放送作家を中心に活躍する傍ら、NSC(吉本総合芸能学院)の講師として10年連続で人気投票数1位を獲得している桝本壮志さん。今回のコラムのテーマは「相づち」です。タモリさんにも売れっ子芸人にも共通する相づちのスキルや、自身の会議での失敗談に触れながら、「気持ちを合わせ、心を通わせる会話をするには何をすべきか?」を綴ります。
タモリさんの「トークの品質管理の高さ」
「これまで会った芸能人で『スターだなぁ』と感じた人は?」
『サンデージャポン』(TBS)出演時のアンケートに、「トム・クルーズ」と答えた。
かつて担当していた『笑っていいとも!』(CX)のテレフォンショッキングに彼が来たとき、CMに入ると、トムは突然、アルタの客席へツカツカと降りていった。「どうしたの?」とタモリさんもスタッフも慌てたが、なんとトムは「来てくれてありがとう」と、客席の一人ひとりと握手をし始めたのだ。しかもCM中ずっと。「この人は、根っからのスターなんだな」と感服した瞬間だった。
そんな『いいとも!』には、トムのようなハリウッドスターから幼い子役まで、老若男女がやって来た。しかし、どんなゲストが相手でも、タモリさんは32年間、「同じ空気感」を保ってトークを成立させた。この「トークの品質管理の高さ」は、『いいとも!』の功績の中でもあまり着目されていないスゴさだろう。
なので僕は、よく生徒に「本当にトークが上手い人っていうのは、面白いことが言える人じゃないよ。延々と『普通の会話』が出来る人なんだよ」と伝えている。
少しエッチな話になりますが、男女の食事時間の長さは、その男女のベッドの長さに比例するというデータがあるそうです。会話が弾むと食事はおのずと長くなります。普通の会話をだらだらできるカップルこそ愛情も深まるんでしょう。
商談でも役立つ「トークの句読点に相づちを入れるスキル」
では、なぜタモリさんはトークが上手いのか?
ある日、セットの裏で会話を聴いているとき、「そ」と「な」の相づちの巧みさに気づきました。
「それで?」「そうだね」「そうなのか」「その通り」
「なんで?」「なるほど」「なんとまあ」「納得です」
相手のトークの句読点、ブレスの間合いに小気味よく入れる、この『そ』と『な』は、多くの売れっ子芸人にも共通しているスキルであることに気づき、その後のプレゼンや商談、授業でも大いに役立ちました。
この相づちの大切さが胸にグサリときたのは、過去に大きな失敗をしていたからでもありました。
芸人から作家に転身したとき、「元芸人だ」「人より面白いことが言えるんだ」という浅はかな考えから、僕は番組会議で面白い発言だけをしようとしていました。するとある日、僕が意見している時だけ、肘をつくフリをして耳を塞いでいるスタッフがいることに気づいたのです。自分よがりの僕のトークなんてニーズが無かったんですね。そこで必死に話し方のテクニックを研究しました。
今になって思うと、そのときに用いたのも「そ」と「な」でした。出来るだけ発言者に耳を傾け、「なるほど」「そうなんですね」と相づちを入れる。
しばらくすると、自然と周りとの会話が弾むようになり、「人に耳を傾けると、こちらに相手の気持ちが傾いてくる」という法則に気づけました。
会話とは「回話」。自分と相手で回し合うもの
「気持ちを合わせるには言葉を合わせる」。これは試して損はないメソッドです。例えば、誰でも初対面の人には緊張するし、リーダーポジションの人は偉そうに見られがち。そんなシチュエーションでは「私は」や「僕は」という一人称を、「私たち」や「僕らは」に換えて、気持ちを合わせるひと手間を加えてみる。
信頼感を築くために、会話の切り口は「相手をほめる」ことから始めてみる。ゆっくりと、笑顔で、背筋を伸ばして。相手が間違っていても「違うな」「そうとも言うけど」「逆に」など、相手をくじかない。いちいち相手を正す人がいると、会話のゴールは「着地」ではなく「議論」になるので。
そこまで心を砕いても、会話が弾まない相手や、反りが合わない人は山ほど出てきます。それでも、会話とは「回話」。相手と自分で回し合うものですし、苦手な相手だとしても、勇気を持って、自分の言葉を差し出していくしかないのだと僕は思っています。