放送作家を中心に活躍する傍ら、NSC(吉本総合芸能学院)の講師として10年以上にわたって人気投票数1位を獲得している桝本壮志さんが、人気芸人・クリエイターと対談する本連載。今回のゲストはM-1王者・とろサーモンの久保田かずのぶさん。第4回は、久保田さんの先輩・後輩との付き合い方について。

“媚びない姿勢の原点は父の背中
桝本 今回は久保田の先輩や後輩との「人間関係のつくり方」を深堀りしてみたいと思ってます。俺がすごいなと思うのは先輩にも後輩にも分け隔てなく接することができるところ。そして「絶対に先輩に媚びない!」という気概を感じるんだけど、それは大阪時代から?
久保田 ありました。だから先輩にはけっこう嫌われてました(笑)。
桝本 東京に出てきて徐々にすり減っていくなかでも、「先輩に媚びるか、自分を貫くか」で後者を選んだんだよね。その覚悟がすごい。力を持った人間にすり寄っていく人も多いけど、どうして自分を貫けたの?
久保田 俺の親父は電気工事士やったんですけど、人と群れないで生きとったんですよ。その背中を見て育ってきて、それをカッコいいなと思ってた部分があるんです。媚びへつらって生きていくのも、他人の人生やから何も言わないですけど、仮に自分に子供が生まれた時に、「自分がどうやって飯食ってるかを胸張って喋れるのか?」って思うんです。「『お前もな、大きくなったらお金持ちの人の言うこと聞くんやで』って言えるかな?」とか。それってカッコ悪いし、自分らしく生きていくべきだと思いますね。
桝本 その「べき」ができない人もいるよね。
久保田 見ていると気色悪いやつ、何人もいますよ(笑)。
桝本 あと、久保田はとても丁寧な人間。礼儀正しくて、本当にちゃんとしている。
久保田 テレビではメチャクチャなこと言ってますけど、裏ではそうかもしれません(笑)。

1979年宮崎県生まれ。幼なじみの村田秀亮とお笑いコンビ・とろサーモンを結成し、2017年に『M-1グランプリ』優勝。ピンでも『ドキュメンタル』の優勝で2000万円を手にするなど幅広く活躍。MCバトルでの活躍や絵画作品も評判を呼ぶ。2025年に発売した自伝的小説『慟哭の冠』もベストセラーになっている。
大吾が漏らした久保田への信頼
桝本 俺が久保田の好きなところは、「たとえ先輩であっても、お前が間違えたら刺しにいくぞ」という緊張感を持たせてくれる後輩というところ。その危うさが俺らが愛してやまない芸人さんらしさであり、人間っぽさでもあると思う。だから、俺の周りでも久保田のことを愛しているベテランがすごくいて。小沢(スピードワゴン)もそうだし、『慟哭の冠』にも出てきた放送作家の樅野(太紀)もそう。もちろん久保田自身は、そこに何の計算も策略もないんだと思うけどね。
久保田 俺が好きな先輩は、面白い人だけ。自分が心から笑えた人と話したほうが楽しいし、本音で話すべきなのはそういう人じゃないですか。だから俺は桝本さんとか小沢さん、徳井さん(チュートリアル)にはいろんなことを喋れる。それは好きやから。めっちゃリスペクトしてますもん。小沢さんも桝本さんもそうですけど、言葉の使い方が上手くって、ワードをいっぱい持っている人は素敵だなと思いますね。
桝本 もともと久保田は「俺は先輩におもねるグループには属したくない」って言ってたのに、それでも先輩に好かれてる理由が知りたいのよ。もしかしたら、自身が途中で変わったのかなとも思って。
久保田 俺、大阪の時も笑い飯さんや中川家さん、千鳥さんとかはよく飲みに行ってました。
桝本 いい先輩の条件って何だろう?
久保田 相手が誰であろうと損得関係なく話せる人じゃないですか。こっちはメチャクチャ敬語使って頭を下げていても、友達みたいな感じで腹割って喋ってくれる人が「いい先輩」ですわ。
桝本 『慟哭の冠』を読みながら感じたのは「この人は、中指立てながら、めっちゃ頭を垂れる人」という人物像。久保田って、ちゃんと折れるところは折れている人間なんだよね。
久保田 それはそうですね。さっき桝本さんが「久保田は先輩が何か間違ったことを言っていたら、先輩でも関係なく刺す」って言ってましたけど、それを分かってくれる先輩が大好きで。このあいだ大悟(千鳥)さんとバーで飲んだ時も、「久保田はさ、俺が年取って変なこと言っても、『おかしいでしょ!』って言ってくれそうだからええねん。でも、他のやつはたぶん言わないって考えると怖いねん」って言ってたんです。それで「俺が言うから、それでいいやないですか」って言ったら、「いや、お前ひとりと飲んでるわけやなくて、俺はたくさんのやつと飲んどんねん!」って。
桝本 いい関係やねぇ。久保田にだけそういう話をしたんやろうね。あと離婚してお金もなくてボロボロだった時期も、久保田は屋敷(ニューヨーク)とかアントニー(マテンロウ)とか後輩をかわいがってたでしょ。それはなぜ?
久保田 俺は弱者側の人の気持ちを分かる人間でありたい、とずっと思っています。その当時は一番苦労しとったんで、むしろ彼らが支えでした。俺よりも飯食えんやつらでしたけど、いい後輩と、安い鯖缶でもいいから食ってる時って、喋っていて何かぬくもりがあるやないですか。それが心地よくて。
桝本 先輩にも後輩にも慕われている久保田ならではのエピソードやね。『GOETHE』はビジネスパーソンに向けたメディアだから聞いてみたいんだけど、俺は久保田の悪評を後輩から1回も聞いたことないのよ。後輩との接し方で、心がけていることはあるの?
久保田 後輩に対しても同じで、俺、おもんないやつとは飲まないんですよ。話していて楽しいやつしか誘わない。
桝本 面白くない、面白いの判断基準はネタ?
久保田 ネタもありますし、人間性、振る舞いとかもそうですね。
桝本 どんな振る舞いを見ているの?
久保田 「気を遣わず喋ってくれている」というのはすごく大事。あまり自分を出さない後輩もおるけども、それは少し悲しい。そうなっちゃうのは自分の責任でもあるのかなと思うけど、そういう人とは飲まないかもしれないですね。
桝本 なるほど、本当に損得勘定なしで生きているなと思います。
※5回目に続く

1975年広島県生まれ。放送作家として多数の番組を担当。タレント養成所・吉本総合芸能学院(NSC)および、よしもとクリエイティブアカデミー(YCA)の講師。2連覇した令和ロマンをはじめ、多くの教え子をM-1決勝に輩出している。