PERSON

2025.01.19

あれから10年…次長課長・河本がいま語る、生活保護騒動

放送作家を中心に活躍する傍ら、NSC(吉本総合芸能学院)の講師として10年以上にわたって人気投票数1位を獲得している桝本壮志さんが、人気芸人・クリエイターと対談する本連載。今回のゲストはNSC大阪校13期で同期だった、次長課長・河本準一さん。駆け出し時代の青春の日々や、多くの大御所から可愛がられる河本さんの社交術、生活保護受給問題や感極まって涙を流した先輩芸人への思いなどを全7回にわたって聞いた。第5回。

桝本さんと河本さん

「ふざけることが仕事」の芸人が不祥事から再起する大変さ

桝本 俺はひとりの同期として準ちゃんを擁護する気持ちを持ってるけど、生活保護の一件があってから、準ちゃんがどうやって仕事や人生とかと向き合ってきたかも聞きたいなと思って。この件を俺と喋るのは初めてだけど、あの一件はキツかったでしょ?

河本 むちゃくちゃキツかった。自分自身のことではなく母親の件だったから、どうしていいか分からず困惑するのもあったし、「今までと変わらない姿勢で仕事をしていいのか」って葛藤もあった。これは徳井(チュートリアル・徳井義実)もそうだと思うけど、“食らった人間”にしか分からない圧倒的な圧力ってのがあって、どこかで誰かに「まだふざけてんのか」って言われているような気がするんだよね。

桝本 そうだよね。

河本 でも、お笑い芸人って特殊な職業やから、ずっとふざけんとあかんのですよ。

桝本 他の職業の人は違うよね。たとえばピエール瀧さんは、自分の犯した罪でお茶の間からは一度消えたけど、『地面師たち』でまた大きく評価されている。ソフトバンクの山川穂高選手もスキャンダルを起こしたけど、日本シリーズに行ったことが禊になった感がある。一方で、芸人さんって、禊の場所が一生与えられないんだよね。僕は「それってどうなんだろうな」と思っているひとり。楽しくやっていると、多分ずっと許されないみたいなところが非常にもどかしくて。

この対談でも準は、包み隠さず自分のことを話しているけど、お父さんが何人も代わっている家庭環境を考えても、すごく難しい問題なんだよね。準がどこまで何を把握していたかは本人にしか分からないところでもあるし。

河本 ひとつハッキリ言っておきたいのは、僕自身の認識が甘く、母親の生活保護を終わらせる時期が遅れてしまったのは確かってこと。ただウチの母親については、両腕が動かなくなったことで岡山の役所の人が認定した生活保護の受給者だった。あと当時、僕には母以外にも身内に3人ほど困っている人がいて。その面倒も全部見つつ、目の前で倒れている後輩にもメシを食わせて、さらに自分の家族がいて、子供たちの面倒も全て見なきゃいけなくなって妻もパニックになってしまって。

桝本さん
桝本壮志/Soushi Masumoto
1975年広島県生まれ。放送作家として多数の番組を担当。タレント養成所・吉本総合芸能学院(NSC)講師。王者「令和ロマン」をはじめ、多くの教え子をM-1決勝に輩出している。

「お前が出ているテレビは一生見ない」

桝本 今まで河本や次長課長を応援してくれていた人間が、急に反対側に回った怖さもあっただろうね。

河本 街を歩いていても全員が敵のように見えたし、直接責められる状況もあった。あの件があってから半年後、北海道で漁をするロケがあったんだけど、漁師さんの奥様がカメラ止まってから僕のところに来て、「お前が出ているテレビは一生見たくない。だけどお笑い芸人として、お前がふざけてやらなきゃいけない気持ちも分かるから、やるんだったら死ぬ気で死ぬほど笑かしてくれ。そうしたら見てやる」って言ってきて。

桝本 その人、笑いの神の化身やなぁ。

河本 それがメチャメチャ刺さって。自分がやったことはもう一生消えないんだから、だったらそれを凌駕するぐらいやり切ろうと、覚悟を決めるようになった。最近もさんまさんが座長の『笑輪の笑い Born ready達』の東京公演で、僕のことを「すみません、コイツ12年前に保険金詐欺しました」って言ってきて、「ぜんぜん違う罪を重ねちゃってますよ!」とツッコんだけど、それも「行くなら行ききってしまえ。お前も芸人やろ?」という濃い愛情表現だと思ってる。

禊が一生終わらないからこそ、プライドを全て捨てて芸人を続けたい

桝本 あそこから河本準一の人生は明らかに変わったわけだよね。

河本 語弊のある言い方かもしれないけど、あそこでガラッと変わってから、芸人一本だけの生活をやめて、違う世界を見る経験もさせてもらった。そこから10年間、慰問という形でも……。

桝本 これはあまり知っている人がいないから俺から話したいんだけど、準はあれから岡山の介護施設や児童養護施設でのボランティア活動をずっとやってきたんだよね。さらに視野を広げて、岡山のお米やデニムといった地場産業を盛り上げる活動もしている。でも、いまだに世の中から許されていない風潮が、もどかしくて。

河本 僕はそういう活動をやっていることを自分から言う必要もないと思ってたし、10年間ずっと黙っていた。「罪滅ぼしで河本が今一生懸命頑張っている」みたいな広め方もしないでほしいと伝えてた。

桝本 あと準は、収入が増えはじめてからの受給分の返還もしてるんだよね。

河本 僕は、禊が終わることは一生ないと思ってる。でも、「それをずっと引きずって生きていくのか?」というのは、またこれは別の問題。お笑いのレベルは落とさず、自分のプライドを全部捨てて、自分が納得いくまで芸人を続ける、それが僕にとっての禊。だから今回の対談記事も、「ボランティア活動を10年間やっているから、もう禊は終了」みたいな話だと受け取ってほしくない、というのが僕の心情です。

桝本 本当にそうだね。それはしっかり伝えておこう。

※6回目に続く

河本さん
河本準一/Junichi Komoto
1975年岡山県生まれ。NSC大阪校を経て、同郷の井上聡とのお笑いコンビ「次長課長」として1995年にデビュー。2002年に東京進出後、一躍人気芸人となる。近年はYouTuberとしても活動するほか、地元・岡山での農業や社会貢献活動にも取り組んでいる。

TEXT=古澤誠一郎

PHOTOGRAPH=杉田裕一

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