放送作家、NSC(吉本総合芸能学院)10年連続人気1位であり、王者「令和ロマン」をはじめ、多くの教え子を2024年M-1決勝に輩出した桝本壮志のコラム。

「34歳の会社員です。新刊の中で、『リーダーは、指導者でなく伴走者を目指す』と書かれていましたが、M-1決勝に出るような芸人さんにも、そういった接しかたをされていたのでしょうか?」という質問をいただきました。
拙著『時間と自信を奪う人とは距離を置く』を読んでくださりありがとうございます。
2025年は、M-1決勝に4組(エバース、ヨネダ2000、めぞん、ドンデコルテ小橋)の教え子が進出しました。
彼らにも、吉本NSC時代から、指導者というより伴走者のように向き合ってきました。具体的には、24時間テレビのチャリティランナーの伴走スタッフのように、黙って後ろを走り、ときに声をかけ、要望があれば心や体をほぐし、最大の目的であるゴール(ブレイクスルー)へと導いていく、といった感覚です。
そこで今回は、僕が「伴走者として投げかけてきた、ちょっと独特な言葉と、その成果」を、彼らとの思い出を挿話しながらシェアしていきたいと思います。
「僕の授業はズル休みしてください」
まず、僕が伴走者になろうと思ったキッカケは“「走りかた」ばかりを教え、「休みかた」を教えていない自分に気づいた”からです。
会社でも芸人学校でも、若手は入社(入学)時が、もっとも意欲にあふれている、つまり「熱」があるもの。
しかし、多くの若手は、同じスタートラインから走らされ、周りの成長スピードに面を食らったり、ついていけなかったりして、熱(テンション)を下げていきます。
そこには、スタートをさせてから、ちくいちタイム(成績)やフォーム(技能)を指摘していく、私たち指導者の「走らせながら走りかたを指導」していく姿勢もあるのです。
僕は、1万人の芸人の卵と向き合っていくうちに、若い人は、箱根駅伝の1年生エースのような逸材もいれば、年月をかけてメンタルと安定した走りを磨き4年生でレギュラーになる人もいる。つまり、「成長速度は人による」ということに気づきました。
そこで、走りかただけでなく「休みかた」も伝えてみることにしたのです。
それが、「僕の授業より、おもしろい趣味があったら、ズル休みしてもいいから、学校は辞めんといてな」という言葉でした。
現時点の成績はイマイチでも、誰もが4年かけて箱根を走るランナーになる可能性があるかぎり“ズル休みをしてもいいから辞めさせない”という状況をつくるほうがベターだと考えたこと。
そして、ズル休みの交換条件を「おもしろい趣味」にしたのは、自分の夢(芸人なら「お笑いで人気者になりたい」)よりも楽しいこと(夢を上回る趣味)があるなら、それが職業になることもあるからです。
ちなみに、過去1万人の生徒の中には、この「休みかたのコツ」をもとに、大好きだった趣味「靴磨き」の道を広げ、人気ユーチューバーとなり、革靴専門店を開いた教え子もいました。
辞めなかったエバース、自発してくれたヨネダ2000
「休みかた」を明文化したことにより、そこに込めた「ズル休みをしてもいいので芸人の道は閉ざさないでほしい」というメッセージは、ゆっくりと生徒たちに伝わっていきました。
そんな教え子の中に、NSC時代は同期でさえ印象が薄く、数年経ってからメキメキ頭角を現したコンビがいました。それがエバースの二人です。
以前、食事をしたとき、彼らはNSCではほとんどネタを披露しなかったけど、うまく授業に参加して単位を稼ぎ、卒業したと聞かせてくれました。
いわば、「学校は辞めんといてな」を実践してくれた生徒でもあるんですね。
NSC入学時は別々のコンビで、けして前に出たり、発言したりするタイプではなかったのがヨネダ2000の二人。
どちらも「キラリと光る存在感があるな」と思っていましたが、こちらから多くは言わず、伴走したまま卒業シーズンを迎えました。
が、2月のバレンタインデーに近い授業の日。突然、彼女たちが「プレゼントがあります!」と発言し、ツッコミの愛ちゃんからはチョコを、ボケの誠からは、お菓子の箱やパッケージを寄せ集めて作った奇妙なショルダーバッグを渡され、教室が笑いに包まれました。
自分なりの歩幅と速度で走り、心が整ってからアクションを起こした二人の姿は、いまでも忘れられません。
それぞれの成長スピードで走り、M-1決勝という高みに辿り着いた4組。伴走者にとって、これほど眩しく、うれしい姿はありません。
今回、ふれることができなかった、めぞん、ドンデコルテ小橋のことも、また折を見て書いてみたいと思います。
ではまた来週、別のテーマでお逢いしましょう。

1975年広島県生まれ。放送作家として多数の番組を担当。タレント養成所・吉本総合芸能学院(NSC)講師。王者「令和ロマン」をはじめ、多くの教え子を2024年M-1決勝に輩出。
新著『時間と自信を奪う人とは距離を置く』が絶賛発売中!
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