PERSON

2025.08.01

「空気を読めるエゴイストでありたい」とろサーモン久保田の信念【桝本対談⑤】

放送作家を中心に活躍する傍ら、NSC(吉本総合芸能学院)の講師として10年以上にわたって人気投票数1位を獲得している桝本壮志さんが、人気芸人・クリエイターと対談する本連載。今回のゲストは桝本さんと旧知の仲であるM-1王者・とろサーモンの久保田かずのぶさん。第5回は、久保田さんの芸人としての信念について。

桝本さんと久保田さん

「芸人なんて貧乏でいい」

桝本 僕は吉本興業の芸人さんを数多く見てきたけど、久保田は芸人界屈指の自我、アイデンティティ、鼻っ柱の強さを持ってる。今のお笑い界は“行儀のよさ”が求められている側面があり、いろんなことが放送コードやコンプラに引っかかってしまう、いわば芸人さんの正念場。その最前線で戦っているのが久保田だと思ってるんだ。

久保田 テレビってすごく特殊で、このあいだ東野幸治さんにも言われたんですけど、「久保田さ、ずっと面白いことやるのもええけど、テレビに出てるのが全部面白い人やったら、見てる人しんどいで」って。でも、それは本当の話で。

桝本 一理あるよね。ちょっと難しいこと聞くけど、ずっと面白いことをする、し続ける「お笑い」って、久保田のなかでどんな存在なの?

久保田 難しいな。たとえば嫌なことがありすぎて、「もう死のうかな……」って落ちこむ時もあるんです。でも、「明日舞台だし行くしかないな」って思って現場に行く。で、舞台に立って客席全員が笑ってくれた瞬間に、死にたいなんて気持ち、全部吹っ飛ぶんですよね。

桝本 なるほど。それを聞いて、著書『慟哭の冠』にも出てきた、「自分の頭の中はネタと極論とネガティブ」という3つの言葉の「ネガティブ」を思い出したよ。

久保田 昔、歌舞伎町で暮らしてた時はどうしようもない人間だったから、夜7時から居酒屋で隣に座った知らんやつと飲み続けて、昼とかに帰ってきて、「なんて価値のない1日を過ごしてるんだろう」って家で頭抱えて泣いたりしていました。でも泣きながらも、「こういう時期を過ごしたことも、いつか自分の力になる」と思ってました。それはポジティブ思考とかじゃなくて、そう考えないとやり切れなかったというか、生きるためにはそうしないといけなかったというか。だから貧しい、辛い、キツい、厳しい、そんな生活している人に俺はリスペクトを持ってる。漫才師なんて、貧乏人がいいんですよ(笑)。

桝本さん
桝本壮志/Soushi Masumoto
1975年広島県生まれ。放送作家として多数の番組を担当。タレント養成所・吉本総合芸能学院(NSC)および、よしもとクリエイティブアカデミー(YCA)の講師。2連覇した令和ロマンをはじめ、多くの教え子をM-1決勝に輩出している。

空気は”読める”からこそ”壊せる”

桝本 同じお笑い芸人としてはどんなタイプの人が好き?

久保田 僕はボケから走りだす人たちをリスペクトしているので、吉田さん(ブラックマヨネーズ)や河本さん(次長課長)、徳井さん(チュートリアル)、くっきー!さん(野性爆弾)とか大好きです。ツッコミで終わるというよりは、一発の大きなボケで笑いを回収する芸人が増えてほしいなと。「最近の若いやつは」とか言うと老害呼ばわりされますけど、「ロジックが」とか「笑いの構造が」とか、そんなことじゃないだろって。

桝本 自己分析をするとしたら、自分がお笑いの世界で生きていけている理由って何だと思う?

久保田 こんな芸風ですけど、人よりも場の空気を読んで状況判断をする力はあると思ってます。

桝本 空気を読む力ね。

久保田 ただ、俺は「空気を読んでここは引いておこう」という人間じゃなく、「空気を読んで、その空気を壊そう」とする人間なんです。空気を壊せるのは、空気を読めているから。空気を読めるエゴイストであり続けたいとは思っています。

桝本 いいねぇ。みんな空気を読まなくちゃって思ってるけど「読み過ぎてる」もんね。空気もスクラップアンドビルド、空気を読んで空気を壊せる人にならないと、場の「空気は作れない」からね。

※6回目に続く

久保田さん
久保田かずのぶ/Kazunobu Kubota
1979年宮崎県生まれ。幼なじみの村田秀亮とお笑いコンビ・とろサーモンを結成し、2017年に『M-1グランプリ』優勝。ピンでも『ドキュメンタル』の優勝で2000万円を手にするなど幅広く活躍。MCバトルでの活躍や絵画作品も評判を呼ぶ。2025年に発売した自伝的小説『慟哭の冠』もベストセラーになっている。

TEXT=古澤誠一郎

PHOTOGRAPH=杉田裕一

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