PERSON

2024.01.17

伊勢谷友介、衝撃の逮捕から3年。「自分はなぜ生きているのか」という問い

他の者には代えがたい独特のオーラを放ち、さまざまな作品で存在感を見せつけてきた俳優・伊勢谷友介。2020年9月、大麻取締法違反で逮捕されて芸能活動を休止していたが、2023年12月に執行猶予期間が明けたのを機に、再び表舞台に帰ってきた。今、伊勢谷友介は何を考え、何をしようとしているのか?【前編】

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危ないことをやりたがる子供だった

2023年12月26日。年の瀬も押し迫ったその日、伊勢谷友介はカメラの前に立っていた。しなやかに身体を動かしながら、鋭い眼差しをレンズに向け、時に妖艶な笑みを浮かべる。その身から放つのは、逮捕からの“3年の空白”を感じさせない圧倒的な存在感。これが、伊勢谷友介が唯一無二の役者として多くの人を魅了してきた理由なのだろう。その個性は、一体どのようにして育まれたのだろうか。

幼い頃の話を聞くと開口一番、「小さい頃は色が白くて、髪の毛がつやつやしていておかっぱ頭だったから、よく女の子に間違えられていたんですよ」と笑う。

「でも、やることは危ないことばかりで。3歳から8歳くらいまで函館に住んでいたんですが、雪が積もると家の前の急坂や屋根の上をそりで急滑走したり、危ないから行くなと言われているところで遊んだり。だから、しょっちゅう怪我をしていましたし、親に怒られていましたね」

1976年、伊勢谷は東京で生まれた。父親は腕のよいテーラーだったというが、2歳下の妹が生まれてすぐに両親は離婚。母親の実家のある北海道・函館へ移り、母方の祖父母と共に暮らしていた。その後、伊勢谷が小学校3年生に上がるのを機に、祖父母も一緒に家族5人で上京。多感な時期を東京で過ごすことになる。

「友達がいるから学校には行くけれど、落ち着きがなくて座学も苦手でした。それに、学校では本当に大事なことは教えてもらえないと、早くから感じていて。わりと要領はよかったので、『合格点とっておけばいいでしょ』くらいな感じで、成績は中の上くらいを維持していましたけど」

ファッションの延長線上としてのアート、そして映像の世界へ

高校に進むと、ファッションに関心を持つようになった。「異性に興味が出てくる年頃で、自分をアピールする方法のひとつがファッションだったから」と話すが、それが後の進路にもつながっていく。

母親が教育熱心だったこともあり、高校1年から大学進学を見据えて塾に通っていたものの、学びたいことがあるわけではなかった。そこでぼんやりと頭に浮かんだのが、“ファッションの延長線上”としてのアートだった。

「当時はカッコいいオートクチュールもたくさんあって、スーパーモデルも脚光を浴びていた時代でしたからね。僕自身、手先は器用で、絵を描くのも得意だったんです」

美大受験用の予備校に通い始め、東京藝術大学の美術学部デザイン学科に見事現役合格を果たす。ところが入学し、新しくできた仲間たちと交流をするうちにアートへの興味は薄れ、代わりに映像制作に強い関心を寄せるようになった。

ストーリー、音楽、衣装……。あらゆる“アート”が詰めこまれた映画をつくり、人を感動させることこそが、自分が本当にやりたいことではないのか。そんな想いを抱き、デジタルビデオカメラで作品を撮り始めた。20歳の時にスカウトされてモデルとしてデビュー後、21歳で是枝裕和監督の映画『ワンダフルライフ』のオーディションを受けたのも、映画制作の現場を経験したかったからだ。

『ワンダフルライフ』への出演を機に、俳優・伊勢谷友介が誕生。そして25歳の時、是枝監督との縁もあって映画『カクト』で念願だった監督デビューを果たし、作品はロッテルダム国際映画祭でも上映された。

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伊勢谷友介/Yusuke Iseya 
1976年東京都生まれ。東京藝術大学在学中にモデルとしてデビュー。以後、俳優や監督、実業家として幅広く活躍するも、2020年9月、大麻取締法違反の容疑で逮捕。2024年1月26日に、半生を綴った書籍『自刻像』を発売。2024年3月公開の映画、『ペナルティループ』に出演し、俳優業に復帰予定。

