PERSON

2023.06.24

「売れてる芸人ほどスベっても平然!」第七世代の育ての親が語る、共通のメンタリティとは

放送作家を中心に活躍する傍ら、NSC(吉本総合芸能学院)の講師として10年連続で人気投票数1位を獲得している桝本壮志さん。今回のコラムのテーマは、「失敗」の捉え方について。芸人にとってもビジネスパーソンにとっても、「人前で失敗してスベること」は恐怖。その恐怖を乗り越える方法は? また、失敗を許容する空間づくりの秘訣は? 自身の失敗談も交えて綴ります。

ミスを嫌う性格が失敗を招く。NSC人気講師が失敗を肯定するワケ

定期的に出演している『サンジャポ』(TBS)では「第七世代の育ての親」なんて大そうな肩書きをつけて頂いているが、僕は大そうな人間ではない。第一志望だった芸人は廃業したし、作家になっても番組をクビになったし、全財産が481円になり「残金すら、失敗(481)やん」と涙したこともあります。

なぜ僕の人生は失敗続きだったのか? 答えはシンプル。「ミスすることを嫌う性格だったから」です。

番組をクビになった25歳のとき、プロデューサーに「発言しない作家はいらないから」と言われハッとしました。たしかに僕は会議で静かでした。アイデアが無いわけではありません。

「デキる人間」だと思われたくて、周りを唸らせる“ホームラン発言”ばかりを狙っていたんです。先輩作家はどんどん意見し、スベり、笑われながら企画を成形していくのに、ミスを嫌う僕はいつも蚊帳の外でした。

思えば芸人時代もそう。「確実にウケる漫才しかやりたくない」というプライドから、吉本NSCでネタを披露する機会はぐんぐん減りました。

ちなみに積極的にネタを見せ、スベり、改善点を掴んでいった同期には、野性爆弾、次長課長、のちのブラマヨ、超新塾らがいたのです。

「10回ためして9回ミスる人は、100回ためすと10回は成功する人」

身をもって「ミスを恐れることが大きなミスになる」ということを痛感した僕は、育成側(芸人学校講師)にまわったとき、その体験を言語化していきました。

ホームランを打てる強打者ほど空振りしたって平気だし、売れている芸人さんほどスベっても平然としています。彼らに共通している心持ちは何か? それは、たかが1回のミスは、単なる成功へのフラグ(前ぶれ)だと思えるメンタリティがあるから。

その通りなんです。だって「10回ためして9回ミスる人は、100回ためすと10回は成功する人」でもあるんですから。

多くの若手は、10回トライして9回ミスをすると「自分は才能が無いんじゃないか?」という溝にハマっていきます。ですが、確率の上では100回トライすると10回は成功する。

社会では、この10回の成功があれば飛躍のチャンスは十分あるんです。何十曲と創ってきた路上ミュージシャンが、一曲をきっかけに大ブレイクするのも、その一例でしょう。

桝本 壮志/Soushi Masumoto
1975年広島県生まれ。放送作家として多数の番組を担当。タレント養成所・吉本総合芸能学院(NSC)講師。

教室のスミに「ミス」を置くイメージで授業する

次に僕が心がけたことは「ミスをしやすい空間づくり」です。これはリーダーポジションの方々にも言えますが、若手の一番の強みは、野球に例えると「飛距離」です。突拍子もないアイデアでも愚策でもいいので、どんどん発言させ、気持ち良くかっ飛ばしてもらう。「送りバント」や「流し打ち」のような小技やチームプレーは、中堅やベテランになってからでも身につくので、まずは若手の最大の魅力を引き出すこと。

なので、ダジャレのようですが、僕は教室のスミには「ミス」を、はじっこには「恥」を置くようなイメージで授業を進めています。

そして生徒らには「そもそも人はミスをする生き物。これを前提に生きていこう」とも伝えています。昔の僕のように、自分のミスに敏感な人間は、他人のミスにも敏感になり、「なんで?」「許せない」「謝れ」という思考になりがちです。

しかし「ミスは起こる」を前提にしておけば、起こっても動じないし、怒ることもなくなります。他人のミスにイライラしなくなると、自分のミスへのハードルも下がり、ミスを怖がらなくなるメンタルになり、どんどん挑戦し、成功率も上がっていくのです。

そして今。40代になった僕は、過去の反省を活かし、年間100本の番組企画を創っています。駄作もあるし、鼻で笑われるモノもあります。それでイイんです。100回トライして10回うまくいけば、人生そこそこ楽しいんですから。

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COMPOSITION=古澤誠一郎

TEXT=桝本壮志

PHOTOGRAPH=杉田裕一

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