パ・リーグ3連覇に大きく貢献し、日本シリーズでも活躍したオリックス・紅林弘太郎がスターとなる前夜に迫った。連載「スターたちの夜明け前」とは
吉田正尚の穴を埋める存在
今シーズン、2年連続の日本一は逃したものの、パ・リーグ3連覇を達成したオリックス。
2022年オフには主砲の吉田正尚(現・レッドソックス)がメジャーに移籍したことで野手陣は不安も大きかったが、その穴を埋める存在の1人となったのが紅林弘太郎だ。
プロ入り2年目の2021年にショートのレギュラーに定着。2022年は少し成績を落としたものの、レギュラー3年目の2023年はキャリアハイの122安打、リーグ6位となる打率.275をマークするなど飛躍のシーズンとなった。
惜しくも敗れた日本シリーズでもチームトップの安打数、打率を記録し、優秀選手賞にも選ばれている。またショートの守備でもわずか1票差でゴールデングラブ賞を逃したものの、リーグトップの守備率をマークするなど大きな成長を見せた。
評価が分かれていた高校時代
そんな紅林は静岡県立駿河総合高校の出身。甲子園や東海大会の出場はなかったものの、1年夏から4番を務めている。関係者の間でその存在が話題になり始めたのは2年秋のことだった。
190㎝近い大型ショートで、飛ばす力と肩の強さはかなりのものだと東海地区の担当スカウトからもその名前がよく出るようになったのだ。
チームは秋の静岡県大会で初戦で敗れていたが、翌年4月に行われたU18侍ジャパンの代表候補合宿にも選出され、星稜の奥川恭伸(現・ヤクルト)からもツーベースを放っている。
実際に紅林のプレーを見ることができたのが2019年4月29日に行われた春の静岡県大会、対三島北戦だ。
この試合で紅林は4番、ショートで出場。第4打席にレフトへのツーベースを放ったがヒットはこの1本で、チームも4対5で敗れている。当時のプロフィールは186cm、81kgとなっており、その体の大きさは一際目を引いたが、攻守ともに課題が多く見えたことも確かだ。当時のノートにも以下のようなメモが残っている。
「体のサイズは魅力だが、フットワーク、グラブさばきともにまだまだという印象。動きに軽快さがないのが気になり、細かいステップも素早さを感じない。
目立つのは肩の強さで、三遊間の深い位置からノーステップでファーストへノーバウンド送球。高校生では、なかなか見ないレベルの強肩。ただ少し肘が下がって、ボールが浮く時があるのは課題。
(中略)
バッティングはオープンスタンスの構えで、下半身を使ってゆったりとタイミングをとれるのが長所。左足の踏み込みも強く、上半身が前に突っ込むことなく、体を鋭く回転させてスイングすることができている。
ただ、遠くへ飛ばしたいという気持ちが強いせいか、上半身と腕に無駄な力が入って、きれいに体が回転しないスイングも目立ち、ミスショットも多い。飛ばす力は十分だが、高いレベルの投手への対応は不安が残る」
実際、第1打席から第3打席まではすべてフライを打ち上げており、なかなか芯でとらえることができていなかった。またレフトポール際に大きなファウルも放っているが、強引さが目立ったことも確かである。
この試合には多くのNPB球団のスカウトも視察に訪れていたものの、その評価は分かれていた。
あるスカウトは「今日はもうひとつでしたが、地区大会で見た時は全部しっかりとらえていてあわやサイクルヒットでした。肩も強いし、全国的に見ても面白い選手だと思います」と話していた。
一方で別の球団のスカウトは「体格と飛ばす力は魅力ですが、スイングも守備も動きのスピード感がないのが気になりますね。この後も見続けますが、ちょっと今の段階では評価は難しいです」という旨のコメントを残している。
素材が良いのは誰しもが認めるところだが、高いレベルでは相当時間がかかりそうという印象を持った関係者が多かったはずである。夏の静岡大会でもチームは決勝まで勝ち進んだが、紅林は7試合で7安打、ホームラン0本に終わり、そこまで強烈なインパクトを残すことはなかった。
リーグ優勝を支えた不動の遊撃手に
結局、2019年のドラフト会議で紅林はオリックスから2位という高い順位で指名を受けたが、1位指名で石川昂弥(東邦→中日)、河野竜生(JFE西日本→日本ハム)と2度抽選を外しており、それがなければもう少し順位は低かった可能性もありそうだ。
しかしそれでも紅林はチームの期待に応えて1年目から二軍でチームトップの86試合に出場しながらトレーニングでフィジカル強化を果たし、冒頭でも触れたように2年目からは一軍のショートに定着している。
類稀な体の強さと、たゆまぬ練習があったからこそ、これだけの短期間でリーグを代表するショートになれたことは間違いないだろう。
すでにチームの中心選手としての風格が漂っているが、来年、2024年で22歳とまだまだ若く、今後どこまで成長するかは計り知れないものがある。
来年以降、さらに驚きの成長を遂げて、攻守にチームを牽引する活躍を見せてくれることを期待したい。
■著者・西尾典文/Norifumi Nishio
1979年愛知県生まれ。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。在学中から野球専門誌への寄稿を開始し、大学院修了後もアマチュア野球を中心に年間約300試合を取材。2017年からはスカイAのドラフト中継で解説も務め、noteでの「プロアマ野球研究所(PABBlab)」でも多くの選手やデータを発信している。
■連載「スターたちの夜明け前」とは
どんなスーパースターでも最初からそうだったわけではない。誰にでも雌伏の時期は存在しており、一つの試合やプレーがきっかけとなって才能が花開くというのもスポーツの世界ではよくあることである。そんな選手にとって大きなターニングポイントとなった瞬間にスポットを当てながら、スターとなる前夜とともに紹介していきたいと思う。