自分の人生の核となるもの、進むべき道が定まったのはいつだったのか。そう問うと、「1本目の映画を撮った時ですね」という答えが返ってきた。それは、映画制作の道を貫くという意味ではない。むしろ、その逆だ。

「僕自身は映画が大好きだし、さまざまな映画から影響を受けてきました。映画を観たことによって人生が変わる人もいます。でも、それは稀なケース。ほとんどの場合、時間が経てば多くの人は観た時に抱いた感情を忘れてしまうのが現実です。映画監督という立場では、僕が本当にやりたいことは実現できない。だから、別のアプローチを取ることにしたんです」

地球と人類の未来のためのプロジェクト、そして転落

伊勢谷は俳優業を続けながら2009年、33歳の時に株式会社リバースプロジェクトを設立。「人類が地球に生き残るために」をコンセプトに、衣食住をベースにした事業を通して、環境問題をはじめとする社会課題を解決することを目指した。

伊勢谷がリバースプロジェクトを通じてやりたかったこと。大きく言えばそれは、地球を破壊するようになってしまった人類を、本来あるべき姿に立ち返らせ、未来を守るように促していくことだ。今でこそSDGsという言葉が当たり前となり、環境問題や社会課題に取り組む企業や団体が増えているが、伊勢谷がそうした活動に取り組み始めたのは、20代半ばの頃。今から20年以上も前のことだ。

「地球上に住む生物のなかで、自分たちの未来を壊すのは人間だけ。地球によって“生かされている”はずなのに、環境を汚染して自分たちが生きていく未来の環境を破壊している。それにストップをかけ、本来あるべき地球の姿を取り戻す。それが、子供たちの未来を守るべき大人の責任だと思います」

そう考えるようになったのは、“自分はなぜ生きているのか”という問いを突き詰めた結果だった。

幼少期から、「何事にも理由や理屈を求め、物事をまじめに捉えすぎるきらいがあった」という伊勢谷。変わっている子だったという自覚もあり、「なぜ自分はみんなのように、物事を適当に受け流すことができないのか」と悩んだ時期もあった。それが、伊勢谷友介という人間の根っこなのだろう。

リバースプロジェクトは、サステナブルなプロダクトの開発から地域創生まで幅広く活動し、東日本大震災の支援活動にも尽力。自分が“より有効な広告塔”になればその活動がもっと普及するのではないかと、俳優業も積極的にこなした。しかし、伊勢谷が期待したほどには活動の認知、環境問題への危機意識は広がらなかった。

「世界に目を向けると、環境問題や社会課題を解決しようとさまざまな方法を試す国があったり、自殺者も少なく幸せに暮らす国も存在するのに、日本という国はいつまでたっても資本主義社会のなかでも沈没し、それでいながら大量生産・大量消費の経済活動から脱却できずにいる。だから国としての成長が止まり、経済的にも世界から後れを取ってしまった。必死に働いても、ストレスで自殺に追い込まれてしまう人も少なくありませんしね。そんな悲惨な状況を変えるには教育から変えるべきだと思って、高校をつくったこともあったのですが」

それが、2019年4月に開校したLoohcs(ルークス)高等学院だ。伊勢谷が発起人に名を連ね学長に就任したこともあり、マスコミでは大きな話題になった。当時、伊勢谷は開校にあたり、「子供たちには、地球を俯瞰して見る“宇宙人の視点”を持って、今の人類のどこを直せばいいんだという気づきや発見につなげてほしい」と、熱い想いを語っている。

しかし開校の翌年、伊勢谷は学長を解雇されることになる。2020年9月、大麻取締法違反で逮捕されたためだ。

これを機に、伊勢谷の生活は一変する。

※後編へ続く

伊勢谷氏1
ジャケット¥258,500(ポータークラシック/ポータークラシック 銀座 TEL:03-3571-0099) ニット¥23,500(デラックス TEL:03-6805-1661) パンツ¥18,700(デウス エクス マキナ/ジャック・オブ・オール・トレーズ プレスルーム TEL:03-3401-5001) イヤリングは本人私物

TEXT=村上早苗

PHOTOGRAPH=豊田亮

STYLING=葛西信博

HAIR&MAKE-UP=ShinYa

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