俳優、監督、実業家として活躍し、社会活動にも力を注いできた伊勢谷友介。2020年9月、大麻取締法違反で逮捕され、第一線から遠のいていたが、2023年12月に執行猶予期間が明けたのを機に芸能活動を再開した。半生を綴った自叙伝、『自刻像』の発売、そして俳優復帰。再出発を切った今、何を思うのか。後編【前編はコチラ】
死んだように生きていて、何の意味があるのか
2020年9月に大麻取締法違反で逮捕、12月に東京地方裁判所で「懲役1年、執行猶予3年」という判決が下された。身から出た錆とはいえ、これにより伊勢谷友介はすべてを失った。撮影中だった映画や進行中の社会貢献プロジェクトを数多く抱えていたがゆえに、多額の賠償金支払いが生じ、個人事務所の会社を清算。生命保険すら解約して補填するなど、財産の大半をなくし、芸能活動休止によって収入を得る道も断たれた。
「人類が地球に生き残るために」。そんな想いを抱いて2009年に興し、人生を賭して取り組んでいたリバースプロジェクトの活動、そして2019年に自身が発起人として設立したLoohcs(ルークス)高等学院の運営からも、当然退くこととなった。
逮捕された前と後で、何が大きく変わったか。その問いに対する伊勢谷の答えは、「多くの人からの信用を失ったこと」だった。
「社会を変えるためになんとかアプローチしたいと思って、俳優業やリバースプロジェクトなど、できることを精一杯やってきたつもりですが、今回の件でその活動を許されない立場になってしまった。自分のやりたいことができないこの状況は、果たして“生きている”と言えるのかどうか……」
2024年1月26日発売予定の自叙伝『自刻像』のなかで、伊勢谷は判決を受けた後の日々を次のように綴っている。
ああ、俺、まだ生きてるのか――。目覚めるたびに、この身体が生きながらえていることに、ひどく落胆する自分がいた。このまま死んだように生きていて、いったい何の意味があるのか。自分がこの世に存在している理由を探してみても、どこにも見つけられない。
『自刻像』(文藝春秋)
あれから3年の月日が流れたが、伊勢谷はまだその虚無の中にいる。
「以前は自分の幸せなんて後回しでしたけど、今はスノーボードやサーフィンなど、自分の好きなことばかりしています。趣味は、死なないためのルーティーンみたいなものです。毎日楽しいか? もちろん楽しいですよ。自分のことだけ考えていればいいんですから」
そう話すが、その楽しさは自身が本当に望んでいるものなのだろうか。なぜなら、インタビュー中に伊勢谷が何度も口にしたのは、「未来のために」「子供たちのために」「大人がアクションを起こさなければ」という言葉だったからだ。
自分の信念に触発された若者が活躍しているのが嬉しい
「食べることに困らない、医療費がかからないなど、子供が生きやすい社会をつくるのが大人の責任」
「正しい知識を得て、賢くならなければ、想像力は働かない。想像力がないと、自分にとっていいか悪いかだけが判断軸になり、未来のために行動できない。本来、未来を変えるべきは大人なのに、大多数の大人がその意識を持っていないことが問題」
「世の中をよくする活動は、お金になりづらい。お金にならないことは価値がないとみなされがちなのが、今の日本。だから親も、子供が稼げる仕事に就くことを望んでしまう。これを含め、成熟していない社会システムを変えなければ、不幸な人が増えるだけ」
そうした話をする時の伊勢谷は熱く、饒舌(じょうぜつ)で、ブレがない。
伊勢谷は逮捕前、リバースプロジェクトに関するインタビューで、「1人ひとりの小さな選択が、いずれ社会を変える大きな流れになる。それができるような仕組みづくりをしていきたい」と語っていた。10年以上の歳月をかけて蒔いた種は、いろいろな場所で芽吹き始めているのではないか。
「以前、学生たちに話したことがあるんですよ。『周りには、お金を稼ぐために仕事をしている大人が多いかもしれない。でも、君たちは、お金を目的とするよりも、自分の命の意味=種の存続である事の為に生きる。その意味でより良い社会になるように、自分で考え、決定し、行動できる、リーダーシップのある人間になってほしい』と。その話に触発されて新しい事業を立ち上げた若者たちが何人もいると聞いた時は、すごく嬉しかったですね」
インタビューの最後、今後やりたいことについて伊勢谷はこう話した。
「環境問題や社会課題を解決しながら、経済成長を目指すのは無理だと、さんざん言われてきました。でも、世界にはそれを成し遂げている国や都市が、実際にあるんです。そうした他国の実像を伝えるドキュメンタリーを、自分の手でつくってみたいなと」
挫折禁止。本当にもうダメだというところに追い詰められるまでは、あきらめずにやり続ける。自分が信じることを諦めない。
自身の座右の銘だというこの言葉を胸に、伊勢谷友介は少しずつ前を向き始めている。