給料は上がらず、将来への不安は高まるばかり。ビジネスパーソンは少しでも多く貯蓄にまわそうと、ますますお金を使わなくなっていく。これでは世の中にお金がまわらずに、景気はさらに冷え込むばかりだ。低迷する日本を救う生き方とは? 精神科医、評論家、作家など、多方面で活躍する和田秀樹氏に話をうかがった。
「貧しい国」から「なってはいけない国」へ
2023年5月、日経平均株価は約33年ぶりに3万1000円台を突破。2024年には4万円の大台に乗るのではないかという声も聞こえてきます。でも、日本の景気が上向きで、裕福さを感じているという人はほとんどいないでしょう。株価は単なる数字のマジック。日本経済はますます落ち込んでいるというのが正しい認識でしょう。
ここ数年、日本は単なる「貧しい国」ではなく、「なってはいけない国」に変わってしまったと感じています。たとえ「貧しい国」でも明るい未来を感じられれば希望が湧いてくるもの。今の給料は安くても、頑張ればそのぶん賃金が上がり、生活水準が少しずつ向上していく。そんな未来を描ければ、「夢をもって這い上がろう」と思えるわけです。
でも、賃金は上がらない。様々な業種で「人手不足」が問題になっているのに、給料はほとんど上昇しないんです。そうした状況が30年以上続き、日本人は心まで貧しくなってしまった。「頑張ったってどうせ無理だろう」とか、「ほどほどでいいや」とか、労働者は口々にそう言います。その結果、日本人はさらに貧しくなった。日本では年収が195万円以下の場合、所得税率が5%と低く設定されています。この低所得者層の割合が全労働者の59%に達していると聞いています。
お金を使うことで活路が見出せる
この悪しき流れを変えるには、どうすればいいのか。答えは「みんなでお金を使う」ことです。まずはお金をもっている企業。2023年9月、アメリカの全米自動車労働組合(UAW)はストライキを決行し、4年で25%の賃上げを勝ち取りました。日本よりも給与水準が高いアメリカで25%ですよ。それなのに日本では大企業が3.7%の賃上げを発表しただけで、30年ぶりの高水準だと満足してしまっている。これでは日本と世界の差は広がる一方。企業は内部留保を増やしている場合ではありません。
教育の現場もお金を使わなければなりません。日本は少子化によって子供の数が減り、1947~49年の第一次ベビーブームに約260万人だった出生数は、今では約80万人になりました。ただしこれは日本に限った話ではなく、欧米の先進国でも子供の数は減り続けています。
子供の数が減ったぶん、教育の質を高めよう。欧米の政府はそう考えました。たとえばフィンランドの公立小学校では1クラスの上限人数を40人から18人に変更。その結果、生徒ひとりひとりに目が届く教育ができるため、子供たちの学力が向上しました。今ではフィンランドは義務教育世界一の国として知られています。
その一方、日本では2021年に35人学級が実現したばかり。子供の数が減ったなら、そのぶん生まれた子供たちを大事に育てようという意識をもっと高めるべきですね。
お金の使い方を知らなければ出世できない
企業で働くビジネスパーソンも、もっとお金を使うべきです。将来や老後への不安が大きく、今から少しでも多くお金を蓄えておかなければならない。その気持ちはよくわかります。でも、今の日本人は将来への不安にあまりにもビビり過ぎ。お金は貯めるものではなく、使うもの。お金を使うことこそが最大の投資なのです。
お金を使わなければ、お金の使い方を覚えられません。たとえば自分が出世し、新しいプロジェクトを任されて大きな予算を与えられた時に、正しいお金の使い方ができますか? そのお金を使ってイノベーションを起こすことができますか? いつかやってくるその日のために、お金の使い方を養っておくことが必要です。
お金を使うと周囲も潤います。現代で“お金をたくさん使う人”といえば、前澤友作さんの名前が思い浮かびます。前澤さんの自家用ジェットや宇宙旅行のおかげで、どれだけの人が利益を上げたでしょうか。前澤さんはお金を使う喜びを味わい、周囲はお金を得る喜びを授かる。お金を使うと、たくさんの人々が幸せになるんですよ。
日本人はもっとお金を使うべき。できれば、若いうちから使ったほうがいい。特に今の若者は本当にお金を使わない。何年か前、私の娘に洋服をせがまれて、一緒に買い物に行きました。娘が洋服を10着ほど選んで、「こんなにたくさん、仕方がないな」と思っていたら、合計で2万円くらい。せっかく親に買ってもらえるのだから、もっと高価なものを選べばいいのに。でも、これが今の若い世代の感覚なんですよ。
日本は本当に貧しくなった。でも、お金を使うことにビビるな。お金を使わなければ日本はもっと貧しくなる。閉塞感ももっともっと強くなる。政府も企業も各個人も、みんなでお金を使いましょう。