切り返しでしっかり踏み込んでいるのに、なぜか飛距離が伸びないーーそんな悩みを抱えるゴルファーは少なくない。その原因は「地面反力」の“使いすぎ”にあるかもしれない。2025年シーズンにツアー初優勝から一気にブレイクを遂げたベン・グリフィンのスイングをもとに、飛ばない原因と、飛距離アップにつながる「抜重」の正しい使い方を紹介する。

「地面反力を使っているのに飛ばない」原因は“踏み込みすぎ”にあった
「切り返しでしっかり踏み込んでいるのに飛ばない」──そんな悩みを抱えるアマチュアは多い。地面反力を使って飛ばそうとする人のなかには、切り返しで地面を強く踏み込めば踏み込むほど飛距離につながると信じているケースも少なくない。
しかし実際には、必要以上の踏み込みはパワーをロスさせ、クラブスピードの減速につながることすらある。
現代のトッププレーヤーは、踏み込みの“強さ”ではなく、踏み込んだあとの“抜け(抜重)”を利用してヘッドスピードを生み出しているのだ。
ベン・グリフィンを変えた「踏み込み→抜重→回転」の完成形
その代表例が、2025年シーズンに初優勝を含む3勝を挙げ、一気にスター選手へと躍進したベン・グリフィンだ。
正確なショットと粘り強さに定評のあるプレーヤーで、2024年のフェデックスカップランキング57位から2025年シーズンは10位へと大きく順位を上げた。
ブレイクの原動力となったのが飛距離の大幅アップで、2024年に295.6ヤード(136位)だったドライビングディスタンスは、今季305.1ヤード(71位)へと約10ヤード増加している。
5年間タッグを組むスイングコーチ、ジェームズ・オーの指導のもと、2024年シーズン前にスイング改革に着手し、スイング中の「踏み込み→抜重→回転」の流れを滑らかにすることで、地面反力をロスなくヘッドスピードへ転換する“現代的な飛ばし”を完成させた。
左足が浮く理由。飛距離を生む「抜重」と縦回転の正体
グリフィンのスイングを象徴するのが、インパクトからフォローにかけて左足が浮き、つま先を目標へ向けながら背中方向へ一歩ステップバックする動きだ。
この独特な動きには明確な意図がある。切り返しで左足を一瞬踏み込んだあと、一気に“重みを抜く(抜重)”ことで、縦方向の地面反力が上方向へ解放され、そのエネルギーが、肩の縦回転(前後軸の回転)を一気に加速させているのだ。
踏み込むほど飛ぶわけではなく、踏み込んだあとの“抜き”があるからこそ体が回り、ヘッドスピードが加速し、飛距離につながる。
左足が自然と浮き上がるのは、この抜重が適切に機能し、力が効率よくボールへ伝わっている証拠といえる。
飛距離アップにつながる抜重をマスターする「ステップバックドリル」
この抜重を理解するために効果的なのが、グリフィンも練習で取り入れる「ステップバック」の動きだ。コースで試すのは少し難易度が高いため、まずは練習ドリルとして素振りなどで取り組んでほしい。
アドレスから通常どおりバックスイングし、切り返しで左足を踏み込んだら、インパクトからフォロースルーにかけて左足を後方へ一歩ステップする。このとき、左足のつま先を目標方向に向けるよう意識するとさらに効果的だ。
最初は「やりすぎかな?」と感じるほど大きくステップしても構わない。むしろ大きく動いたほうが、踏み込んだあとの抜重によって縦方向のエネルギーが解放される感覚がつかみやすい。この抜重動作によってフォロースルーで右肩が前へ出る動きが促され、肩の縦回転がより速くなる。
慣れてきたら、インパクトで左足が浮くイメージを持ちながら、体が“勝手に回り出す”ような感覚を探ってほしい。ステップそのものが目的ではなく、「踏み込み→抜重→回転」の連動を体に覚え込ませることが重要だ。
続けていくと、ステップをしなくても体の内部で同じエネルギー循環が起こるようになり、力を入れていないのにヘッドスピードが上がる感覚を味わえるようになる。
あと10ヤード伸ばしたい、ドライバーで置いていかれたくない──そんなゴルファーほど、この“抜重”は大きなブレイクスルーになるはずだ。見た目は気にせず、まずは練習場で素振りから始め、慣れてきたらボールを打つ流れで試してみてほしい。
左足の抜重で飛距離をアップさせる動画解説
◼️吉田洋一郎/Hiroichiro Yoshida
1978年北海道生まれ。ゴルフスイングコンサルタント。世界No.1のゴルフコーチ、デビッド・レッドベター氏を2度にわたって日本へ招聘し、一流のレッスンメソッドを直接学ぶ。『PGAツアー 超一流たちのティーチング革命』など著書多数。

