PERSON

2025.07.30

「籍入れた月の給料は700円」とろサーモン久保田、結婚と離婚【桝本対談③】

放送作家を中心に活躍する傍ら、NSC(吉本総合芸能学院)の講師として10年以上にわたって人気投票数1位を獲得している桝本壮志さんが、人気芸人・クリエイターと対談する本連載。今回のゲストM-1王者・とろサーモンの久保田かずのぶさん。第3回は、上京してからの日々と離婚について。

桝本さんと久保田さん

着の身着のまま寝台特急で嫁と上京

桝本 今回は元嫁さんとの話や離婚の話を聞きたいんやけど、東京に出てくる時は、嫁さんは何も言わずついて来てくれたの?

久保田 はい。寝台特急で一緒に来ました。

桝本 『慟哭の冠』にも書いてあったけど、愛犬を抱いて上京してたことも含めて、いい話だなと。東京に着いたときの朝日の描写もリアルやったし、俺の人生が久保田とシンクロする部分もあって。

久保田 桝本さんも離婚してますもんね。

桝本 うん、離婚してるしクルマの免許もないし、広島の田舎から大阪に出ていって、その後にいわば”賭け”で東京に出てきたのも同じやから。元嫁さんとは大阪で籍を入れたの?

久保田 そうですね。お金は全然なかったんですけど、宮崎の人間やから吉本所属の芸人になったら金がすぐにたくさん稼げるようになると思っとったんですよ。で、籍入れちゃった。ほんだらその月の給与明細が700円やった(笑)。

桝本 本を読んでいても、元嫁の久保田への愛情はすごく感じんねんな。俺も元嫁には「一緒におってくれてありがとう」という気持ちしかないよな。(※桝本は作家になってから結婚している)

久保田 ほんまにそれ。感謝しかない。

桝本 俺も「絶対に東京で成功する」と思いながらもそこですり減っていく時間があったけど、あの時間ってほんまに“慟哭の日々”やない?

久保田 そう、そうなんすよ。

桝本 久保田の元嫁さんは家計を支えるためにいろんなバイトを始めたんだよね? 疲れもあってか、家でありったけの副流煙を吐く描写がリアルすぎてさ。

久保田 シーシャばりですわ。

桝本 あれっていつ頃?

久保田 今から17年ぐらい前かな。でも、正直その当時のことってあんまり記憶ないんです。人って、とことんまで傷ついた時の経験を覚えていないんですよね。辛すぎて、脳が記憶を抹消しているというか。

桝本 好きな人に嫌われるのって、俺は「この世で一番しんどいこと」だと思ってるの。

久保田 分かるなあ。しんどいっすね。

久保田さん
久保田かずのぶ/Kazunobu Kubota
1979年宮崎県生まれ。幼なじみの村田秀亮とお笑いコンビ・とろサーモンを結成し、2017年に『M-1グランプリ』優勝。ピンでも『ドキュメンタル』の優勝で2000万円を手にするなど幅広く活躍。MCバトルでの活躍や絵画作品も評判を呼ぶ。2025年に発売した自伝的小説『慟哭の冠』もベストセラーになっている。

「嫁がいなくなるとベッドで寝れなくなる」

桝本 久保田のためにカレーを買って帰った日、家の鍵が開いていて、テレビが付きっぱなしだったくだりも胸がキュッとなった。部屋に入った瞬間に感じる、只事ではない雰囲気ね。

久保田 「ずっといた人がいなくなる」という寂しさ。

桝本 妻が出ていく前触れはあった?

久保田 前触れはあったと思うんですけど、俺はバカだから「まだこいつは耐えられるだろうな」と思っとったんです。身勝手な信頼というか。

桝本 うん、分かる。

久保田 東京に出てきたばかりの時は楽しく暮らしてましたけど、金がなくなるにつれて嫁がガールズバーとかで働きだしたから。そこはある意味、メッセージだったんでしょうね。でも俺は俺で毎日先輩と飲んで、終電逃して漫画喫茶に泊まって帰り、家に着くのは朝の9時とか10時。嫁はバイト掛け持ちで働いてるから、もう家におらんですよ。そうやって生活リズムが合わなくなったのも大きかったと思いますね。

桝本 久保田は自分の夢を生きて、妻は「久保田を支える」という夢を生きてたんだけど、少しずつすれ違いが生まれていたんだね。

久保田 人間って不思議なもんで、嫁がいなくなってみるとベッドで寝れなくなるんです。「ずっといてくれた人が横にいない」と感じることが、恐ろしくなっちゃって。その経験があるから、正直結婚はもういいかなって思ってますね。

※4回目に続く

桝本さん
桝本壮志/Soushi Masumoto
1975年広島県生まれ。放送作家として多数の番組を担当。タレント養成所・吉本総合芸能学院(NSC)および、よしもとクリエイティブアカデミー(YCA)の講師。2連覇した令和ロマンをはじめ、多くの教え子をM-1決勝に輩出している。

TEXT=古澤誠一郎

PHOTOGRAPH=杉田裕一

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