放送作家、NSC(吉本総合芸能学院)10年連続人気1位であり、王者「令和ロマン」をはじめ、多くの教え子を2024年M-1決勝に輩出した桝本壮志のコラム。

「桝本さんの新刊が刺さりまくった34歳の会社員です。私は、言いたいことがあるのに、会議やプレゼンでは強気な発言ができません。芸人さんのように、堂々と自己主張をするコツってあるのでしょうか?」という相談をいただきました。
毎日、顔を合わせて働いていれば、誰しも物申したいことや、毒づきたい文句の一つや二つはあるもの。
が、リミッターを外してブチまけると、もれなく軋轢が生まれ、居場所がしぼんでしまうので、感情にフタをする。
実は、そういった人は吉本NSCでも増えています。
僕は、そんな生徒たちに“「言いたいことが言える人」は、「裏表のある人」でもあるんだよ”と伝えています。
裏表のある? それ、ダメな人でしょ? と、思う方も多いでしょう。
そこで今回は、『サンデー・ジャポン』(TBS)などでお世話になってきた、物議をかもす発言や炎上をものともしない「爆笑問題さんに学ぶ“裏表のある”働きかた」を、ゆっくりシェアしていきたいと思います。
表で「毒づく人」は、裏で「徳づく人」
ご存じのように、これまでに波紋を呼んだ太田光さんの発言は数知れません。
高校生のころからファンだった僕も、その歯に衣着せぬ毒舌から、「怖い人なんだろうな、気難しいんだろうな」と思っていました。
が、数年前、サンジャポから出演オファーが届いたとき。生放送に緊張している僕を察知したのか、番組の大看板である二人が、本番5秒前までずっと話しかけてくださったのです。
プロ野球、ボキャブラ芸人時代、好きな小説などの些末な話もあれば、僕が手掛けてきた番組を事前に調べていたのか、「あれは面白かった」「また出たいよ」など、弱ったメンタルが補正されていく言葉をどんどん投げかけてくださる。
が、ひとたび放送になれば、鋭い舌鋒と毒っ気が牙をむき、こちらにも容赦なく襲ってくるのです。
それから2年間、太田さんとは生放送前にいろんな話をして、そのつど本番への心持ちを整えていただきました。
本人から聞いたわけではありませんが、あの太田さんの主張力や毒舌は、舞台裏のホスピタリティの下支えがあるからこそ、芸事に昇華しているのではないでしょうか?
言葉遊びですが、ここぞの場面で「毒づく」ことのできる人は、「徳づく」こともできる人。
つまり、日常装備として、他者に敬意をはらう言葉が豊富な人でもあるということを学んだのです。
表のパフォーマンスを上げる、裏のパフォーマンス
爆笑問題さんの「表裏のある働きかた」は、私たちの職場でも有用です。
会議で言いたいことを言う、つまり発言の自由度を上げるためには、同僚たちとの日常会話で「力み」をなくしておく。いわば“会議室に入る前に自由度を上げておく”こと。
母親に厳しく叱られても、普段の愛情を知っているからこそ受け入れられるように、会議で一度や二度、声を荒げたとしても、普段のあなたを知っているチームならば、その発言を金言として捉えていくはずです。
ちなみに、爆笑問題さんの人気を確固たるものにしたのは、先にふれた「ボキャブラ芸人」としての活躍でしたが、主力メンバー(ネプチューン、くりぃむしちゅーなど)よりも年齢もキャリアも上で、気を遣われるポジションでした。
しかし、視聴者は全員を「若手」と見なすので、気を遣われたままでは、トークや掛け合いで持ち味を発揮できません。
そこで太田さんは、コンビの自由度を上げるために、舞台裏でいろんなことをされたそうです。
例えば、芸人さんが集う楽屋の電気を消して逃げる。すると、誰かに捕まり、「何やってんだよ!」と頭をはたかれる。
が、数分後にまた消して、さっきより強めに叩かれる。
そんなことを繰り返している間に“頭を叩いていい先輩”だと認知され、その関係性がそっくり画面に映し出されていったのです。
会議やプレゼンのパフォーマンスを上げる入口は表ではなく裏側。すなわち「裏口」にある。
そういった学びを与えてくださったのも、爆笑問題のお二人でした。
ではまた来週、別のテーマでお逢いしましょう。

1975年広島県生まれ。放送作家として多数の番組を担当。タレント養成所・吉本総合芸能学院(NSC)講師。王者「令和ロマン」をはじめ、多くの教え子を2024年M-1決勝に輩出。
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