TEXT=西尾典文

PHOTOGRAPH=スポーツ報知/アフロ

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