放送作家、NSC(吉本総合芸能学院)10年連続人気1位であり、「令和ロマン」「エバース」「ヨネダ2000」をはじめ、多くの教え子を輩出した桝本壮志のコラム。

「人事の仕事をしています。春から新人が入ってきますが、桝本さんは最初に何を伝えていますか? また、著書のなかにあった、『ホメて伸びるタイプもいれば、ナメて伸びるタイプもいた』について、詳しく知りたいです!」という質問をいただきました。
もうすぐ4月。新戦力に期待している人もいれば、初めて会う部下や後輩に気を揉んでいる人、そして、新天地にドキドキしている新社会人もたくさんいます。
そう、春は上司も新人も、自分のマインドセットと向き合う季節でもありますよね。
そこで今回は、1万人の芸人の卵と向き合ってきた僕の知見をもとに、「新人には、最初に何を伝えるべきか?」と、相談者さんご所望の「ホメて伸びるタイプと、ナメて伸びるタイプ」の一例を、芸人さんとのエピソードを交えつつシェアしていきたいと思います。
仕事は「上手」や「下手」よりも「〇手」が大切なんです
まず、職場にやってくる新人たちの胸の内を言語化すると、仕事を「上手くやりたい」「上手に見られたい」です。
吉本NSCでも、最初に新人たちの漫才を見ると、人気芸人の所作とそっくりだったり、妙に経験者臭を出そうとしていたり、さも「できる人」を気どる“心の鎧”を感じます。
すっかり教室内に広がった、「上手くやりたい」「上手に見られたい」という空気を、生徒たちと一緒に確認したあと、僕は最初にこう伝えます。
「新人にとって大切なのは、上手いか下手かではなく『若手か』だからね」と。
売れっ子になった教え子には、漫才やコントの上手・下手よりも、仕事に向き合う「若手らしい」態度がありました。
ここで言う若手らしさとは、世間が若手に求める「フレッシュであれ」「元気であれ」「気をつかえ」といったものではありません。
僕の言う「若手」とは、「私は〇〇ができる人だ」という思考に居ついて、その「できるを広げていこう」とする新人よりも、「私は〇〇ができない人だ」を前提にして、「だから学んで覚えていこう」という感情が駆動していく新人のこと。
そう、たくさんの「下手な自分」を受け入れ、間違えながら「上手になっていこう」とする新人の態度なのですね。
実はこの「若手」は、のほほんとして見える畠中と、ぶっきらぼうに見える伊藤による漫才師・オズワルドの二人にもありました。
ともに未経験者ながら、伊藤は誰よりも最初にエントリーしてネタを見せ、基礎を習得していました。
畠中はコントの演技が下手で、僕から30分も指導されたこともありましたが、ネタを見せ続け、そのコンビを解散しても、ピンでネタをやり続けました。
そんな畠中の姿勢を見て、伊藤は「こいつは絶対に芸人を辞めないだろうな」と思いコンビを組んだそうです。
素敵じゃないですか? 「若手」である人は、才のある「若手」を引き寄せることもあるのですね。

1975年広島県生まれ。放送作家として多数の番組を担当。タレント養成所・吉本総合芸能学院(NSC)講師。「令和ロマン」をはじめ、教え子は1万人以上。
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上司は、若手が「若手」になれる空間をつくる
若手が、たくさんの「下手」や「間違え」を生み出すためには、私たちリーダーが、その「空間」を生み出さなくてはなりません。
よく「ホメて伸ばす」という言葉を耳にしますが、その1本を育成の柱にした組織はあまり強くなりません。
なぜなら、若手の「伸びる」は人それぞれで、ホメて伸びる人もいれば、上司をナメて伸びる人、モメて伸びる人、会社をヤメ(辞め)て伸びる人もいるからです。
僕は、最初にそれを伝えて、「何で伸びるか分からないから、恐れずにいろいろやってみよう」「もちろん、僕をナメてもいいし、僕とモメてもいいからね」と、巻き込まれていく自分の覚悟も添えます。
すると、職場にたくさんの「下手」や「間違え」が創出されていきます。
もちろん、「こいつマジか?」と思う若手も出てきますが、最初に約束事を結んでいるので、ムダな怒りや淘汰にはつながらないメリットもあるのです。
教え子のなかに、僕や世間を「ナメて伸びた」タイプの生徒がいました。
彼はのちに、EXITというコンビを組み、チャラ男と呼ばれて人気者になりました。
コロナ禍のとき、彼の同期たちとリモート飲み会をやることになり、Zoomを起動させると、兼近は全裸で、手を振る代わりに自分の局部を振りました。
「あいかわらずナメてるなぁ~」
僕が破顔して手を振り返したことは言うまでもありません。
では、また来週、別のテーマでお逢いしましょう。

